プロローグレクチャー
●リスク配分を考える
難波――先ほど地方都市の話を聞いたのですが、中国とか海外でこういうことをやる可能性はないのですか。

――ないと思います。なぜないかというと、まず一つ目は、資金運用から考えてわれわれ自身に通貨リスクをそこまで負う気はないからです。二つ目は、これをやっていく時に、われわれにはそのベースになる専門性のあるチームがあるからです。専門性のあるチームというのは、日本の都市部の不動産やマーケットに対する知見があるとか、日本の建築基準法に対する知見があるチームで、中国に関してはその専門性がないですから、多分競争力がないと思います。

難波――そういう建築専門のプロジェクトチームの知見の中に、耐震性とか先ほどの床を抜くとかデザインを特性化するというのは、今まで一つのデザイナーのボキャブラリーでしたけれども、これからはもう少しエネルギーの問題なども出てくると思います。そういうものも取り込むというか、個性化の条件に使われていく可能性はありますか。

――今までの住宅は30億円から50億円という投資だったのでそのようなことはあまりやりませんでしたが、ホテル海洋の大きさぐらいになったらやり始めると思います。ただし、われわれがベースにしているのは住宅なので、例えば大規模な商業施設に比べると、大きさが違うので少し優先順位が下がってくると思います。

松村――ホテル海洋の場合、ビルの下の方は緑のイメージで、エネルギー問題とは多少違いますが、環境共生的と言うか、自然との触れ合いというコンセプトですよね。そこでエネルギーまでいくかどうかは難しいのですが、例えば、住宅に投資する時は、高い投資金額を払うということはそれに見合う高い家賃を払って借りる人がいるということですよね。そういうところに入ってくる人たちの感性がどういう方向を向いているかが重要な点です。ここに来る前に都市機構の会議に出てきたのですが、何年かに1回やっているアンケートの最新データで彼ら自身が大変驚いていたのは、例えば「壁が自然素材の土壁のマンションがよいか」という質問に、8割くらいの人が「よい」という答えに○をつけていたということです。自然素材でやるなんて、特殊な物件はともかく都市機構では考えていなかったんですけれども、住んでいる人たちの側では急速に意識が動いている。そういうマーケティングみたいな部門もリプラスにはあるんですか。

――現在のリプラスはそれはまだできていません。ただベースの発想として、われわれはタワー型のマンションはやらないというのがスタートにありました。なぜかと言うと、15年経っても私はあんな雲の上に住むのかと思ってしまう。先ほどの緑の話に通じますが、土に届くほうがいいやと思っていたので、そういうものはやらないということで1棟あたりのポートフォリオのリスク配分を定めるというのがあったんです。ホテル海洋の場合は、転用でホテルに戻すこともありうるので唯一タワーが許される例外的な事例だという考え方をしています。これはどういうことかと言うと、安く買うかどうかはどちらでもいいですし、現在はタワー型にすれば何でも高く売れると思いますが、それよりも、5年先、10年先も安定しているほうがわれわれにとっては価値が高いわけです。それが一つ目です。二つ目は、今、南青山で開発しているものなどは、20年後に一度スケルトンに戻してフロアプランを変える前提では構造を考えて開発しようとしています。それはやはり、ずっと自分たちが保有し続けるのが前提なので、マーケットのニーズが南青山みたいな場所だとどう変わっていくかわからないですから、そのために躯体だけ残していったん全部撤去して、もう一度全部つくり直すことにしています。

▲難波和彦

●都市のヴィジョン
難波――松村さんの話は居住者なりユーザーの個人的な思考の変容ということになると思いますが、最終的に不動産や住まいが価値をもつのは、その環境というか、置かれているいろいろな状況で決まってくると思います。姜さんの話を聞いていると、お金のことをすごく計算してやられているけれども、都市的なヴィジョンもある気がします。その辺はいかがですか。

――はい、ちょっと大きな話も始まっています。うちでは六本木ヒルズを手がけたディベロッパー出身者がプロジェクト・マネジメントをやっていますが、ああいうドーンとでかいオフィスとドーンとでかい住宅棟は、都市のかたちとしてわからないところがあるんです。例えば虎ノ門という場所を考えた時に、平面で考えたら普通は住宅地ではありませんが、垂直に考えると虎ノ門の15階から20階というのは住宅立地だと思います。屋根が総合設計の基本に戻って住宅のふちになり、下はオフィスでも上が住宅になる。ニューヨークもそうですが、そういったものをいくつか組み込んでいこうと思っています。

難波――僕のヴィジョンとまったく同じです。

田村――六本木ヒルズの話が出たのでそれに絡めて言うと、都市再生が話題になっていて、東京全体に六本木ヒルズがいくつもできていくような偏ったイメージができているけれども、多分それは違うだろうという議論がいろいろなところでされています。松村先生もそういう議論をしていると思いますが、結局、今あるものをどう生かしていくかということを含めて、より快適な都市の環境をつくることが求められていると思います。姜さんのチームの方とも少し話したことがあるのですが、キーワードが「気持ちいいものをつくりたい」とか、「面白い」、「やってみたい」という感覚なので、投資をやっているのにすごいことだなという気がしました。投資ファンドというと、どうやればもうかるかとか、短期的なもうけだけを考えているというイメージがあったんですが、そういうスタンスと全然違うかたちで、しかも新築に偏らずに、あるいは単に高く売り抜けるのとも違うかたちで長期的に取り組んでいくという、不動産事業というよりは金融のこういう形態が生まれてきたということは、これからわが国にとって楽しみだという気が改めてしました。

松村――大企業になっていくと、どうなるかわからないですけれどね。

――松村先生がおっしゃるとおりで、リプラスの中では、こういったプロジェクトの位置づけはやっぱりフロンティアです。リプラスという会社は、どちらかというと結構シビアなお金の回収督促をしている会社です。ポートフォリオに組み込んでいる収益物件も、駅前のワンルームとか、どちらかというと安いやつなんです。だけども会社の中で面白くてチャレンジしているプロジェクトは仕組みで動かしていこう、装置にしていこうとしている会社なので、そういうプロジェクトによるフロンティアがないと、こんな若い会社は動かし続けられないです。そういう位置づけは持っています。
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