INAX住宅産業フォーラム INAXE´tE´HA°[E´a^E´A¨E´VE´a¨A°[E´Y
FORUM No.01 (2006.6.19)

野辺公一
市場における工務店という存在──地域マスター工務店登録運動の軌跡

SESSION02

マスター工務店で目指すもの

松村──僕らも住宅生産の問題を研究するときに、大きな住宅メーカーから入って、地域ビルダーにいくのですが、工務店になるとすべてを社長がやっている。よい工務店の社長はよくしゃべる(笑)。そういう社長は本当に面白い。僕の研究室でも多くの学生が工務店研究をやっていて、工務店にインタビューやヒアリングにいくと徹底的に叩き込まれて、最後は酒までおごってもらい、帰ってくると「工務店はいいですね」と言う(笑)。ただいいことは言っているのだけれど、建てているものを見るとがっかりする時がある。そういうものは減っているんでしょうか。

野辺──それは変わりないかもしれませんが、面白いのは今のマスター工務店もそうだと思いますが、50代から下の人たちは基本的に技能型で、大工出身の工務店は少数派。今や8割以上は建築学科や専門学校を出ていて(必ずしもこうした教育がまともとは思っていませんが)ある種の建築に対する思考力をもっていますから、設計・デザインの能力をもつ工務店も多いですね。

松井剛──NAHBがホームビルダーの信用を担っていて、誇りの源泉になっているというお話がありましたが、この点については野辺さんがなさっている運動ではどのようになっているのでしょうか?

松井剛松井剛氏

野辺──組織は内的なメリットだけでは意味がなくて、そこに属していることが誇りやステータスになるものではなければだめだと思ってきました。マスター工務店でそれをやろうとしたのですが、情報の開示が義務だということがなかなか理解されない。マスター工務店に登録するメリットは何ですかと必ず聞かれますが、僕はメリットはありませんと言います。営業にならないのだったらいらないと言う人もいますが、それはいいのです。そういう人たちは先ほどの記入シートに書けないからです。もっと内容を低くおさえようと思ったのですが、そうすると「快傑ホームズ」とどこが違うんだということになる(笑)。ネット上での工務店登録数で一番多いグループは松下電工で約5,000、「快傑ホームズ」が約1,500、トステムで8,000くらいだったと思いますが、トステムのなどは名前が乗っているだけ、といったレベルです。数が多ればいいというもんじゃないんです。あっ、そうか。ここはトステムとは親密なんでしたね。
調べていくとインチキなものがたくさんある。また、工務店を紹介する、というだけで金をとるビジネスもある。そうして、結果として工務店に無駄な合い見積もりをさせるような馬鹿な紹介ビジネスが成立している。
そういう組織はだめだと思っていて、顧客に対して示せる一定の基準値のなかで情報開示できるシステムが存在すれば、顧客にとってこれほどのメリットはないだろうという発想が第一です。

松井──かなりハードルの高いことをわざわざやるわけです。その場合、必ずしもメリットが明確ではない。わざわざそんなことをやるがゆえに、工務店が自らの振る舞いを律したり、営業スタイルが変わるなど、好ましい影響は出ているのでしょうか?

野辺──情報開示で嘘をついていると、ペナルティとしてホームページで公開するようにしています。ですからそれが自己抑制になって、あまり難しいことは書けない。ただ理念的すぎる部分はあると思います。マスター工務店の登録数を増やすのならば、マスター工務店登録でのきちんとしたビジネスモデルをもち、マスター工務店の事務局自身が儲けて、そこで別なニュースを還元するとかいろいろなことを活発にやるべきだったのでしょうが、かなり禁欲的にやってしまった。
もうひとつ初期に間違えたのは、登録する工務店の売り上げや棟数の実績も五カ年書いてもらっていたのですが、結果として市場が縮小していますから、右肩下か横ばいです。右肩下がりの成績など顧客に対して公表したくないわけです。連絡会議の委員の一人である青木工務店の青木宏之さんからは、これを登録条件にしたら誰も登録しない、と言われたのですが、無謀でした。住まい手にとっても意味のあることではなかったんですね。経営アンケート調査のような内容では意味がなかったんです。

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