プロローグ

●リノベーションと新たなインテグレーション技術
松村──設備と建築の問題は、スケルトンインフィルや安孫子さんのお話もそうなのですが、どうしてよいか結論がはっきりしないところです。話はそれますが、空調システムは床吹き出しで、床下をチャンバーにしたタイプのものを見たことがあります。壁際の一番下にスリッド状に吹き出しがあるので目立たない。見えなくて気持ちがよいので設計された方はそのようにしたのですけれど、将来を考えた時にそれで大丈夫なのかと思います。つまり設備だけ交換できるようになっているほうが後から簡単に交換できるわけで、建築と設備を一体化した状態にしてしまうと、にっちもさっちもいかなくなる。建築より排管設備のほうが寿命が長いから、交換するときには問題にならないと言う人もいるのですが、物理的にもったとしても陳腐化するスピードがまったく違います。設備的なもの、特に機械的なものと建築的部位は完全に分けることは難しくて、SIは完璧に分けるのですが、完璧に分けるとコストがかかってしまう。ですから建築と設備の問題は、リノベーションの現場で埋まっている配管をどうするかというときに必ず問題になり、そこをどういう考え方で整理していくか、です。SIはひとつの考え方を示しているけれども、一般的なリノベーションでどう考えていくかは悩ましい問題だと思います。
設備以外だと、例えば青木さんが耐震改修でカーボンを巻いていましたが、そのような要素技術はそろってきているので、新築と違って、建築を設計する立場の人間が探してそのような技術をインテグレートする時期にきています。何年かするとパッケージ化され、そういう意味での面白さがなくなるおそれがありますが、いまの段階は、要素技術をどのように組み合わせるとどのようなリノベーションができるのかということに、インテグレートする人の個性や創造性が発揮されるという印象を受けました。
松村秀一
▲松村秀一氏


太田──リノベーションの手法はまだパッケージ化されていなくて、アドホックに対応する場合が多いと思います。最初のIKDSの事例も壊す技術が大事だと、どうやって解体した躯体を搬出するかということを設計の手掛かりとしていました。非常に複雑ですが、建築の仕事としてやりがいがあることになっている。そういう偶発的な出来事だらけの、一つひとつが全部違う事例がますます増えていくのか、それともいくつかのシステムを生み出せるのか、どちらなのだろうかと思います。事例を見ると、きれいに分けられない、レガシーのように複雑な状況をアドホックに納めてみたり、または納めきれなかったものを表現しているほうが多いと思います。

難波──技術の概念についてですが、ハードな設備や材料、構造以外に、リノベーションをするときに、すでにある骨組や壁の配置を前庭にして、どういうプランニングをするかもひとつの技術だと思うし、松村さんがおっしゃったコストコントロールも明らかに一種の技術です。それを全部まとめ上げるのがインテグレーションの技術で、最初の5回のフォーラムでは、そういうソフトなインテグレーション技術について話されていたのだと思います。例えば、配管の経路を考えるのはハードの問題ではなく、ソフトの問題です。テーマとして明確な言い方はされなかったけれども、リノベーションが大きなジャンルを形づくるとしたら、プランニングやコストコントロールも含め、計画も新築とは違う新しいタイプの技術とスタンスが必要だということを、みなさんが語っておられたのだと思います。それが僕はとてもわかりやすかった。

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