Renovation Interview | 2008.8.22 |
リノベーションのプロセス──歌舞伎町まちづくりの作法 | |
[インタヴュー]荒木信雄 聞き手:倉方俊輔 |
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素材としての小学校のイメージ | |
倉方俊輔 | この建物に入ってすぐに、ビルディングタイプの転用というコンセプトがスッと伝わってきました。 なにに価値を見出してなにを継承していくかということを考えたとき、モダニズム建築を保存したり、リノベーションしたりすることは難しい問題だと正直、思います。装飾的細部があるわけでもないし、訪れれば空間それぞれの違いを体感できるのだけれど、見た目だけでは一般の建物と大差なくも感じられてしまう。しかし、ここではビルディングタイプの転換を介して、見事な再生がなされていると感じました。 まずはDOCOMOMO100選に選ばれていることで、なんらかの提案や要望はあったのかということ。それから、地域のなかで、この建物のもつ意味をどのように反映させたのかということをお聞かせください。 |
荒木信雄 | DOCOMOMOに選ばれているからということで、直接的な要望などはなかったのですが、それよりも近隣の方々がこの建物を大切に思っているということが伝わってきましたから、それに応えなければという思いでした。 皆さん、この建物に対する正確な知識があるわけではないのですが、「どうも由緒ある建物らしい」とか、「有名な建物らしい」という共通の意識があるようです。僕たちがこの建物についてリサーチしているときも、卒業生が「ブルーノ・タウトという人が見に来たことがある」と言っていましたから、建物に対する意識は高いのかもしれません。 区の担当者にも、「これは結構いい建築らしいから設計がんばってください」と言われたりしました。これは僕の描いていた歌舞伎町(新宿区)のイメージとは逆でしたから、すばらしいなと思ったわけです。新宿区もわりと大事にしているようでしたね。中庭は自転車置き場になっていましたが(笑)。 使われ方はともかく、オフィスへの転用が決まった段階で、致命的な改変はされていませんでした。もちろんオリジナルと比べると、サッシ枠などの細部は異なっているのですが、空間のヴォリューム感などの、五感ではなく、第六感で感じるような、気持ちを揺るがすなにかは残っていると感じたのです。ですから、今回そこは死守しようと思いました。逆に言うと、そのくらいしか今回僕たちが貢献できるところはなかったかなと思います。 完成後に吉本興業さんが卒業生の方たちを招待したのですが、みんな懐かしいと言ってくださいました。そういった懐かしさを感じる部分がきちんと残せたということが確認できて、ホッとしましたね。 |
荒木信雄氏 | |
倉方 | 私も新宿といえば、デザインの価値観が低いというイメージをどうも抱いてしまいますが、「おらが村の〜」という価値観があって、卒業生たちも気に掛けているというのは、うれしい驚きです。 |
荒木 | そうなんです。もし、建物に対してまったく愛のない状況だったら、僕たちも暖簾に腕押しですよね。一生懸命保存と新しいデザインのせめぎ合いを考えているときに、どうでもいいやなどと思われていては、やりがいもないですよね。今回は幸いにも吉本興業さんが意識的だったので、最初の段階からすでにいいフィニッシュができると思っていました。 |
倉方 | デザインのせめぎ合いとは具体的にどういうところですか? |
荒木 | たとえば、廊下と教室のあいだの壁をなくしたのですが、これは会社をいろんな意味でサーキュレーションする考え方です。 いままで吉本興業さんは神保町(千代田区)にオフィスがあったのですが、8階建てのビルの各階に別々の部署が配置されていたり、別のビルだったり、社員の方の動きはほぼ上下運動で、接触する人は限定されていたと思います。もちろん、それぞれの一長一短はあると思いますが、ほかの部署の人とは何日も会わないということもあったと思います。 しかし今回の建物では否が応でも平面的にグルグル回らないといけない。人と人が出会うことを肯定的にとらえようとしました。そこはよかったと言ってもらっています。今まで顔を合わせなかった人たちとも出会うことで、会社のコミュニケーションやコンセンサスの取り方がスムーズになる。結果的には会社の運営上プラスに働いていると思います。 そのことも含めて、会社のシステムと学校のシステムは合致するところがあると感じましたね。こまかなプログラムは違うかもしれませんが、例えば、社員の管理と児童の管理、社員同士の交流と児童同士の交流のように、共通点はたくさんあります。またもっと単純に、小学校は楽しいところだという思いと経験が、会社の経験にうまく重なって成功していると思います。 壁をなくしたもうひとつの理由ですが、数年後に会社の規模がどうなっているかというのは予測が難しい問題です。ですから、できるだけオープンにしてフレキシビリティをあげたいと考えました。壁が必要になればそのときに乾式でつくって、いらなくなったら取り払ってもらおうと。また、部屋の真ん中に簡単に動かせないコンクリートの壁やブレースがあると使い勝手が悪いので、外壁側に耐震ブレース(構造体)をつくることにしました。耐震のためには建築を極力軽くするというのが素直な解法だと思いましたので、贅肉は取り除いて乾式で軽くしていこうという考えですが、この考えは今回みたいなRCの構造への処置としては良かったのではないかと思っています。 |
倉方 | モダニズムのラーメン構造は、それが気持ちよくて素晴らしい。窓は広いし、フレキシビリティもあるし、すごい発明なんだということが、改修後の建物に触れることでいっそう伝わってきました。 |
荒木 | おそらくいろいろな諸条件をジャッジしたときの設計者の判断の積み重ねでできたのでしょうね。いきなり出てきた構造ではないと思います。» |
廊下 |
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