レクチャーセッション
石山修武――今日はプロの方を前にしてリノベーションの話をすることになりまして、概論になると思いますが、今までやってきた仕事がリノベーションという観点からするとどういうものだったのか、また今どのようなことをやっているのかをお話したいと思います。
実はもう四半世紀ほど昔になるのですが、僕が一番最初に書いた本が『バラック浄土』(相模書房、1982)といって、これはその年の一番売れなかった本に次いで2番目に売れなかったというものです(笑)。でも、自分の考えがよく出ていた本で、売れなかった本はいい本だったという伝説もあります。この『バラック浄土』で書いたことは、バラック建築がいいということではなくて、住宅の値段のことです。住宅の価格が日本ではなぜこんなに高いかというと、少し固い話になりますが、そこに管理価格というのがある。日本人は住宅の値段を坪いくらという考え方で把握していますが、それは非常に曖昧な管理価格だと思います。それで、これは一種の統制されていないカルテルだと書きました。そのために「産業の敵だ」とレッテルを貼られちゃったんですが、その時書いたことは今でもそんなに間違っていないと思います。この本はあまり売れなかったのですが、その次に書いた本が『秋葉原感覚で住宅を考える』(晶文社、1984)という本で、これは僕の本にしては珍しく売れました。タイトルがよかったんだろうと思いますが、皆さんを前にして言うのはおかしいですけれども、この本では、建材や建築部品の本格的なマーケットが日本には存在していないということ、それから、もう少し部品・部材が自由に流通して、それが激しく競合するようなマーケットが必要ではないかということ、そうなれば、住宅の一部は自分でつくれるようになりますよ、ということを書きました。この本が売れたからといって僕の仕事は増えなくて、石山はああいう考えで動いているからある意味ではかなり過激なんだということと、一般的なデザインのマーケットとは違うことを夢想しているということが、その時に定着したのではないかと思います。実は昨今、秋葉原も変貌してしまって、大阪の日本橋や東京の秋葉原に電気マニアが行っても安い部品が買えることはもうなくなってしまいました。電気部品も何もかも秋葉原が一番安いという時代はとっくに過ぎて、今秋葉原はおたくのマーケット、コンピュータ・ソフトなどの特殊なマーケットになっています。また、カメラやコンピュータに関しては、ヨドバシカメラみたいな量販店ができて、市場の性格自体が変わってきたと思います。
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