FORUM No.06(2007.3.19)
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松村秀一 |
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LECTURE
松村秀一 01「200年住宅」の問題点 |
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LECTURE01 「200年住宅」の問題点 松村秀一──「200年住宅」は、去年の夏頃、自民党が発表した政策テーマで、今年2月に、元官房長官の福田康夫さんが座長を務めていらっしゃる勉強会から、「200年住宅」についての講演を頼まれました。今日はその時の講演内容を少し膨らませてお話します。
日本の住宅の特殊性 「200年住宅」がテーマになる背景には日本の住宅の寿命が短いことがあるかと思います。2、3週間前、研究室にある一般向け雑誌の記者から電話がかかってきて、「日本の住宅の寿命が短いと言われますが、こういう理由で短いのでしょうね」という確認的な取材を受けました。僕は寿命が短いと吹聴しても仕方ないし、そういうことを記事にしても意味がないからと、違う話をしたのですが、結果的にその雑誌を見ると、10分ぐらい話したうちの5秒ぐらいだけが彼の書きたいストーリーを補強するために使われていました。これは日本の住宅の寿命に関するある種の先入観の表れの典型的な例です。僕は、もし日本の住宅の寿命が短いとしたら、何故なのかを考える必要があると話したわけです。ものとして粗悪だから他の国の住宅と比べて短命なので建て替えないといけないのかというと明らかに「ノー」です。僕は工業化住宅を研究テーマの一つにしてきたので、こういうことに関心を持つ多くの欧米の研究者を積水ハウスやダイワハウスなどの工場に連れて行ったことがあります。すると必ずどの調査団も「工場でここまで住宅の部品をつくってしまうとは!」とびっくりするわけです。しかも大量につくっている。あのような巨大住宅メーカーは日本にしか存在していません。例えば積水ハウスもダイワハウスも年間数万戸の住宅をつくっていますが、日本には年間1万戸以上つくっている住宅メーカーが5、6社あるわけです。年間1万戸以上つくっている住宅メーカーがひとつの国に数社存在していること自体が日本以外ではありえません。量に驚くのと同時に、工場でものをつくる仕組み、技術に驚いて、素晴らしいと絶賛していきます。外装材などでも窯業系の外壁材、いわゆるサイディングをあれほど発達させている国は日本だけで、他の国はもっと素朴な素材を使っています。だから素材にもびっくりしている。ただ価格が高いのでまたびっくりして帰っていきますが。価格は別にして、海外では考えられない質の均一性を持ったものをつくっていると勉強しに来るわけです。日本の企業の方、国土交通省や自民党の方の中には、住宅は欧米のほうが進んでいて、日本は粗末な家に暮らしていると今でも思っている方がいるようですが、事実はそうでない。そんな日本の住宅が他国よりも短い年数で取壊されているしたら、別に理由を探さなければならない。例えば「ゆく川の流れは絶えずして」という『方丈記』に代表される精神文化があります。つまり古くから、人生は流れる川のようなもので、片時も止まっていない不定形で、かつ仮のもので、今見えているものはほとんど価値がないという人生観があります。だから人生の価値をわかった人は雨が漏るような庵で友達と酒を飲みながら詩を吟じたりしている、これが到達点であるという価値観があるわけです。こういう古くからある文化が微妙に影響しているのかもしれない。
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