プロローグセッション

▲田村誠邦氏

●急増する老朽化マンション
ここ数年、マンションの建替え問題が非常に注目されています[fig.1-01]。とにかく老朽化マンションのストックが急激に増えているためです[fig.1-02]

fig.1-01 マンションの建て替えをめぐる最近の動向
fig.1-02 急増する老朽化マンションストック

建替えをめぐる現状と課題を見ていく時に、築30年というのが一つの目安なんですが、30年を超えたストックが非常に増えています。そうした中で円滑化法の制定と区分所有法の改正がなされました。まず、国土交通省のマンション建替え円滑化方策委員会の報告では、2001年末時点で約400万戸のマンションストックがあり、約1000万人が住んでいます。そのうち、築後30年を超えるマンションストックは17万戸で、10年後(2011年)には約100万戸になります。今後、放っておくとこれらの老朽化マンションがスラム化し、第二の木造密集問題となってしまうのではないかというおそれがあるわけです。fig.1-03はわが国のマンション供給数とストック数の推移です。棒グラフが毎年の供給数で、ブームの時期もそうでない時期もありますが、ストックとしてはどんどん伸びています。2001年末で築30年を超えるマンションが17万戸といわれても大したことない気がしますが、最近の首都圏だけのデータが手に入りましたのでお見せしたいと思います。fig.1-04は民間会社が調べたデータで、図は1都3県での毎年のマンション供給数の推移です。1965年くらいから始まって75年まで一気に伸びて、その後、オイルショック等の時期に一度減少して、80年代のはじめに再び伸びています。ご存知のように1981年に新耐震設計に切り替わりました。新耐震施行直後の82年のストックは駆け込みの可能性が高いわけですが、81年、82年はかなり大きな供給数です。1975年以前の旧耐震の建物は、2005年の今、築30年を迎えていることになります。2001年のデータから今年までのわずか数年間に大変な数のストックが積み上がっています。
fig.1-03 わが国のマンション供給数とストック数の推移
fig.1-04 首都圏におけるマンション竣工数の推移 「マンションデータサービス」HPより

規模については、今まで問題になってきた築30年を超えるストックは、公団の団地のような建物が多いので平均住戸の数も多いです。ところがその後のマンションブームの頃は、戸数が50戸を切るくらいの小さい建物が多くなりました。95年以降の膨大なストックは、敷地が小さくて建替えても容積に余裕がないものが増えています。fig.1-05は2004年末のストック数です。実は首都圏の一都三県だけで築30年以上のマンションがすでに30万戸あります。しかも、一都三県で今後10年間に築30年以上のストックがさらに約67万戸も増えることになります。これを全部建替えるのは到底無理で、建替えに至るのはこの数パーセントに満たないのではないかという気がします。
fig.1-05 首都圏におけるマンションストックの築年数 「マンションデータサービス」HPより


●わが国のマンションの歩み
日本のマンションの歴史は、1916年頃に鉄筋コンクリート造のアパートができて、26年に同潤会アパートの第1号ができました。求道学舎もこのあたりの古い建物です。その後いわゆる分譲マンションができたのが1951年だそうです。ところがその頃は何の法律もなくて、62年にようやく区分所有法が成立しました。その後、欠陥マンションの問題や日照問題などが起きています。83年に区分所有法が改正されて、実はここではじめて建替え決議第62条ができました。要するに、マンションはいずれ建替えを考えなければいけないという認識が生まれたのが80年代のこの時期です。その後何回かのマンションブームがあって、95年に阪神淡路大震災がありました。この後に品質や管理の適正化等の法律がつくられ、2002年に円滑化法、2003年に一番新しい改正区分所有法が施行されました。
築30年以上のマンションは、今のところ住戸50戸未満のものが多く、設備機器が老朽化、陳腐化していて、4、5階建てマンションのうちエレベーターのないものが大半です。空き住戸がかなりあるほか、賃貸住戸や60歳以上のみの住戸も36%となっています。このあたりは今築30年を迎えるものにかなり共通していると思います。また、建替えについて関心をもっている管理組合が約3分の2にのぼっています[fig.1-06]。では実際に建替えがどのくらい実施されているのかというと、2001年(平成13)の11月現在で集計したデータによると、老朽化に伴うものが69件、被災マンションの再建が108件、棟数でいうと200棟しかないんです[fig.1-07]。これらのほとんどは民間事業者の等価交換方式によるもので、全員同意による建替え事例です。なぜ全員同意が可能であったかというと、もともと容積率に余裕のあったものや再開発等に関連して容積率がアップされたものが大半で、区分所有者の負担はほとんどなく、建替え前と同じ位の面積かもっと広い面積が確保できたからです。ですから、83年の区分所有法改正で、建替え決議による建替えが可能になりましたが、建替え決議を使って実際に建替えられた事例はほとんどなかったということです。
fig.1-06 マンションストックの状況
fig.1-07 建替えをめぐる現状と課題

2004年の11月に完成した「麻布パインクレスト」はおそらく、建替え決議によるマンション建て替えの第一号だと思います。今年5月に完成予定の同潤会江戸川アパートメントはその第二号だと思いますが、今後は敷地や容積率に余裕がないものが多くなって建替えの条件が悪くなっていきます。そうなると全員同意は難しくなるため、5分の4の多数決による建替え決議をやらなければならない[fig.1-08]。そうした場合の課題として、まず初動期の合意形成があげられます。またこれまでは建替え決議の要件がわかりにくかったので、これを明確化していく必要があります。さらに、壊してしまうとマンションは管理組合がなくなってしまうので、建替えの事業主体をどうするかということも課題となってきます。また建替えに参加しない人の権利の買い取りができますが、それをどう実施するのか。関係権利の円滑な移行のために、借家権と抵当権をどう処理するか。そのほか、高齢者等の居住の安定の確保や団地型マンションや既存不適格マンションの問題などいろいろあります。こういうことを踏まえてマンション建替えの円滑化等に関する法律[fig.1-09]と建物の区分所有に関する法律が改正されましたが、既存不適格のマンションの問題については、まだ法的に手が打たれていません。これまでは区分所有法の62条に建替え決議があっても、建替え決議を行なった後どうやって建替えてよいのかわからなかったわけですが、円滑化法にはそれを明確にしようというルールが書かれています。具体的には、建替え組合という事業主体をつくり、その運営や意思決定のルールを明確化することで、全員の同意が得られないようなマンションの建替えを支援していくものとなっています。

fig.1-08
fig.1-09 マンション建替え円滑化法の制定 2002年(平成14)12月18日施行
区分所有法の改正は、大まかに言うと5分の4の賛成で建替えができるという建替え決議の要件緩和をしています[fig.1-10]。従来は老朽化要件というのがあって、建物の維持・修理に過分の費用を要する時に限り5分の4でいいという法律でした。そうすると老朽化しているかどうかを争うことになり、例えば大阪市千里の桜ヶ丘なんかは延々と最高裁まで7年間も争いました。今回の改正で、そういうことをしなくても5分の4の賛成だけでいいということになりました。これは権利者数と権利の割合の両方で5分の4以上の賛成が必要です。それから建替えの際の敷地・使用目的の規制も緩和されました。以前は、同じ敷地で同じ使用目的でなければならない、要するに建替え決議では、隣地を含めた建替えはできなかったわけです。また住宅だけだったものに、一部店舗を入れた建替えをすることもできなかったのですが、それらが緩和されました。

fig.1-10 建物の区分所有に関する法律(区分所有法)の改正 2002年(平成14)12月18日施行
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