Renovation Interview 2008.8.22
リノベーションのプロセス──歌舞伎町まちづくりの作法
[座談会]平井光雄×橘昌邦×林尚恒 進行:倉方俊輔+新堀学
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小学校のリノベーション、その特性
倉方 建物が別の用途になるということは、ビルディングタイプを超えて、前の特徴を活かすかたちで使っていくということだと思います。橘さんは、廃校になった小学校の再利用という視点で見たとき、ここの特異性はどんな点だとお考えですか。
ひとつは吉本さんから話を聞いているなかで、テーマのひとつとして吉本社内でのコミュニケーションをどう高めていくかという話がありました。このあたりは設計された荒木信雄さんからお話しを伺っていただいたほうがいいと思いますが、たとえば、廊下と教室の境の壁を取り除くことで教室空間が拡がるとともに、廊下が各教室をシームレスに繋ぐ空間になりました。
その結果、建物全体が非常に繋がりの良い空間になっていると思います。一般的な上下方向に長いオフィスビルに比べて、横方向に繋がっている空間ですので、密なコミュニケーションが期待できます。そういった部分にうまく小学校というビルディングタイプのよさが出ているのではないかなと思っています。
あとは中庭でしょうね。中庭から社内全体がほとんど見渡せるんですよね。これはあまりないでしょうね。
中庭
新堀学 建築に関心のある人たちにとって、この建物は、DOCOMOMO100選に選ばれるほど価値のあるものと捉えられています。それを踏まえてこの建物に手を入れるのは緊張することだったと思いますが、ここでは大事なものを触っちゃいけないとか、箱に入れて大切にしなければならないといったことに過度に縛られない、絶妙な距離感で計画されていると思います。
改修では、各場面でなにが大事かという判断を誰かがしなくてはいけない訳ですが、建築家の判断だけでなく、それを了承するクライントにも理解がなければならないはずだと考えます。
今回、これが歴史的に価値があるとか、専門家に評価されていることが、チームの方針に影響をあたえたことはありましたか。
平井 この小学校は、震災復興小学校の流れを汲む、当時としては最新設備で建築的にも価値があり、東洋一の学校と言われた学校です。そういった意味で、この建物の校舎はなるべく残して欲しいという意向が結構強かった。それは意識しましたね。
通常の建築なら周辺住民への説明がありますが、ここの場合は、同窓生も来ていただいてご説明して、またお披露目の時も皆さんに来ていただいたほどです。
平井 内覧会でも地元の人や卒業生がいらしてましたが、結構、皆さん喜んで帰られますよね。
倉方 吉本としては、これが文化財というか、当時の日本の全国の小学校のなかでも一番モダンなデザインだったってことはなんとなく頭にありましたか。
いくらかは意識しましたね。閉校のままだと壊される建物ですから、それに対してどの部分に費用をつけていくかというところでですね。耐震補強なのか、設備なのか、デザインなのか。設計の荒木さんにたくさんアドヴァイスをいただいたので、そうした当時の優れていたところがよみがえっているのではないかと思いますけどね。
でもやはり、はじめに見た自転車が置かれている光景のインパクトは強かったですね、物置じゃないですか。ただ、荒木さんにいろいろ調べていただいて、徐々にこの建物について知ることができたという感じです。
倉方 古いものを単に老朽化していると見下すか、エイジングした飲み時のワインみたいなものとして高く買うかというのは、見方の問題だと思うんです。
いいものを知らずに頭だけで判断すると老朽化したものと結論づけてしまうわけですよね。築70年の学校に入ると聞いたら、そんな老朽化したところととらえがちですが、実際のいい使われ方に触れると、やっぱり味わいがあって結構だという声も出てくるはずです。
良いものを見たことがある人とない人とでは、とらえ方が違うでしょう。それは建築の専門家であるかどうかではなしに、ほとんど直感的に感じられるものだと思います。観念的な判断をつくがえす上でも、こうした成功例が存在していることは、とても重要だと思うのです。»
倉方俊輔氏

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