プロローグセッション
▲姜裕文氏
fig.1-01
●不動産ファンドとは
今日はまず不動産ファンドからご説明させていただきます。不動産ファンドにはいろいろな会社があり、まず縦軸と横軸に簡単に分けてみましたが、この横軸の説明からします[fig.1-01]。横軸の最初の方にある株式公開したいくつかの会社は、3〜5年前不動産の市況が非常に悪かった時に、安い値段で不動産を買ってその後転売し、その転売差益でもうけて投資家にお金を還元していくという型のファンドが中心でした。当時「外資の禿鷹ファンド」とよく言われていたかと思うのですが、そういった方々がまず最初に出ていったと思います。本来的には、不動産は長く保有して不動産市況や地価が上がろうと下がろうと関係なく、安定した配当として家賃を受け取れるというかたちが中心です。主なお金の出し手は、最初の頃の外資とは違いまして、国内の年金基金や生保・損保といった方々が中心と考えております。
リプラスはこの一番上にホフ(howff)という形でマーク入れしておりますが、実は今6月末でだいたい600億円くらいの資産を運用しております。今年の年末までには1000億をかなり上回れるのではないかと思っているのですが、運用している資産自体を転売したことは例外的な1、2件を除いてはありません。基本的には、全部の物件をこの先10年、15年と保有し続けて、その家賃を投資家の方々に配当していくというかたちで運用している会社です。
次に不動産の物件はどうやって取得していくのかということが縦軸になります。不動産ファンドの人間は多くが証券会社や金融出身ですので、ディベロッパーがつくられたものを取得していく、あるいは市場で売買されているものを取得していくという、収益物件の購入が中心です。これに対して再生開発型の併用というところにリプラスを入れましたが、でき上がったものを買うこともあるのですが、それだけではなくて、都心部で古くなった建物や使われていない空室の目立つ建物を買って、それを自分たちでバリューアップしていく手法を併せ持っています。専門的な言葉になりますが、こういったファンドをオポチュニティ・ファンドと言いまして、そういうタイプの運用をしています。独立系の不動産流動化と言われてるB社がオフィスを主体としている会社です。現在彼らはだいたい2000億円くらい運用していると思いますが、一番得意なのはオフィスで、築20〜30年のオフィスビルが中心です。金額にして20億〜30億円のちょうどほどよい規模のオフィスビルを買って、エレベーターなどの共用部や床等を全部きれいにして、新しいオフィスとして貸し出すことをやっています。オフィスの共用部の水廻りをきれいにするのは彼らが一番よくやっていることではないでしょうか。オフィスを中心にやっている会社さんに対して、私どもは住宅についてそういうバリューアップをやっているのが特徴です。
ちょっと専門的な話になると思うのですが、会社としての私どもの位置づけを明確にするために言いますと、われわれから見てお客様は誰かと言いますと、年金や投資家の方々です。年金の中でこういった投資をする時に、この間三井不動産のオポチュニティーファンドと複数の年金で競争になりました。リプラスとこういったファンドは、年金なり生損保なりのお客様のところで、結構競合するかたちになっています。都心でのこういった再生型のファンドは、アメリカだとニューヨークに結構ありますし、ロンドンにも結構あります。それは都市のつくり方や考え方が結構違うところから出てきていると思うのですが、東京でファンドとしてこういうことをやり始めているのは、オフィスのダヴィンチ、住宅のリプラス、そして三井不動産が少しだけやっているのではないかと思います。
fig.1-02

●新しい住宅ファンドとリート
リプラス全体としてどういうことをやろうとしているかというと、実は必ずしもこういう再生だけではなく、資金の運用会社ですので、住宅のインデックス・ファンドみたいなものをつくろうとしています。インデックスとは何なのかと言うと、日経225(日経平均株価)などを目にすることもあると思いますが、代表的な銘柄等を選りすぐって市場全体の動きと連動するものをつくるということです。われわれは住宅を主にやっているんですが、住宅は大きく三つにセグメントが分かれております[fig.1-02]。都心部の住宅は、最近の言葉で言えば、いわゆる港区のデザイナーズマンションで家賃25万円みたいなものもあれば、三鷹駅から徒歩3分、家賃6万円、住んでいているのは25歳くらいの若い人で酔っぱらってもすぐ帰れる駅近のワンルームというものもあります。あるいは大宮駅徒歩7分の駐車場付きの2LDKでファミリータイプ、家賃12万円みたいなものもあります。こういうものはマーケットとしては全然別々の動き方をするのですが、それぞれのマーケットから物件を選りすぐってポートフォリオをつくるということをやっております。
リプラスは年末でマーケットバリューは1000億円強になると思いますが、これを来年の1月くらいに最近流行のリート(REIT=Real Estate Investment Trust=不動産投資信託)として上場させようとしておりまして、おそらくこの数年のうちに5000億円くらいの運用規模になるというかたちで進めております。この時にワンルームとかファミリータイプの物件は、市場で売買されている物件や新規で建ててもファンドとしての投資採算は合うのですが、都心部のもので言うと、自分たちで再生するものが中心になっています。これは非常にシンプルで、ディベロッパーなどによって新築されたものを入札で勝って取得していたら投資としては合わない。その時に自分たちで手を加えて再生をすることになりますと、先ほど説明しました通り、競合がほとんどいませんので、投資として合いやすいところがあるわけです。
fig.1-03
●不良物件の再生
再生型の投資についてですが、これが今日説明する二つのプロジェクトのうちの一つ目です[fig.1-03]。バブルの頃の過剰融資なのか、こういった不良物件がいまだに都心部にぽつぽつと出てきます。こういった不良物件については銀行も不良債権の引き当ては終わったとか、不良債権の処理は進んだと言っておりますが、お金の面での引き当てはしておりましても、実際に物件の処理自体はまだまだしていないわけです。こういった物件をわれわれはファンドに組み込みまして、それに対して開発投資、いわゆる再生工事を施します。このときポイントになるのが新築よりは建築コストが安く、工事期間が短いということです。この安いというのは本当はあまり意味がなくて、短いというのがポイントです。それを住宅として再生してその後保有し続けております。概念としては非常にわかりやすい話だと思います。
続けて具体的にどんなことをやったプロジェクトか紹介します。これはもう竣工したプロジェクトですので、ご存知の方もいらっしゃるかもしれません。元麻布3丁目という、六本木ヒルズのすぐそばにあったものです[fig.1-04]。結構由緒ある土地だったようで、謄本を見ましたら、所有者が満州国になっていたのでびっくり仰天しました。その後、関西の地方新聞社がバブルの頃に新築の計画をしました。建てたのはちょうど1993年くらいですが、発注された方が建築代金を支払えなかったものですから、施工会社が工事の途中で留置権を行使されて、そのまま不良債権として結構有名な物件になっていました。その後NPLファンド(ノン・パフォーマンス・ローンファンド)という不良債権のファンドとして有名だったオランダ国籍の会社が所有していたんですが、不良債権の世界では厄介な物件として誰も処理できなかった物件でした。最後まで工事は終わっていないし、建ってから一度も使っていないということで、それをどうやって再生するのかということが結構議論になっていました。その当時は多分、ファンドの世界の感覚で言うと、どこまで工事が済んだかわからないものは、ちょっと改装するだけでは使えないという感じだったんです。建物は2棟ありまして、前が商業棟、奥が住宅棟です[fig.1-04]。地下1階は大浴場で、小さなプールもありました。建物で言うと、前の建物の上の方は所有者だった方が自分で使おうと思っておられたようで、わりと豪華な設備の住宅になっていました。2F〜4Fは診療所ですが、それも途中で工事が終わっていますので、内装も下地までで終わっていました。奥の住宅棟は、広さが100〜130平方メートルで、今はわりと市況が悪いですから、こういったタイプの住宅は外国人向けの高級賃貸ということになるかもしれません。それで、こういったものをちょっと改装するくらいでは利が合わないと皆さん手が出せなかったものなんです。
エントランスのところは、わりと暗いイメージでした[fig.1-05。この写真の奥の方は土がぼこぼこと盛り上がったりしていまして、結局、前の業者が検査済証をとるだけのために工事をして、そのままタイルを適当に被せていたという感じになっていました。
fig.1-04
fig.1-05
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