Renovation Archives [085]
●共同住宅
[共同住宅]
首都大学東京4-Metセンター《階段一体型エレベータ付加システム》
取材担当=村井一(東京大学大学院)
概要/SUMMARY

左:既存外観
右:階段一体型エレベータ付加後外観
撮影=大野繁

■公共集合住宅におけるエレベータ増築の開発研究プロジェクトである。
首都大学東京は2003年より文部科学省21世紀COEプログラムとして「巨大都市建築ストックの賦活・更新技術育成」を進めており、このプロジェクトは昭和40年代に大量に建設された団地型公共集合住宅の改修における課題整理のなかから導かれた。そして、2005年に国土交通省「建設建築技術研究開発助成制度」の補助採用を得たことで、今回の実証実験が実現することになった。

開発目標として掲げられたのは
(1)完全にバリアフリーな住戸アクセスを実現すること
(2)合意形成を容易にするため、階段室単位で短期間に改修ができ、居ながら施工が可能であること
(3)住棟への圧迫感を与えないようエレベータを小型化し、既存の階段室空間をより活用する
(4)コストの低減と施工のシステム化を図る
の4点であり、大学スタッフと学生の間で基本設計・実施設計が進められた。

開発されたシステムは階段室単位での施工を想定したものであり、階段がとりまくエレベータの付加と、既存階段室の撤去によるアプローチ床の増床が主なオペレーションである
[断面図参照]。完全にバリアフリーとするのが困難だった、階段室の踊り場に着床するタイプのエレベータ付加システムの問題点を解消するとともにシステム概要図・左参照]、既存階段室空間を、居住者が自由に活用できるアプローチ空間として作り変えることが可能になる。
参考:http://coea111.exblog.jp/
設計概要
所在地=千葉県君津市
用途=既存団地型集合住宅へのエレベータ付加システム
構造=鉄骨造
規模=地上4階(現設計で5階建てまで対応可能)
建築面積=14.4平米(うちエレベータ部分3.3平米)
延床面積=59.0平米(うちエレベータ部分16.3平米)
竣工年=2006年(既存住棟:1968年)
企画=深尾精一,山崎真司,小林克弘,角田誠,門脇耕三,見波進,小川仁,鈴木啓之
設計=深尾精一,門脇耕三,小川仁,鈴木啓之,梅田綾
構造設計=山崎真司,見波進,田原健一,柳沼大樹
施工=日東工営株式会社
協力=新日鉄エンジニアリング株式会社
左上:システム概要図

左下:階段一体型エレベータ付加システム平面図
右下:同、断面図
施工プロセス/PROCESS
エレベータを2方向化することによってシャフトが小型化されている。また、従来の階段室型エレベータは塔状比の問題から、構造を安定させるためにシャフトが必要以上に大きくなり、住棟への圧迫感が否めなかったが、テンションロッドを用いた構造形式とすることで軽快な外観となっており、住棟のあらたなエントランス空間として開放的な表情を創出している。

テンションロッドは階段の支持も兼ねており、外装材に関しては構造的に切り離されているため、手すりやパネルを改修のケースにあわせて選択することが可能となっている。

実証実験は現在は使用されていない空き住棟を対象として行なわれている。2005年度は住棟北側に階段一体型エレベータの設置までが完了している。工事期間は約3カ月であった。期間中は記録などを行ない、工程の合理化や工期短縮のための分析が行なわれた。2006年度は引き続き、既存階段室の階段撤去及び床の増設、エレベータとの接続を行なう予定であるという。
左上:基礎工事
右上:鉄骨建方
左下:テンション導入
現状/PRESENT

公共集合住宅にみられる豊かに生育した植栽

緑や空を映し込む外装
撮影=大野繁

既往のエレベータ付加システム
■今回の開発設計においてはバリアフリーという機能的要求の充足を前提としながらも、団地建設から30年以上経ち豊かに生育した植栽と、階段まわりの外装の表情との関係性が強く意識されたという。部分改修ではあるが、既存環境との関係性を考慮することで、住空間全体としての価値を向上させようという姿勢だ。今後実証実験が行なわれるアプローチ空間に関しても、増設部分が土間のような空間となることで、居住者による多様な利用方法を触発することが期待される。
首都大学東京都市環境学部助手の門脇氏は今回のプロジェクトを通して「技術レベル自体はそう高いものではないが、技術の在り方を編集し、再提案することで、改修手法のバリエーションを提示したい」と語る。技術の利用手法の成熟化を示す好例として、引き続き開発研究に注目したい。
(村井一)
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