Renovation Archives [058]
(株)安井建築設計事務所
●区庁舎
[オフィスビル]
《目黒区庁舎》
取材担当=福田啓作
概要/SUMMARY
目黒区庁舎を俯瞰して見る 提供=目黒区役所
設計概要
所在地=東京都目黒区上目黒2-19-15
用途=区庁舎
構造=
[本館]鉄骨鉄筋コンクリート造
[別館]鉄骨造
規模=
[本館]地上6階、地下3階
[別館]地上9階、地下3階
用地面積=16,048,36平米
建築面積=8,834,14平米
延床面積=48,075,24平米
最高高さ=42,15メートル
軒高さ=35,80メートル
基礎=直接基礎(ベタ基礎)、杭基礎(場所打ちコンクリート杭:RGパイル)
建築年月日=
・改修前=[千代田生命本社ビル]1966年
・改修年月日=2002年4月着工/2003年3月竣工
設計=
[既存]村野、森建築事務所
[改修]安井建築設計事務所
■財政破綻した企業社屋を行政施設へコンバージョンした事例である。
一番最初の目黒区庁舎は、1932(昭和7)年に目黒区が誕生した時点では存在していなかったので、暫定的に正覚寺の山門横にあった目黒町役場に置かれていた。1936年には、目黒区中央町に区庁舎を建設・移転。1961年には新館を、1967年には本館をそれぞれ増築。さらに、その後の区役所業務の拡充に応じ、1981年から1999年にかけて第2から第5までの分庁舎を整備。これらの時間的・物理的変遷のなかで、「庁舎問題」として、おもに建物の老朽化、耐震補強の必要性、庁舎の分散化による非効率性、事務所スペースの狭隘化やITへの対応の必要性などの問題について議論・検討が続けられていた。
こうした検討が進行するなか、2001年2月、会社更生手続き中の千代田生命保険相互会社の更正管財人から、区に対して約18,800平米の本社敷地と床面積約48,000平米の社屋の取得意向に関する打診があった。企業破綻にともなう更正計画の策定過程という異例のケースのため、極めて短期間の対応が要求されたが、今後、立地や規模などを含めて、これに匹敵する適地を確保することは困難であり、また取得後のメリットも十分に認識されたため、管財人の打診から約3週間後の2月末に、売買契約及び議会報告を終了。その後、庁舎移転対策委員会及び新庁舎推進本部が設けられ、主に新庁舎利用計画、財源、旧庁舎跡地利用についての区職員による検討と同時に、専門家や区民参加によって、より広範な意見・提案を検討する場として、新しい庁舎の利用計画を考える会を設置。
以上のような多角的な検討を踏まえ、2002年4月に改修工事に着工し、2003年3月に竣工。現在に至っている。
施工プロセス/PROCESS
竣工までの流れ

2001年5月 旧千代田生命本社ビル
耐震診断開始
2001年10月 新庁舎改修設計開始
2002年4月 改修工事着工

▼本館棟
2002年5月初〜 解体工事
2002年7月初〜 耐震補強工事
2002年7月末〜 内装仕上げ工事
2002年12月初 竣工

▼別館
2002年6月中〜 解体工事
2002年8月初〜 耐震補強工事
2002年9月中〜 内装仕上げ工事
2003年2月末 竣工

▼旧厚生・玄関棟
2002年6月末〜 解体工事
2002年7月末〜 耐震補強工事
2002年8月末〜 内装仕上げ工事
2002年12月初 竣工

2002年12月21〜23日 第1次移転作業
2002年12月28〜31日 第2次移転作業
2003年3月 竣工
2003年3月29〜30日 第3次移転作業
左上:目黒区庁舎1階平面図拡大
右上:同、2階平面図
拡大
左下:同、南北立面図
拡大
右下:同、断面図
拡大
図面提供=目黒区役所
現状/PRESENT

このエントランスホールにおいて、展示などの利用が行なえるよう、ダウンライトや接続用の設備機器が新設されている

しじゅうからの間、内観。休憩スペースとして開放されている

市民のお茶会や会合などに利用されている

2階窓口カウンターの内観。現カウンター部には、以前は事務室と廊下を仕切るRC壁が存在していた
参考資料=『目黒区庁舎移転の記録』(目黒区、2003)
■目黒区庁舎の変遷の履歴を参照すると、一見極めてドラマチックに見えるそのコンバーションのプロセスも、目黒区による区庁舎移転・改修・新築それぞれの可能性に関する綿密な経費見積りと必要経費の積み立て、あるいは安井建築設計事務所のスタッフによる行政関係施設設計・工事経験や改修工事に関わるノウハウの蓄積など、両者の予見と準備が十分に行なわれていたことによって可能になったものであることが理解できる。
コンバーション以前はオフィスビルとして使用され、エントランスホールや和室、茶室などの一部を除いて外部に開かれていなかったため、建物を市民へと開かれた空間へ転換する必要があった。村野藤吾氏の設計を既存構造としつつ、例えば床下配線によるOA化やバリアフリー化、あるいはシステム天井の導入という一見矛盾しそうな個別解を、その既存構造との対話のなかで、設備・構造両面において具体的解決が図られている。一方で、利用という観点から見た場合、オフィスビルとして使用されていた時から、一般向けの貸し出しが行なわれていた茶室や和室、会議室などの施設は、コンバージョン後も引続き市民の利用が可能であり、同時に建物の履歴を知る建築ファンによる見学会や大学のレクチャーの会場とするなど、目黒区庁舎はさまざまな利用の可能性を誘発する触媒として機能している。さらに、エントランスホールには、大人数の市民がイヴェントなどを行なうことを想定して、接続用の設備機器が埋め込まれている。
建物の歴史を踏まえ、十分な対話を行ない、かつコンバーション終了時点を利用のスタート地点として捉え、さまざまな利用の可能性が組み込まれている。目黒区庁舎は、オフィスビルから行政施設へのコンバーション事例として先駆的な事例であるだけでなく、既存構造=サポートや設備=インフィルを前提としつつ、その利用を含めた空間の質をコンバーションしたという意味において、稀有な好例と言えるだろう。
(福田啓作)
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