プロローグセッション
●意味のある投資配分
これをわれわれが再生することになって、この建物のことを考えた時に、前の道路が非常に狭くて道路からビルの顔が上の方までなかなか見えなかったんです。それで、どこに効果的に投資の配分をするかと考えた時に、この場合は、エントランスから入ってくるところの動線を大々的に変えることにしました。入ってきて一番目につくところですので、投資のお金を配分する時に、ここに全体の顔を引き立たせるものを大掛かりにつくったことになります[fig.2-01]
一般的な転売をする不動産ファンドは、恐らくコンバージョンはほとんどしないんです。なぜかと言うと転売をする人にとって重要なのは、あくまで転売差益です。なるべく安く工事をして建物の顔をなんとなく良くして、できるだけ高く素人に売りつけるというのが転売する不動産ファンドのやり方です。われわれはあくまでも中長期に保有し続けるファンドですので、その時一瞬だけもうかるかどうかよりも、真っ当に工事して、真っ当に建築費をかけて、その後長く続く価値がある建物に復活させたいという考え方に立ちます。この時もこんなことまでしなくても、この場所であれば全部の部屋が埋まったと思いますが、そうではなくて、どこかに意味のある投資金額を配分したいということでこういうことをやりました。
[fig.2-02]も住宅棟のエントランスですが、やはり顔を変えたいということで、構造物だけ残して床を抜いています。通常こういったところは貸しフロアとして使いますが、ここは今ギャラリーみたいな使い方をしていまして、投資という考え方で、目の前の効率だけを見るファンドマネージャーからすれば「お前ら馬鹿か」ということになります。しかし、われわれはそれを敢えて無視して、この建物を長く続かせるためにこういう無駄のある空間をわざと取るつくり方をしました。住宅棟は、ずっと使っていなかったので水垢がついていましたが[fig.2-03]。中は仕切りを立てずに大きな空間のまま残して、上からの光の落とし方等をきっちりと残すかたちにしています[fig.2-04]。わりともったいない空間の使い方だったところも変えました[fig.2-05]。キッチンはカウンターの前が見えるレイアウトにつくり直したりしています[fig.2-06]。こういったプロジェクト等をやってきました。

fig.2-01 エントランスへのアプローチ fig.2-02 エントランス
fig.2-03 改修前 fig.2-04 改修後
fig.2-05 キッチン改修前 fig.2-06 同改修後
●ファンドマネージャーの投資判断
私は建築の専門家では全然なくて、どちらかというとファンドマネージャーという感じです。この投資がどういったかたちになったかと言いますと、これは再生のフェーズですでにあちこちで数字が出始めたのでオープンにしていい話だと思うのですが、物件自体は26億くらいの金額で取得しています。この物件を取得した時は「お前ら正気か」と言われました。そんな金額では絶対に合わないといわれたわけです。それに対して10億円くらいの追加投資をしています。これについても「お前ら正気か」と言われました。なぜそんな建築をするのか、それなら新築にするのとほとんど変わらないではないか、というわけです。実際のところ、新築よりは安いのですが、新築の3分の1でできるとか2分の1でできるというようなことはまったくないです。多分、新築の3分の2くらいのお金をかけています。これだけ不良債権として有名で、どこに欠陥があるかわからない建物ですが、今これを誰がどのファンドで所有しているかというと、先ほど名前が出ました年金の投資家の方たちです。入居者は合計で4つくらい入っています。
私どもが一番最初にやりましたのは旧耐震です。図面もなし、そして前の所有者もどこかへ行ってしまったという建物で、これを再生しました。当然お金を出す方は慎重ですから、「本当に大丈夫ですよね、いい建物ですよね。本当に安心できますよね」というようなことを言われます。このような方々を安定運用のファンドに組み込んでいます。
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