プロローグセッション

▲齋藤広子氏

●不動産学部で何をするか
私は7年前から明海大学不動産学部におりますが、この学部は10年くらい前に宮田慶三郎さんという方がお作りになりました。実はこの方はすでにお亡くなりなられているのですが、コーポオリンピアや中野ブロードウェイを作った人でもありまして、日本の第一次マンションブームを作った東京コープの社長でした。不動産に非常に興味があって第一次マンションブームを作った後、マンション業界をさっと去り、大学に日本で初めての不動産学部を作りました。
この不動産学部には現在4つのコースがあります。4つのコースは、不動産を幅広く学ぶ経営ビジネスコース、ファイナンシャルを中心とした金融と鑑定コース、それに環境情報コース。これはわかりにくいかもしれませんが、不動産の情報をとりあつかいます。資格でいいますと土地家屋調査士資格を在籍中に取って司法書士を目指すコースともいえます。宅地建物取引主任者資格を在籍中に取るのは当たり前、さらにもうひとつの資格を取って、「合わせ技」で生きていただくことを狙っております。4つめの環境情報コースは、これは建築と不動産を融合したコースで、このコースを卒業しますと、建築学科を卒業したのと同じように、建築士の受験資格を持つことになります。不動産学をベースに建築学を学べるように作っておりますので、お知り合いがおられましたら、是非日本で唯一の不動産学部のある明海大学をご推薦していただけたらと思います。また、大学院のマスターコースとドクターコースもございまして、学部を発展させて不動産のビジネス、ファイナンス、法律、都市空間システムプログラム、不動産マネジメントプログラムを作っております。
こうした不動産学部があるんですと申し上げますと「外国にもあるんですか」と聞かれるのですが、元々外国で不動産の教育を行なっていたのはイギリスで、非常に盛んなのはアメリカというふうに聞いております。昨年の11月に私も米国のワシントンとニューヨークでいろいろな調査をしてきましたが、不動産学はどこでもあるのが当たり前で、特にマスターコース(MBA)とリンクしていることが多いようです。ただ、アメリカの不動産学部の特徴は、民間の工学関係の企業がもともとバックアップを図り、現在は金融関係が中心になってきているようです。私どもの大学では、比較的イギリスとの関係を強めております。元々イギリスの場合はロンドンに不動産カレッジがあって、後にレディング大学で初めて不動産学部を作り、その学部の中に不動産管理開発学科から不動産経営学科に移り変わりましたが、学部教育をしております。ここでは、工学・経済・法律の3分野をベースにしており、明海大学も同じように3分野をベースにしております。あと社会人向けのカリキュラムを設けておりまして、こちらはかなり経済がベースになっています。もうひとつイギリスで有名なのがケンブリッジ大学です。こちらは1919年に講座ができまして、50年ほど前に不動産管理学科ができ、40年前に名称変更して土地経済学科になり、現在まで経済と法律を中心にした不動産の研究をしています。私はこちらに今年4月から1年間研修にまいります。
こうした世界の動きを見ましても、建築の中の不動産管理が重要で、今新たな学問や専門分野、職能が求められているのではないかと思います。

●分譲マンションの管理
マンション管理の研究は、20年くらいやっております。業界では、アパート、マンション、戸建てという分け方もありますし、賃貸マンション、分譲マンションという分け方もありますが、今日は管理の複雑系である分譲マンションを取りあげて、お話をさせていただきます。ご存知かと思いますが、マンション管理適正化法という法律の中では、マンションはひとつの建物を区分所有しているもの、とありますので、今日はこの区分所有する、つまり空間としてはひとつの分かちがたいものを分けた上で、みんなで持っている、というかなり複雑な形態の場合、どういったことが起きているのかということについてのお話です。さきほど、コーポオリンピアやブロードウェイのお話をしましたように、日本のマンションはそんなに古い歴史があるわけではなく、今ようやくストックの時代と言われるようになってきました。新しいときは問題はあまりなくても、20〜30年経ってくるとどんなことが起こるのかについてまず見ていただきたいと思います。
名古屋市のあるマンションは30年くらい経っていて、割としっかり管理しているところなのですが、給排水管など設備関係の取り換えた後の状態が表に出てきて、少々見苦しくなってしまっています。やり易い修繕がとられたためよい状態ではないものが表に出てきてしまっているものや、見るからにランクが落ちるな、という感じのものもあります。だいたい区分所有型のマンションは、賃貸と違って、住戸内に入って工事することが難しいため、こういった形で共有部分に現われてしまうというケースが多くなっています。また、車椅子を利用する方も出てきますので、手摺やスロープなどをつけていくことも当たり前のように行なわれます。

●築30年以上のマンションの問題
30年くらい経過したマンションにはいろいろと問題が出るため、昨年目黒区で、築30年以上のマンションだけを調査をしました。それで、どのくらい傷んでいるのか、また、どのような課題があるのかを見て参りました。ご存知のように、メンテナンスをしっかりしてないと、建物の劣化が進んでくる、膨らんでくる、あるいは大きなクラックが入ってくる、ということが起きます。すっかり錆びきっている手摺はグラグラ動いて、もたれるとそのまま落ちていくような状態になります。前回、我孫子先生のレクチャーの中にもありましたが、給排水管の問題も起きてきます。建物の劣化の状況を調べますと、致命的で戻ることができないもの、かなり状態が悪いもの、30年経っても比較的問題ないものがあります。見たところ、非常にダメージが大きいものと全然問題がないものの幅が大きいということです。取り返しがつかないところまで傷んでいる場合は、後は物理的に朽ちていくだけということです。賃貸の場合も同じですが、マンションの場合、建物の物理的なメンテナンスを定期的にやっていかなければいけません。例えば、鉄部の塗装は通常3〜6年で塗り替えてくださいということなので、これを定期的に行なったり、鉄部そのものをアルミに取り換えたりしています。さすがに外壁を塗り替えたことがないというマンションはありませんでした。外壁の修繕工事は、だいだいの目安として9〜15年に1度の割合でやってくださいということなので、築30年以上では2回くらいが普通だと思いますが、1回だけのところもありました。ヒアリングやアンケートも実施してこうして答えて下さったマンションは、割と優秀なマンションと思われますので、さらに状態の悪い物件はたくさんあると思います。それから屋上の防水工事は、定期的に10〜14年に1回と言われていますが、部分的、あるいは1回だけというところも見られます。給水管については、当初の状況やメンテナンスの状況によっても違うと思いますが、目安は12〜20年と言われている中で、3分の1くらいは全て取り換えていました。排水管は、だいだいの目安が30年ですが、すでに取り換えを終わっているところもありました。エレベーターの寿命も30年くらいと言われていますが、全て取り換えているところがすでに30%くらいありました。当初のものをしっかりメンテナンスしているところもある一方で、なかには基本ができていないところもあります。

●マンションのメンテナンスと改善
築30年以上でも、見た目では決して新築マンションに見劣りしないレベルまでしっかりとメンテナンスしているところもあります。目黒区の事例では、例えば耐震補強をしています。鉄の手摺をアルミに換えて、見た目もかなり変わっているところがありますし、自転車置き場はどんどん作られていきます。目黒区では駐車場を作るのは難しいのですが、多くのマンションでは駐車場を常設して、自転車置き場もどんどんきれいにしています。それから、エレベーターの改良と、スロープをつけるところは非常に多く見られます。郵便受けなども30年経ったら取り換えていくということです。共用部分も、色を塗り替えるだけでなく、廊下の照明や、足元のシートを取り換え、さらに、各部屋のドアの取り換え等も行なっています。最近多いのは宅配ボックスで、30年前にはこういうものはありませんでしたけれども、今の生活スタイルでは必要になってきてるためつけてるケースもあります。また、30年前には防犯カメラをつけて人を監視しようなどとは思わなかったわけですが、今はオートロックであってもさらに防犯カメラをつける。こういった簡単なものからお金のかかる大きいものまで様々な改善があります。
次に、築30年マンションでどのくらい改善をしているかということです。全体の7〜8割くらいは、郵便受けをつける、自転車置き場を作る、あるいは廊下や階段の仕上げをするなどの改良をしています。また半分くらいは、階段に手摺をつけたり、防犯カメラをつけたりしています。また、9〜15年に1回の外壁の塗り替えで、前と同じ色を使うマンションは少ないようです。時代によって色の流行が変わりますから、今風に見せるために色を変えていく。それからスロープをつけるといったことのほかに、電気容量をアップしたり、今はインターネットの設備を導入したりしています。それから、オートロックシステムを導入しているマンションも出てきています。これは後づけは難しいのですが、こういうことをしないと若い人がマンションを買ってくれないし、入居者が高齢化して人気がなくなると困るということでしょう。こういった形で、みんなで使う部分、さらに各部屋のものもいっせいに取り換えることでマンションの価値を上げていく。元の状態よりもレベルアップし、できるだけ現在の新しいマンションへ近づけていきたいということが積極的に行なわれているケースもあります。

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