INAX住宅産業フォーラム INAXE´tE´HA°[E´a^E´A¨E´VE´a¨A°[E´Y
FORUM No.01 (2006.6.19)

野辺公一
市場における工務店という存在──地域マスター工務店登録運動の軌跡

LECTURE02

住宅需要ファンタジーの崩壊

工務店が変わらざるをえなくなった最大の理由のひとつは、住宅需要ファンタジーの崩壊です[fig.2-01]。1990年までは今後も出生率は一定で1.25人を切ることはないと思われていた。そして「サラリーマン+専業主婦+子ども2人」という標準家族と言われる世帯が全マーケットの30パーセントくらいしかありません。団塊世代から少し下の年齢層までが専業主婦という形で存在していて、以降はほとんどサラリーマン+キャリアウーマンの夫婦に子供が1人という世帯が25パーセントくらいです。残りの50パーセントは夫婦だけの世帯や単身世帯で、いわゆる標準家族という概念がなくなってきています。そうすると住宅づくりの訴求ポイントとしては、従来のように団欒、リビングを強調すればよいということだけではなくなっています。個別消費スタイルといったものを空間要素として、あるいは設備部品的な要素として取り込むとか、そうしたことも意識せざるをえなくなってきました。また、かつては所得が上昇するという前提が存在していたから、住まい手も住宅価格が少し高くても気にしなかったけれど、これも崩壊し、住宅投資の意識は大きく二極化し始めています。

fig.2-01

住宅市場での経営ファンタジーの崩壊

もうひとつ、工務店経営のファンタジーも崩壊しました。これまでは土地本位制によって借り入れ枠、与信枠は安定していたのですが、今や土地を担保に借りられる額は全盛期の3分の1以下になっています。つまり借り入れ枠は基本的に縮小している。客単価、粗利益は勝手に上がると思っていたらとんでもない。相当努力しないと、どんどん落ちていくことにやっと気づいた。おこぼれも含めて、新築需要はそれなりにあり、ついでリフォームもあると思われていたわけですが、それもだめです。成長神話が壊れているという現実はあるのですが、なんとなくみなファンタジーを見ていたわけです。

fig.2-02

ファンタジー終焉時代の中で

ではファンタジーの終焉で何が起きたのか。ひとつは情報競合です。例えば高断熱・高機密という性能を競い合うのですが、さまざまな仕組みはあるけれど、性能そのものはそう大きな違いはない。訴求上の情報競合が発生します。
また、VC加盟工務店などでは、同一顧客にVCがつくってくれたカタログを数社の工務店が一斉に送りつける。そうすると、顧客側は「何? これ」ということになって、却ってVCのカタログではなく、自社オリジナルな訴えをしている工務店のほうが受注できるという皮肉な事態が発生しています。そういう情報競合という形が起こっています。
図03がFC、VC、協同組合のボリュームを調べたものですが、平成12年は品確法が導入された年です。この年前後にいろいろな形でのグループ化やネットワーク化が進行していきます。これは、もう工務店の経営者の単独対応が実に困難化していることを示してもいます。いろいろな形で情報や新たな法的対応のノウハウを知らないと経営リスクが高くなる。あるいは顧客の情報力についていけない、という時代になってきた。そうしたニーズをついてこういう形で工務店を巡るいろいろなグループ化が増えていく状況を見ることができます。
その場合どのようなサービス機能が担われたのかという点について「工務店グループ本部機能別類型マップ」で説明します[fig.2-04]。当初パネル、プレカット、部材供給、部材の共同購買と言われていましたが、ほとんど今では意味がありません。例えば共同購買の場合、誰があるロットのリスクを担うのかという問題と、既存の流通業者が「うちならこの値段です」という形で切り崩しにかかり、なかなかうまくいかない。したがって設計、性能と結びついて、ある性能を担保するためにこのパネルをつくる、という形ですが、これがI型です。これにさらに付け加わってきたのがII型で、マネージメントノウハウの機能が加わります。例えば、粗利益が工務店は35パーセントとれますとか、30パーセントとるためには何が必要かを訴えるわけです。営業力がないことを徹底的に言い続けて、営業力を強化するためのPRサポートやホームページ作成の支援をするものが出てくる。これもほとんどフランチャイズの誘い言葉で出てくるコストダウンのノウハウといったものをサービスシステムとして与えるのがII型。III型はそのすべてを含み、このあたりが一般的なシステムです。もうひとつが最近出てきた、金融・保証等のサポートサービスで、これはエスクロー・システムや、民間系機関が金融・保証等をパッケージングするという仕組みをつくり始めています。V型がそのすべてを含んだ仕組みで、実は工務店として存在するためには、これらの仕組みを何らかの形で保持していく必要があります。こうした要素をもっていないとこの市場の中で持続することが難しいという時代状況になってきました。

fig.2-03

どのような住宅を選びたいか

ではユーザーはどのように考えているのか、という問題です。大臣官房がやった「森林と緑に関する世論調査」では特徴的なことが出てきました[fig.2-04]。平成11年と15年を比較してみると、30代は11年では45パーセントが在来工法がよいといっていましたが、15年になると38パーセントに減少しています。40代も6割から5割を切っている。50代も11年では8割近くが在来木造を希望していたけれど、15年になると65パーセントになっています。唯一増えているのが20代で31パーセントから38パーセントになっている。在来工法は基本的には工務店のジャンルです。全体的には耐震や防火といったハードの性能のイメージシェアが非在来系で高くなっている、という部分もあり在来から他に移行している、という感じです。また、洋風のニーズが高まっている、ということもこれらからも見ることができます。
次に供給業者の規模別シェアをみます。「規模別シェアの推移」です[fig.2-05]。年間5戸くらいのクラスの元請大工を小規模工務店が、平成元年には33パーセントのシェアがあったのですけれど、現状は20パーセントです。年間20戸以上の工務店も25パーセントから22パーセントくらいに減っている。伸びたのは年間300戸以上供給しているゾーンです。しかし、ここで大切なことは、大工や工務店は競合で負けたのかというと必ずしもそうではなくて、このゾーンは後継者がいないという問題があります。全建総連の調査で、工務店に「あなたに後継者はいますか、あるいは家業を継続する意思がありますか」という質問をすると6割が「ありません」と答えている。つまり新たな世代交代がドラスティックに進んでいると思ったほうがいい。また工務店という枠組みも規模だけでは捉えられないのですが、規模という側面ではこういう状況になっています。

fig.2-04

fig.2-05

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