Renovation Interview 2008.8.22
リノベーションのプロセス──歌舞伎町まちづくりの作法
論考]エリアのカルティベーション|新堀学
Page 9/9 «123456789|»

エリアのカルティベーション|新堀学
今回の新宿区の旧四谷第五小学校のリノベーションについてのケースでは、やはりそれが建築物単体の再生を超えて、地域の再生という射程を持っている点が特筆すべきポイントであった。
インタヴューの最後でも「この場所」であるということが戦略的にリソースとして認識されていることが明らかになっている。歴史的な連続性とエリアのなかでの存在性、そして今回誘致された企業のアクティヴィティとが、今後のまちづくりを自ずと誘発していく。タイムライン的なディテールはともかくも、蒔いた種が成長し、なんらかの果実をもたらしてくれるであろう未来の期待を自然と抱かせるプログラムとして評価したい。
今回のインタヴューに参加いただいた橘氏の「アフタヌーンソサイエティ」を率いる清水義次氏の話を、最近別の場所で聞く機会があった。そのときに興味深く聞いたのは「家賃断層」というタームであった。活動的なエリアのすぐ横で、たとえば通り一本へだてただけで家賃の単価が顕著に異なる現象のことなのであるが、この現象をひとつの目印としてこれまでの活動対象を展開してきたということであった。
このように埋もれている潜在的な地域の力を発見し、引き出し、さらに以降の価値を上げる方法として「用途のコンバージョン」+「建築のリノベーション」というソフトとハード両面の介入を考えるやり方は、欧米などで見られる、資産自体へ直接投資して、対投資効果を目標とする考え方とは実は根本的に異なるのではないだろうか。
前者が、土地を吟味して適切な作物を育成し、風土を形成していく「農耕的な」リノベーションプログラムだとすれば、後者は猟場を探し、消費すると移動していく「狩猟的な」リノベーションプロジェクトだと表現してもよいのではないか。この二つの違いは、リノベーションを考えるときの主体とミッションの捉え方の違いとして、またリノベーションという行為が向かう価値認識の射程の違いとして、今後意識化されるべきものだと感じた。

HOME «123456789|»