Renovation Archives [016]
I
中村政人+申明銀+中村鑑+佐藤慎也+岡田章
●住宅[ギャラリー+住宅] 湯島もみじ

概要/SUMMARY



写真左=「湯島もみじ」サイト2002.07
「中村さんとの出会いから...」より

写真右=同2002.08-09 「具体案の検討&実測調査」より

リノベーションの動機/状況への創造力
敷地はいわゆる旗竿敷地の奥にあり、アプローチの接道幅員は2mを切ってしまっているために、新築の場合接道条件を満たすことができない。すなわち壊して建て替えるということがこの単独の敷地では行なえない条件である。
この築50年の物件を建築主でありアーティストである中村政人が発見し、そしてそこを芸術活動および生活のベースとして手を加えようとしたプログラムがこの「湯島もみじ」プロジェクトである。
このプロジェクトは中村、および建築家の佐藤慎也、および構造家の岡田章などによって構想された。そして実際の施工は「Mトレ」と呼ばれる学生ボランティアなど有志のコラボレーションによって、基本的にセルフビルドによって行なわれた。
その模様をウェブにて公開することで建設過程自体が社会に向けられたひとつのワークショップとして成立するというプロジェクトであった。
プロセスのオペレーションをオープンにするということは、すなわち既存の建築の成り立ち(つくられ方、およびそこに投入された建築の考え方)がオープンにされていく過程に重なるものにほかならない。
解体によって、既存の木造建築を成り立たせていた構法の考え方を一つひとつ見出していく過程は、単なる工程を超えて、中村自身が自身の作品の中において常に追求し続けてきた「社会の形」を問う行為の一部として捉えることができるだろう。
さらに、北海道で行なわれた「デメーテル」アートプロジェクトの中村作品の解体材料が秋田にて再加工され、このリノベーションの材料として再生するというプログラムも「サステイナブル」というキーワードを真剣に考える中村のより大きなプログラムの一部をなしている。

設計概要
建築主=中村政人+申明銀+中村鑑
設計コンセプト=中村政人
設計=佐藤慎也+梅田綾+大西正紀
構造設計=岡田章+宮里直也+市川雄一
施工=中村政人+嵯峨篤+半澤哲+大西正紀+梅田綾+市川雄一+山内慎一ほかボランティアスタッフ(「Mトレ」と称し、現場を一般のボランティア参加者に開放する試みも行なっている)
構造=木造
規模=地上2階
延床面積=約140平米
主要用途=住宅 アトリエ ギャラリー
設計期間=2002年7月〜
竣工予定=未定
施工プロセス/PROCESS

■写真はすべてwebサイト「湯島もみじ」の「diary」より(以下掲載日と「diary」のタイトル)

左:2002.10.28 (3)「鉄筋搬入、鉄筋組み、型枠工事等編」
右:2002.11.02 (6)「木造住宅解体編 第2弾_1」

左:2002.11.06 (7)「From秋田木材搬入編」
右:2002.11.14 (9)「既存梁上レベル計測作業」
左:2002.12.02 「窓枠&テラス設置」
右:2003.04.07 「ガードレールの取り付け」
左:2003.04.07 「ガードレールの取り付け」
右:2003.06.03 「ガードレール ペイント」
左:2003.06.16 「壁・収納制作」
右:2003.07.14 「ギャラリー天井の制作」
現況:2004年
ともにアトリエ部分
左:子供部屋
右:2階フロア
■コメント
リノベーションという行為に、先行する環境、建築、社会的文脈などが前提として存在するという視点から考えるとき、それを限界や制約として捉える立場がある一方で、それらの先行する世界に対する、行為者の側からの再評価、コメントのチャンスという捉え方がまた可能である。
ここでの中村政人のスタンスはまさにそういった立場にたつものだと言える。
技術や、制度がコンクリートな/固着化したものとして、われわれは認識しがちであるが、実際のところそれらシステムの存在論の基底が、今ここで生きている世界と大きく異なる=触りようのない外部に属しているという認識のほうが、むしろ非現実的なのだと言えるだろう。
われわれを取り巻くさまざまなシステム/社会が複雑になればなるほど、それは一種のコードとしてわれわれ自身を縛るかのように見える。システムが時間対効果という指標の下に、手順として確立され、ルールとして普及していくがゆえに、逆にそれがわれわれの行為を限界付けているかのようにも見える。
しかし、そこにコードが存在するということはデコードの手段もまた存在しているはずである。そのデコードの方法はコードのなかにソースとして実は隠されている。
「せざるをえない」行為と中村が呼ぶこれらの「リノベーション」にまつわる活動は、社会/コードを再び自分のものとして取り戻すための戦い/システムへのハッキングだと言えるだろう。
与えられた空間にコメントをつける自由を取り戻すことから、自分の住む世界を自らのものへと変えていく創造力が育っていくのではないだろうか。
(新堀学)
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