●街の盛衰とコンバージョン 松村秀一―私も最初は海外の話から始めて、最後に質問させていただきたいと思います。 よくいろいろなところで話をしている例なのですが、僕自身が空いているオフィスを住宅にするということに関して最初に意識的に見たのは、ニューヨークのロワー・マンハッタン・エリアのコンバージョンです。それもコンバージョンの研究をしている時期ではなくて、超高層ビルをどうやって壊すかということを調べにいったときです。マンハッタンには40階建て以上がセントラルパークより南側だけで140本建っているのに、壊しているのは実は1本だけで、他は壊していなかったんです。それで急遽テーマを変えて、超高層ビルをどうやって使っているのかということで、プロパティマネジメントの会社に話を聞きにいったりしました。そのときニューヨークのマンハッタンにいるある建築家が「松村さん、そういう話だったらニューヨーク市に行って話を聞くと一番面白いですよ。都市計画部長の誰々さんに会うといい」と言うので、行って聞いたのがそのロワー・マンハッタン・エリアの話でした。超高層も含めてオフィスビルの空室率が上がっていて、それを住宅に替えていくことに対して優遇政策を打っているという話だったんですが、優遇政策を始めてから5年くらいでロワー・マンハッタンのエリアにあるオフィスの総床面積の7パーセントがもう住宅になったと1998年当時で言われていました。そのあとコンバージョンの研究をするようになって、資料を集めるうちにわかってきたのは、ロワー・マンハッタン・エリアは、9・11に崩落したワールド・トレード・センターがあり、ウォール・ストリートもあってニューヨークでも一番古い歴史のある場所のひとつですが、そこが90年代あたりからどんどん空室率が上がる、つまり企業が出て行ってしまって、全体的に活力がなくなり、犯罪発生率も上がったために、1995年頃、ロワー・マンハッタン経済再活性化計画をニューヨーク市が打ち出しました。これには大きな項目が4つあって、そのひとつが例えばエネルギー問題で、2つめに新しい産業の誘致というのがあって、そのうちのひとつがコンバージョンだったわけです。先ほど原田さんのお話にあったように、コンバージョンは、単に建物の用途を替える単体の問題というより、ある場合は雇用の問題であったり、ある場合は高齢者に対する福祉の問題であったり、衰退してきた街を再活性化するという意味のものであったりするわけですから、非常に大きな横断的な政策を打つための柱としてコンバージョンが意識されているということがわかったわけです。
もうひとつそれに関連して思い出すのは、大きな政策としてコンバージョンを位置づけなければならないのではないかということに関連してもう一言。例えば、思うのは、東京都のような自治体の住宅政策をどうするかという審議会等では「住宅を何戸建設しましょうか」「ファミリータイプが少ないですよ」「ここの人口が減ってきていますからそこでのに住宅を建設を促進しましょう」といった、住宅だけの話をするのが従来一般的だったと思います。かつてはそれでよかったわけですが、今の審議会では、子育てをどうするのかとか、高齢者の介護がついているのかとか、ひとり世帯の数が増えてきたからこういうサービスが要るのではないかというように、住宅という枠のなかに議論自体が収まらないわけです。ところがそういう議論に関連する質問をすると、それに答えられる人が誰もいなくて「次回までに資料を用意してお答えさせていただきます」ということになって、議論はそこから進まないというようなことがありますわけです。このことに象徴されるように、従来型の縦割り構造のなかで、コンバージョンにはわりと横ラインに雇用対策、高齢者対策、福祉や厚生対策など、いろいろなことが少なからず関連して含まれていて、手段としてコンバージョンを持っていこうという話であるのに対し、まだまだそういう体制になっていないというところがあります。 そんな中で、どちらかというと港区のような現場を持っている自治体が一番期待できるのではないかと思っていましたいます。中央官庁と比べると従来型の縦割り構造が解体してきていて、例えば区長さんの力が発揮できるのではないかと思っていたのですが、先ほどの話を聞いたらそうでもないのかなという気もしました。そのあたりはどうなのでしょうか。実際に行政のなかでおやりになって、横のつながりの可能性はあるのかというような話を伺えればと思います。 ●区政で取り組むコンバージョン | ||