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FORUM No.06(2007.3.19)

松村秀一
「200年住宅」と住宅産業の未来

LECTURE04

新たな産業へと転換する住宅産業

松村──僕は建築学科に属している人間ですから、建築学科で育った人が建築で就業機会を持ってほしいと思います。しかしイタリアのローマ大学の建築の先生には、建築学科が出たからといってみな建築家になる必要はない、それは文学部でたからといってみんな小説家にならないのと一緒でしょうと言われたのですが、イタリアではもうそうなっているみたいです。だけれど日本では建築学科を出たらなんとなく建築関係で生きていく。そこで生きていくためにはビジネスのフィールドがないといけない。そしてビジネスのフィールドとして考えたときに新築はもう希望の持てるフィールドでないことは明らかです。これから新築は減っていきます。そして新築が減ると増改築が自然と増えるかというとそんなことはない。両方とも減っていくというシナリオがあります。すごくトーンダウンして、次々に建築関係の解散パーティが開かれることにもなりかねない(笑)。だからここで頑張らないといけない。つまりこれからは新たな産業だと考えたほうがよいと思います。当面の転換に伴うリスクを低減するための政策が必要ということもありますが、増改築にかける投資は日常的な生活の問題です。家を建てることは完全なハレの儀式ですから、他の日常的な買い物などの消費活動と比べられません。ところがリフォームのためにみんな一生懸命働いて貯金するかというと、それはしません。リフォームは今の生活を少しでも豊かにしたい気持ちに応える方法のひとつにすぎないからです。車を買い替えることや、ジャパネットたかたで40型テレビを思い切って買うことで今の生活は豊かになるかもしれないし、家族4人で100万ぐらい投じて海外に行くことでも豊かになるかもしれない。そういうふうに豊かになる方法は生活の中にたくさんあるわけです。リフォームはそういう選択肢のひとつにすぎないわけです。

他産業との競合

今後決定的なことは、他産業と競争しなければいけないということです。新築は他産業と競争することから全く免れた稀有な市場です。みんな新築するために別の財布を持っていたり、別の仕掛けでお金を借りてきたり、住宅財形貯蓄があったり、国民全員が住宅産業のために財布を別に用意してくれていたわけです。その財布に手を突っ込んでお金を取ってくるのが今までの住宅産業のやり方です。手を突っ込むやつが5、6人いるから競争になったわけですが、基本的にそれは別の財布だから、旅行会社や家財製品の会社、車会社と競う必要がなかったわけです。リフォームはそうではなくて可処分所得から出てくるわけで、そのためにあまり貯金をしません。生活を豊かにしたいのですから、意識としては新たな産業だと考えないと他の産業に負けます。そのために一番重要なことは信用できる業界であることが何より重要で、リフォーム業界は一番信用のない業界であることは間違いありません。世間の評価としてリフォームは怪しいと思われています。リフォームはいくらかかるかわからないという不安があるわけです。ずるずる増えて最初の予算と違って結局350万になってしまったというような話がよくあります。だから今の信用を回復しなくてはならない。 今後競争していくであろう他産業の費用対効果ははっきりイメージしやすい。海外旅行にしても、家具を買うにしても、これだけのお金を出したらどういう結果が得られるかがわかります。それに対しリフォームは300万出したらどれほど豊かになるかを家族で共有できないわけです。車だと300万の車はこれだよと乗ってみたりして、300万の豊かさはこれだということを共有でき、だから300万出してもよい、となるわけですがリフォームはそうはいかない。 つまり新たな産業への転換が必要です。当面の転換に伴うリスクを低減するための政策がないとうまく産業転換できません。例えば、従来金融公庫で住宅に対する利子補給してきた融資をリフォームに対してもう少し考えてあげることも必要かもしれない。それから役所への届出をいかに円滑にするかを考えないといけない。実は耐震補強しないとリフォームできないことがあるかもしれない。竣工時の図面を持ってきてくださいと言われても、ほとんどの場合もってないので、それに応えるために新に図面つくらないといけない。ちょっとしたビルになると図面をつくるだけで数百万かかるわけです。図面がないと大きなリフォームをしてはいけないことになると、届出を必要としないちょっとしたリフォームしか動かないわけです。それではダメです。「ないから建てたい」という需要から「あるけれど何とかしたい」という需要に変わるわけですから、大きく転換する生活者ニーズに応える産業になる必要があります。そのためには、信頼性が高く、既存住宅の安価な診断評価技術がどうしても必要です。「何をすればよいのか」かができるだけ早く、誰にでもわかるかたちで安く判断できるような技術、これらがキーポイントになると多くの人が考えているでしょうし、私もそう思います。

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