Renovation Report 2006.07.20
ひまわりガーデン代官山坂
未使用区画における地域参加プロジェクト
三井嶺(東京大学大学院)

イントロダクション
Introduction
2006年4月から、渋谷区代官山、代官山アドレス北側道路「代官山坂」の中央の緑地帯にて、地域参加型プロジェクト「ひまわりガーデン代官山坂」が行なわれており、8月13日から20日までの一週間は、「ひまわり鑑賞会」として代官山坂が解放されることになっている。
今回は、計画道路のための区の保留地であるこの土地が、2005年に行なわれた「代官山インスタレーション」での作品をきっかけとして今回のプロジェクトへと至るまでの経緯と、今後の展望についてレポートする。


「ひまわりガーデン代官山坂」概要
期間=2006年4月〜8月
所在地=東京都渋谷区代官山町14番と15番の間、代官山坂の中央分離帯
主催=ひまわりガーデン代官山坂実行委員会
協賛=代官山ステキな街づくり協議会、民生児童委員
イベントスケジュール=
・ひまわり募金[2006年3月11日〜8月20日]
・ひまわり種お渡し[2006年4月8・9日]
・ひまわり植え込み[2006年5月14日]
・ひまわりお手入れ[2006年5月20日〜8月5日(およそ隔週)]
・ひまわり鑑賞会[2006年8月13日〜20日]

サイト
site
代官山坂の中央分離帯は、道路拡幅のための区の保留地であり、島状に取り残されている。周囲にはフェンスがはりめぐらされており、さらにガードレールが取り囲むかたちとなっていて、普段は鍵がかけられていて自由に入ることができない場所である。それゆえ、人の手が入ることもなく雑草が茂る草地として放置されている状態であった。
現在では、計画道路のオーバーパスは中止されることになったが、今後の計画が定まっていないため、当初の取り決めにより今後10年はこの土地は残り続けることになる。
代官山における立地としては、駅から徒歩5分程度であり、代官山アドレスに隣接していることからも分かるように、代官山という街の中心にあたるといってよいだろう。この土地は道路拡幅のための残余であるがゆえに、街の中心にありながら開けた場所となっている。また南側には代官山アドレスという大きなスケールの建物、北側には住宅やショップなどの2-3階建ての小さなスケールの建物があり、ふたつのスケールが接する境界でもある。
プロジェクト前の代官山坂
撮影=村井一

プロセス
process
今回のプロジェクトに大きく関わっている、代官山の街づくりの組織である「代官山ステキな街づくり協議会」では、代官山に住む人、働く人が中心となって、より良い街づくりのための活動が行なわれている。かつてその活動のなかで代官山坂にも焦点があたり、自転車などの駐輪場として利用するといった提案もなされたが、使い手が限定される利用法だということもあり、区の許可は得られなかった。

そういった状況のなかで、代官山で2年に一度行なわれている、代官山のコンテクストを活かした作品を公募する「代官山インスタレーション2005」(会期=2005年11月5日〜27日)において、代官山坂が作品の公募スポットのひとつとなった。
公募スポットとしての敷地は、正確には代官山坂の手前にある石敷の部分のみであったが、入選したセカンドリビング研究会による作品《代官山リビング》は、代官山坂全体を使ったものであった。この作品は、審査員全員から好評価を得た秀逸なプランだったこと、また事務局の熱意もあって敷地の問題を解決し、実現することとなった。
《代官山リビング》は、家具のような、構造物のような全長100mのテーブルによって、さまざまな生活が交錯する代官山の質を形象化する作品である。放置されていた草地が魅力的に生まれ変わり、作品展示期間には「second living cafe」なる臨時カフェのイベントも行なわれ、人々が思い思いに街のリビングとしてくつろぐ場となった。

《代官山リビング》での土地の利用がきっかけとなって、民生委員の方の提案を契機に、「代官山ステキな街 づくり協議会」では街の人々が関わっていくことのできる楽しい企画を考えようと、「ひまわりガーデン代官山 坂」プロジェクトを立ち上げた。ひまわりを植え、夏にひまわりガーデンとして解放するというプロジェクトは、街づくりや文化的活動に理解のある区長の後押しもあり、すんなりと区の許可が下り、プロジェクトが動き出すこととなった。
上:代官山リビング
中:代官山リビング近景
下:代官山リビング上空から
撮影=村井一

プロジェクト
Toward City
「ひまわりガーデン代官山坂」プロジェクトは、代官山坂にひまわりを植え、夏には全長100mにわたってひまわりが咲く「ひまわりガーデン」として解放するプロジェクトである。
上:種渡し
下:苗木
提供=icaデザイン研究室

上:苗植の様子
下:7月初旬のひまわりガーデン
撮影=村井一
プロジェクトの狙いは、ただひまわりを咲かせるだけではなく、プロジェクトをとおして、参加者だけでなく主催である「ひまわりガーデン代官山坂実行委員会」も一緒となって互いにコミュニケーションしていくことにもある。そのことで、代官山という街を考え、コミュニティが活性化していくことが期待されている。
準備段階として、まずは水道の有無、土壌の状態など土地の状態から確認していくことになった。当初、委員会ではひまわりの種をただ蒔いておけば良いと思っていたが、きちんとした地造りなどが必要であることが分かり、地域の園芸店のサポートによりひまわりが育つような土壌を造っていくことになった。
資金については、2006年3月から「ひまわり募金」として10円募金を行ない、代官山の郵便局、スーパーなど3カ所に設置するとともに、委員会のメンバーによって足で集めていくという方法をとった。
ひまわりを育てていくプロセスは、まず参加者に種とポットを渡し、苗植まで参加者各自が育て、しばらく育ったところで代官山坂への苗植を行ない、苗植以降はおよそ隔週で土地を解放し、水やり、雑草など手入れをしていくというものである。参加者は小学校、保育園、幼稚園などの団体での参加と、地域住民や店舗などの一般参加であり、特に猿楽小学校では2年生の授業の一環として参加している。
各自で種植えをして手元で育てることによるひまわりへの愛着、そのひまわりが街の中で育っていくこと、手入れの度に普段は入ることのできない場で取り囲まれる街を感じながら作業すること。こういったイベントとして街に関わっていくことで、街に対する意識が高まっていくだろう。
今後、8月にはひまわり鑑賞会が行なわれ、早朝にはドッグランとして解放することも企画されている。10月には種を収穫をし、来年に備えて再びプロジェクトの準備をしていくことになる。

フィールドリノベーション/祭
fieldrenovation/festival
「代官山リビング」「ひまわりガーデン代官山坂」の二つのプロジェクトに共通するのは、"100mのテーブル/100mのひまわり"といった巨大なスケールによる街への介入と、"リビング/一人一人のひまわり畑"という身体スケールによる街への関わり方であろう。
街と苗植
撮影=村井一
100mにもわたるひまわりのラインは、参加者だけでなく代官山坂を通りすぎる人々にも働きかけていくだろうし、ひとたび代官山坂の中に入れば自分の育てたひまわりが街に咲く様を感じることができるだろう。代官山は、都市でありながら、同時に住宅があり、個人の生活がある。都市のスケールと一人一人のスケールが混じり合って成立している街である。そういった点で、100mという大きなスケールと"リビング/畑"という生活の形式が混じり合ったこれらのプロジェクトは、代官山という街の性格をつかんでいるといえよう。さらに、これまで使われていなかった土地のポテンシャルをうまく引き出し、フィールドのリノベーションとして成功している。街の中心にぽっかりと島状に浮くこの代官山坂に入ると、代官山の街を見渡すような感覚をもつ。普段は入れない場所に入るということが一層街を意識させるのかもしれない。
さらに、「ひまわりガーデン代官山坂」の準備段階からプロジェクトに関わり、鑑賞会が終わったらまた来年の準備、という形式は、祭のようなものであるといえよう。祭は人々の意志によって持続されてきたものである。このプロジェクトは、まだ始まったばかりである。代官山という街を良くしていこうという気持ちにより始まったこのプロジェクトは、年を重ねるにつれて次第に地域を巻き込み、さまざまなイベントが企画され、さらにプロジェクトを豊かなものにしていくだろう。そして、ゆっくりとではあるが時間をかけて、「自分たちで街をつくっていく、街を変えていく」といった街に対する考え方が生まれていくことが期待できる。

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