プロローグ

●経営と建築行為の接近
松村──近角さんまでの4回は新築の作品についても、これまでなかった経営的観点を主題の中に含んでいます。それとの対応関係で建築のよいところを見つけたり、コストコントロールをするということもあり、第2回の中谷さんの話は特に経営的観点を含んでいました。近角さんのやっている定期借地権を分譲にしたり、コーポラティブにすることは、SIを分離することと不可分に結びついていました。つまり、設計している人の頭の中に第2グループの先生方がお話しになった経営的観点が、非常に色濃く反映されていました。

太田──建築家が経営的視点を持つことと逆に、経営者が建築的視点を持つという領分ができつつあると思います。それは今までのリノベーション的なものにはなかった発見なのでしょうか。

難波──発見だと思います。姜さんも設計にかなり期待していて、経営、運営していくときに、証券価値として生き延びていけるかどうかは設計に左右されるとおっしゃっていました。そのためにはコストがかかっても思い切って床を抜いたりする。しかしデザインとお金、商品価値の結びつきは非常に面白いけれど、問題を難しくしているとも感じました。さらに言うと、僕らがなかなかそこに入り込みにくい部分でもあります。姜さんの回は実際に話されたことの半分くらいしかweb上では活字になっていませんが、これは商売の秘密だからやむをえませんね。

松村──第12回の本耕一さんは森ビルに行く前は日建設計にいらっしゃいましたが、日建設計にいた人が森ビルのような会社の常務取締役をやっていること自体、時代が変わっていると感じています。僕は大学で就職担当をしているのですが、これまで三井不動産は建築学科の学生は門前払いでしたが、最近は学年に2人くらいが就職する。なぜかというと、不動産会社の中で建築がわかる人間が、ある種の通訳機能の役割を果たしているからです。経営と建築的行為が不可分に結びついていることの表われとして、人材的にも仲介者の立場の人が必要になってくるわけです。長く続くことかどうかはわかりませんが、そういう傾向は最近5年くらいはあります。

太田──学生はどういうモチベーションでディベロッパーにいくのでしょうか。

松村──学生は大きなお金が動かせると思っている(笑)。それは間違いで、地主のところをはいずりまわる営業から始まるのだと言っているのですが。推測にすぎませんが、何百億というお金を動かせて、発注者側で設計者に上から頼めると考えているのではないかと思っています。しかしある程度の専門的知識やセンスを活かしながら、ディベロッパーの中で働いていく職場が形成されつつあると思います。

司会──会場に確認したいのですが、営業の場面でそういったことを感じたことはありますか。

社員B──最近プロパティマネージャーの方とお話しすることがあって、オーナーに対してどのように資産価値を上げて家賃収入を得るかという話をしましたが、コストや設備的なことも含め、テナントの方が満足して家賃に見合っていると感じるのは住み心地でした。建築設計者も、そこを利用される方のことを考えながらデザインされたり計画されたりしていると思うのですが、プロパティマネージャーもリノベーションをするときに、もう一度テナントの満足度という観点で、仕上げや設備を組み立て直すことが重要になってきています。そういう意味ではプロパティマネージャーにも建築的センスが必要で、建築を計画される方たちの考えておられることと似通った部分があると思います。

太田──ある住宅で、東京ガスに床暖房をやってもらったのですが、間取りなどについてとても詳しくて、建築家ではできないことをやっていただいた。床暖房や給湯では一種のマネージメントがあります。衛生器具ではリースはあるんでしょうか。

社員C──衛生器具のファイナンスリースは困難と思われます。オペレーティングリースと言いまして、「中途解約禁止」あるいは「フルペイアウト」でない賃貸借契約であれば可能と思われます。

PREVIOUS | NEXT

HOME