●資金運用業の立場から
松村――首都圏では、麻布や新宿、三鷹、大宮という3つに分けて対応する事業が違うという話でしたが、例えば、大阪、名古屋、東京に次ぐような大都市圏、あるいは仙台とか地方都市とか、そういうところでご説明いただいた事業が成立していく可能性はどのようなものか、ということについてお話しいただけないでしょうか。
姜――われわれはすでにやろうとしています。福岡で実際に検討して、最後にある特殊な事情で実質上は売られなかった物件があったんですが、東京都心だけではなくて、福岡なり札幌なりでも成り立つと思います。ちなみに先ほどの収益物件も含めたファンド全体で言うと、われわれは全国の分散投資をむしろ徹底させようとしておりまして、東京の比率は一定以下に抑えるという基準を内部基準として持っているんです。ちょっと余談になりますが、旭川にも持っているんです。旭川は人口が減っているし、賃貸事業も住宅事業もそんなに強くないですが、その旭川で一番目立つ建物なんです。住宅地図のマーケットの中で言うと、多分下は沈んでも上の物件だけは浮かび続けるわけです。そう考えると、安定している物件はどこでも見つかります。むしろ東京の都心のほうで、よくわからずに馬鹿なお金をつっこむディベロッパーをたまに見かけたりしますが、そうなると魅力的な物件の競争力はどんどんなくなって新陳代謝が悪くなります。
田村――再生をやっているビジネスはいろいろあり、最近多いのがマンションの一室を改装してそれをエンドユーザーに転売するという商売です。これはかなり伸びていて、年間に何百室か売れて、上場とかそういう規模になっている会社もあるわけです。そういう会社は非常に短期の利益を得たいということです。一方、姜さんは、長期的な投資を負担するという話が一番最初にありましたし、遵法性の話もありました。そういう長期的な投資で、しかも自分のところで賃貸を運営管理しながらお客様に配当していこうとする、とこうしたいうスタンスは初めからあったのでしょうか。
姜――それはある程度初めからありました。
松村――それはなかなか珍しいというか、言い方を変えると、腹を括ってこの仕事をずっとやるということになると思いますね。僕のイメージで言うと、お金の運用の仕方として、今はこちらがいいからこちらに使おう、今度はこっちがよくなったからこっちに使おうというのとまったく違う方向性ですよね。事業として創業100年を迎えるまでやっていくという方向ですよ。姜さんの属している世界では非常に珍しいのではないのですか。
姜――不動産の世界では珍しいと思います。ちょっと優等生的な答えをすると、市場の読み方とか事業の定義の仕方という話になりますが、われわれの事業定義の仕方はやはり資金運用業なんです。それもオルタナティブ投資と言われている資金運用業なんです。オルタナティブ投資とは何かと言うと、年金とか生損保が運用する時に、今までは国債を買ったり、ソニーや松下の株を買ったりしていました、日本経済が右肩上がりだったので、それでみんなの年金をまかなえたわけです。それに対して、年金制度の破綻という言い方で、とてもじゃないがそれではやっていけないというのが最近の話です。だとすると新しい代替投資、オルタナティブ投資をやらなければいけない。不動産はその代表的な商品なんですが、今の日本にはほとんどない。ということは、明らかに急速なスピードで拡大するとわかっている市場なんです。そういったタイプの方々をお客さんに、短期間でもうけさせてあげるとか、今年は成績がよかったけど次の年はこうだというのではなくて、中長期にわたって安定した配当を確保し続けるための信頼を得るというのが重要になるわけです。自分たちの事業定義はそちらにあり、不動産開発をやっているわけではないので、そういった考え方になっていくわけです。
松村――そうすると、やっていることをぱっと見ると、例えばNHKのドキュメンタリーでアメリカの禿鷹ファンドみたいなのが「今は地方都市だ」と言って次から次へと公園通りの開発をしました、というのとかたちは違うにしても同じ部類の再生開発で、だけど事業としては、まったく別種のものと考えたほうがよいということですね。
姜――そのとおりです。
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