Renovation Interview 2008.9.30
美術と建築を横断し、社会を知る──金沢におけるCAAKの試み
[座談会]吉村寿博×鷲田めるろ×林野紀子 進行:新堀学+倉方俊輔
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「Art & Architecture」のヴィジョン
倉方 CAAKの名前には、Art & Architectureという言葉が並記されています。参加している人も、鷲田さんはキュレーター、他の人は建築家と立場が違うわけですが、建築とアートの関係においてどういったところに可能性をみていますか?
鷲田 私は、美術に興味を持つ人は建築にも関心を持つ、またその逆もそうだと思うので、その二つを横断できる場というのはうまく機能するはずだと思っていますが、CAAKに関していえば、建築をキーワードとして挙げているのは、オルタナティヴな活動を始めていくうえでのテクニックとして考えているところもあります。
まずは、《金沢21世紀美術館》が建築としても注目されているということから、建築に関係のある人たちが金沢に来やすい。また建築をやっている人は、レクチャーなどにとくに熱心に参加する傾向があるので、美術と建築というテーマを掲げるのは、こういう活動を始めるのに好都合だと考えました。
それから、今後、オルタナティヴな場をもうひとつつくりたいと考えるなかで、CAAKを建築関係の人のネットワークのノードにしておいて、次につくる場をアート関係の人が多い場所にして、二つをつないでいくことを考えています。その時、「建築」というキャラクターをCAAKにもたせておくのは、有効に働くと思っています。
倉方 まちへの波及効果、あるいは個人的な希望も含めて、期待していること、それから、美術と建築の関係でモデルとしている事例はありますか?
林野 沖縄の栄町にあった沖縄アートセンターには、CAAKのモデルとしてひそかに影響を受けていると思います。
倉方 それはどういうものですか?
林野 CAAKができる直前に、前島アートセンターがおきなわ時間美術館というものをつくって、栄町という地元密着の市場の中に自分たちの拠点を移したんですね。セルフビルドで、地元のアーティストとか建築家とかいろんな人が関わって、展示空間とレジデンスとバーをつくったんです。
直接的に影響を受けたということではないんですけれども、東京との距離のとりかたとか、ゆるい感じのつながりとかスタンスとか、イメージ的にこういう空間が金沢にもあったらいいなあということを個人的には感じていました。
鷲田 少し補足すると、沖縄の場合は、県立美術館がつくられるという計画があって、それが現代美術を扱うのかどうかといった話のなかで紆余曲折あって、それに対して地元の人たちが県の美術館に働きかける手段として、オルタナティヴな意識の強い団体としてがんばっていたのが、前島アートセンターでした。ただ前島アートセンターもがんばっていたが故に、組織としてはわりと大きい力を持つようになって、組織に縛られず、さらに自由にやりたい人たちが、自分たちでまたNPOを立ち上げるようなかたちで、沖縄アートセンターやアートネットワークおきなわが活動を始めています。
沖縄の人がもともと、歌を歌ったり楽器を演奏したりということが本当に自然にあるので、そういうところからもNPOがうまく機能しているという感じがしますね。沖縄の活動からは刺激を受けています。»
2008年9月15日、CAAK(寺町の町家)にて
寺町の町家
外観
吉村寿博 Toshihiro YOSHIMURA
1969年生。建築家。妹島和世建築設計事務所/SANAAを経て、2004年、吉村寿博建築設計事務所設立。横浜国立大学、石川工業高等専門学校非常勤講師。URL=http://www.yoshimura-archi.com/

鷲田めるろ  Meruro WASHIDA
1973年生。金沢21世紀美術館キュレーター。世田谷美術館非常勤学芸員を経て、1999年より金沢21世紀美術館建設事務局学芸員として美術館の立ち上げに携わる。

林野紀子 Noriko RINNO
建築家。阿部仁史アトリエを経て、2005年、林野紀子建築設計事務所設立。URL=http://www.rinno.jp

新堀学 Manabu SYNBORI
1964年生。建築家。新堀アトリエ一級建築士事務所主宰。作品=《北鎌倉明月院桂橋》《笹岡の家》《小金井の家》《天真館東京本部道場》。著書=『リノベーションスタディーズ』。共著=『リノベーションの現場』『建築再生の進め方』(2008年都市住宅学会賞著作賞)。2007年第一回リスボン建築トリエンナーレ日本チーム参加出展。

倉方俊輔 Shunsuke KURAKATA
1971年生。建築史家。著書=『吉阪隆正とル・コルビュジエ』。共著=『伊東忠太を知っていますか』『吉阪隆正の迷宮』『ル・コルビュジエのインド』ほか。

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