Renovation Interview | 2008.8.22 |
リノベーションのプロセス──歌舞伎町まちづくりの作法 | |
[座談会]平井光雄×橘昌邦×林尚恒 進行:倉方俊輔+新堀学 | |
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これからのヴィジョン | |
倉方 | 喜兵衛プロジェクトのなかで、この建物の位置づけはどのようなものだとお考えですか? |
橘 | ひとつはイメージですかね。歌舞伎町に対してイメージが変わってくると思います。これまで歌舞伎町は特に情報発信力が弱すぎました。どこの行政さんも同じでしょうが、効果的な情報発信があまりうまくできないんですね。そういった意味で情報発信源を自らお持ちになっていて、しかもイメージがこれだけ強い吉本さんにきてもらえたというのは喜兵衛プロジェクトにとっては願ってもないことです。 もうひとつは経済効果です。吉本さんはおよそ400人ですが、それ以上の方が出入りしていますので、これによって起こってくる周辺への影響というのは、計り知れないものがあるだろうと思います。 街の人も目の色が変わってきていまして、イヴェントなんかもできる限り協力したいという声もあがり、そのなかでいろいろ話が出始めています。吉本さんをきっかけにして地域がより連携していく方向に発展してきたような気がします。 また、大規模な企業さんが参加しやすくなった気がします。いままでもこれらの方々はいらしていたのですが、オブザーバー的な立場の方が多かったわけです。吉本さんは、しっかり活動していただいておりますので、よい影響が出ていると思います。 |
林 | 吉本は7月から大久保公園でイヴェントをやります。駅と大久保公園のあいだでタレントにゴミ拾いしてもらいながら会場案内もしてもらったりとか、町内の事業者の方とも連動してチケットを売ったりとか、そんなことをしながら地域貢献っていうのも結構うまくいくんじゃないかなって気がしています。うまくいけば新宿区はハッピーだと思いますし、われわれも役立てているのであれば嬉しいですからね。 |
食堂 | |
新堀 | その大久保公園のイヴェントに見られるような、喜兵衛プロジェクトという地域のイニシアティヴと吉本興業というコーポレートセクターとのより親密な連携ということは今後もありますか。 |
橘 | 新宿エリアで1,000人規模の劇場をお持ちになりたいというお話を伺っています。そこにうまくつなげたいていきたいと思っています。できれば歌舞伎町のなかで実現していただきたいですね。そうなれば、さらにダイレクトに都市と繋がっていくと思います。 リノベーションといっても建物だけではなく、街全体のリノベーションが大事なんです。そのプロセスとして、まず、力のある人や企業が街に入ってくる。すると、彼らに吸引されるようにこれまで歌舞伎町にはあまりいなかったタイプの人々や企業が集まってくる。日常的に街を歩いている人の顔ぶれが変化するというのは、建物以上に大事な要素です。もちろん、そのプロセスでは必ず彼らが活動するための空間が必要になってきます。街のリノベーションのプロセスはこのような順序なんです。 |
新堀 | コンテンツが大事ということですね。そういう意味で人の活動が主導して街を動かすというかたちは大事だと思います。具体的などこがどうだというわけではないですが、公共の文化施設などで通常まずハコモノができてしまって、後からそれを使う人や運営する人が苦労しているケースも結構あります。それに対して、ここではそれを使う人、動かす人が先にあるという状況はすごく正しいと思います。 |
新堀学氏 | |
林 | 1,000人規模の劇場ができて、それをみるために人が集まってくる、そしてその人たちのための店ができて、「あれ? 街がなんか変わってきたな」というのがたぶん喜兵衛プロジェクトの理想かもしれないですよね。今後の展開は、たぶんそういう感じになると思いますよ。 |
平井 | コンテンツや中身を変えていくことによって街は変わっていくので、林さんの話のような街づくりのほうが正しいのかなと思いますよね。 街全体として見た時に、これから10年間の話で言うと、副都心線が開通して、だいぶ街の様子が変わってくるでしょう。そういった時にここの位置づけがどうなるのかということも考えなければならない。明治通りを軸として、この周辺がどうなるのか。吉本さんが来たということとともに、このあたりがどのように変わっていくのかも考えていくべきだと思っています。 |
新堀 | そういう都市の生態の変化を誘発するオペレーションということも含めて、ここはいろいろな意味で考えさせられるテストケースですよね。今後も継続して見ていきたいと思います。 |
林 | 例えば僕らは、町内会からなにかイヴェントできませんかとか電話があれば、安く受けたりしていて、そういう話を月1,2件はやっているんです。それも街づくりのきっかけになるんですよね。漫才教室や体験型のワークショップをしていますが、よい波及効果を生むのではないかと思っています。地域活性化に小さいながらも貢献していたり、たまには大きいイヴェントやったりだとか、そういう意味ではすごくいいかたちで、新宿区や周辺の住民に向かいあわせていただいております。» |
2008年6月6日、吉本興業東京本部(旧四谷第五小学校)にて | |
階段室 | |
平井光雄 Mitsuo HIRAI 新宿区区長室 特命プロジェクト推進課長 橘昌邦 Masakuni TACHIBANA 株式会社アフタヌーンソサエティ所属 林尚恒 Naotsune HAYASHI 株式会社よしもとアドミニストレーション 総務・人事センター 東京総務人事サポート室 室長 新堀学 Manabu SYNBORI 1964年生。建築家。新堀アトリエ一級建築士事務所主宰。作品=《北鎌倉明月院桂橋》《笹岡の家》《小金井の家》《天真館東京本部道場》。著書=『リノベーションスタディーズ』。共著=『リノベーションの現場』『建築再生の進め方』(2008年都市住宅学会賞著作賞)。2007年第一回リスボン建築トリエンナーレ日本チーム参加出展。 倉方俊輔 Shunsuke KURAKATA 1971年生。建築史家。著書=『吉阪隆正とル・コルビュジエ』。共著=『伊東忠太を知っていますか』『吉阪隆正の迷宮』『ル・コルビュジエのインド』ほか。 |
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