プロローグレクチャー
●都市再生――行政に期待できることは何か
難波和彦――都市計画法では用途地域が指定されていますが、工業地帯であろうが準工業地帯であろうがどこでも建てられるのが住宅です。そういう点から見ると、コンバージョンやリノベーションの大きな流れとして、都心居住と職住近接に注目すべきではないかと考えています。なぜそうなのか、まだ明確な根拠を探し出せていないのですが、大まかな方向性についてお話ししてみたいと思います。
現在、都心に巨大な超高層マンションが続々と建設されています。当然、需要があるから建てられている訳ですが、都心の超高層マンションが商売として成り立つのは、実際にそこに住むことが魅力的である以上に、その魅力を投資の対象と見なしているからではないか思います。都心居住が投資になるような経済的な魅力を持っていること自体は悪いことではないのですが、もしそれだけだとしたら、こうした都心居住の動きは都市再生には結びつかないでしょう。でも資本の論理でこの潮流が進んでいくのを押しとどめることはできない。一方に、大資本が建てる巨大な超高層マンションがあるとすると、もう一方には都心のあちこちの弱小ビルが取り残されています。都市が再生するには、これらの弱小ビルをコンバートして都心居住化し職住近接化していくことが非常に重要な条件ではないかと思います。コンパクトシティ(歩ける範囲で用が足せる街)を実現するうえで重要なのは、巨大な超高層ではなく、小さなビルがつくる街並みです。そうしたビルを住まいに変えて住むことと、そこで仕事をすることが結びついた街ができないと、都市再生は実現しないのではないかと思います。しかし弱小ビルは自分だけで再生する資金力はないので、行政がそれに対する補助なり、コンサルティングなりをすることが、都市再生の大きな力になるという気がしています。
大資本の超高層マンションの建設と、小さなペンシルビルや空きオフィスの住まいへのコンバージョンがどういうかたちで結びつくのかはわかりません。ただ公共事業や都市政策を含めた将来の方向性を考えると、資本主義の動きから取り残された下町をもう一度高密度な住居地域に戻し、人々を呼び寄せるようなまちづくりをしていくことが、これからの行政の仕事ではないかと思います。ただ、区のレベルでそういうことができるのかどうか、先ほど松村さんがニューヨークの話をされましたが、ニューヨーク市が補助を出して政策として進めていったということであれば、日本では東京都か区が進めていかないといけないということになるわけですが、そのあたりはどうなのだろうかと思います。大きな流れとして都心居住や都市再生があり、資本の論理が突き進んで行くのと並行して、そこから抜け落ちた部分を行政がすくい上げるという方向性がありえるのかどうか、そのあたりについて原田さんにお聞きしたいと思います。

▲難波和彦氏

原田――ニューオーリンズの例で、地元の方たちが税金を安くするように連邦議会に陳情し、それが認められたという話をしましたが、例えば、コンバージョンしたマンションの場合は、その固定資産税を減免するとか、そういうことはあり得ると思います。実は、区は基本的に平成12年に独立したひとつの市と同じであると制度上はなったのですが、そこで問題なのは、固定資産税と都市計画税が東京都税だということです。港区が通常の市であれば、固定資産税や都市計画税はすべて港区が徴税できるはずですが、東京23区だけはこれらを全部、東京都が扱っています。ということは区が直接はできないわけです。しかし直接、東京都に陳情すれば、コンバージョンしたマンションは3割まけろとか、5年間半額にしろというのも充分あり得ると思います。そういうのはどうすればいいかというと、単純な方法としては、小さなビルを持っているオーナーが集まって陳情書をつくり、都議会議員とか区議会議員を動員して都議会に持ち込めば、私は充分、減免措置を受ける可能性はあると思います。まずひとつはそうした減税です。
それから設計のコンサルティングに補助金を出すとか、共用部分の設備に補助金を出すとか、そういうことは充分できると思います。 また例えば、研究者仲間がグループの名前かあるいは学会の名前で、都心政策のなかでコンバージョンを横断的にやるべきで、そのために設計補助や共有部分の設備の補助が必要だということを先生方が学術的におまとめになって、国に出すとか区議会に出すということは充分あり得る話です。区の行政は陳情がくれば対応するということで動いてますから、これは実現性が高いです。逆に、こういうところでいくら話し合っても区には届きませんが、話し合った中身を区議会に陳情書というかたちで出せば、何らかのかたちで区の方は対応せざるを得ないわけです。そういうかたちでやっていけば、何かしらの補助制度はできていくはずです。
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