INAX住宅産業フォーラム INAXE´tE´HA°[E´a^E´A¨E´VE´a¨A°[E´Y
FORUM No.01 (2006.6.19)

野辺公一
市場における工務店という存在──地域マスター工務店登録運動の軌跡

SESSION01

工務店の可能性

松村秀一──野辺さんとは25年前からのお付き合いなのですが、その頃は僕は博士課程の学生で、積水ハイムを開発した大野勝彦さん、野辺さんたちと地域ビルダー研究会をやっていました。大手住宅メーカーも小さな工務店も頑張ってはいるけれど、年間100戸から200戸のスケールでやっている各地域のナンバーワンビルダーを組織化して、大きなところにも小さなところにもできないことをやる新しい業態イメージをつくろうとして、勉強会をやっていたわけです。その経験からの質問なのですが、マスター工務店制度やSAREX(住環境価値向上事業協同組合)という優良工務店の集まりの組織化を野辺さんはずっとやってこられていますが、それはなぜなのか。つまり地域ビルダーよりも中小規模の工務店にこれからの住宅産業の担い手として可能性を感じた瞬間や、これがあるからやめられない、といった理由のようなものを教えていただければと思います。

松村秀一松村秀一氏

野辺公一──松村さんとやっていたビルダー研究会はバブルの前で、最終的には公団の土地が安く手に入って、まちづくり・家づくりを成果として終わってしまいました。僕らは、当時、工務店は「三次流通店」的な状況に陥っており、自ら部品づくりやまちづくりに関わる手法を保持していない、という分析をしていました。そこで、大野勝彦さんが「地域ビルダー」という概念を提示し、部品づくりからまちづくりまで一貫して担う業態整備を考えたわけです。それを実践化するということからビルダー型木造住宅研究会をやりました。地域における年間30棟以上で住宅生産・供給機能として完結するような仕組みの業態をイメージしていたのです。
しかし、現実的には大野さんのそして僕の考えた地域ビルダーは、理念の中にしか存在しなかった。あるは、むしろきちんとした工務店のほうがそうした「地域ビルダー」的な存在に転換してきた、ということができます。
行政用語としても「地域ビルダー」という言葉は定着しましたが、それらは結果として、不動産を絡めた集約生産的な家づくりをするような業態になり、住環境つまり、まちに対して刺激剤となるような仕組みを保持することはなかったわけす。
本当は、このビルダーと建築家の共同戦線という可能性がもうひとつの実験として残っていましたが、もはや状況は別のほうへ移ってしまった。バブルが始まったからです。また、理念がなかったからです。規模拡大の理屈はもっていましたが、地域に存在するという理念をビルダーは結局もちえない、という感じです。
そうした、僕らが考えた地域ビルダーという存在が、バブルを経て、IT革命を経て、規模ということの意味が相対化するなかで、工務店のなかに地域ビルダーとしての可能性を見出すことができるようになっています。
まず大工の技能が前提なのですが、彼らをどれだけ活用してオリジナルな部品をつくれるか、という点は追求されています。もちろんプレカットも活用しますが、ある種の自在性をもっていて、それが住宅の生産社会の中で一番面白いところにいると思います。ヨーロッパなどを見ていると手作りも工業化も最終コストは同じ、といったバランス点があります。住まい手がそれをどう見るのかにかかっていて、やはり住宅展示場にあるような家ではいやだ、工務店と一緒に考えたいという人たちが存在していることもおもしろい。
それから工務店のおやじたちの存在が面白くて、彼らは24時間住宅の議論をしています。例えばアスベスト問題をどうするかとか、どんどん追求していく。工務店のタイプを追随型、追求型、運動型にわけているのですが、例えばINAXのようなところがつくってくれた部品の性能やブランドや提案ソフトにのって顧客に訴求していくのが追随型です。これは否定しているわけではなくて、工務店は必ずこういう追随型の部分をもっています。
追求型は、いまで言えば環境とかエコとかを訴求ポイントとして、自社の知見をぐんぐん押し出すタイプですね。皆さんの馴染みで言えば高断熱、高気密の住宅の性能をコンマ単位で追求していくものです。
運動型は、社内運動型と社会運動型とにわかれます。社内運動型は、例えば定期点検などをイベント的に展開し、地域での工務店の役割を訴求する。また社会運動型は、例えば近山運動(近くの山の木で家をつくる運動)のようなもので社会的セクターとつながりながら、自分たちのやっている仕事の位置づけを明確にし、顧客に対するアピール度を強めている。
いずれにしても、工務店は技能型から技術型へ、そして現在はそうした自分たちの技能・技術を顧客に対して価値として「転換」し表出する力をもった工務店、これを僕は「知術型」工務店と呼んでいますが、そうした工務店が、新しい地域ビルダーモデルになっている、と考えています。
現在SAREXという工務店の協同組合の伴走者として、藤澤好一先生と一緒に面倒をみていますが、その運動性が面白い。地域ビルダーの研究で盛り上がって挫折したという経緯があって、地域ビルダーの本質をもっているのは、僕らの知っている優秀な工務店たちが現在、それをもっていると思います。

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