プロローグセッション

▲青木茂氏

●環境からのアプローチ
最初は「環境」ということで、じつは松村秀一先生から後輩の清家剛先生を紹介していただきまして、東京大学と東京理科大学と東京都立大学で《西陵公民館》リファイン建築の現場におけるCO2の発生量の調査をしました。まずこのことからお話ししたいと思います。
福岡市の西区にある公民館ですが、もともとこういう敷地にこのように建物が建っておりまして[fig.1-01]、その横の敷地を福岡市が買い足して増築してリファインしたい、ということを市で計画しました。できあがったのがfig.1-02です。スペース的には約倍の大きさです。fig.1-03は2階です。fig.1-04はダイアグラムですが、この建物のグリーンの部分を解体してスケルトンにしました。
fig.1-01 fig.1-02
fig.1-03 fig.1-04

fig.1-05が解体前で、これをfig.1-06のように解体しました。この建設会社の解体業者は全面解体の工法で作業をしていまして、なかなかこちらの思うように解体をしてくれません。かなり荒っぽい解体の様子になっているのがわかると思います。もし機会があればいま進行中の自由が丘の解体を見ていただくと、ほとんど完璧に近い解体をしているんじゃないか、というくらい精度が違っています。

fig.1-05 fig.1-06

次は補修、延命ということで躯体を補修したあとで、外気の影響を受けないように包んでしまおうということをやっています。fig.1-07のような建物がfig.1-08のようになる、これはまったく同じ建物のビフォア/アフターです。仕上げに関しては、市のほうから周囲の公民館とまったく同じレベルの仕上げにしなさいということでしたので、このプロジェクトでは僕はあまりタイルを使いたくなかったのですが、一部タイルを使いました。

fig.1-07・08

増築は西側にしました。fig.1-09は工事のときでfig.1-10が完成したものです。屋根の形状は、博多湾をイメージしています。広場の地面にラインを引いてまして、春分の日と秋分の日のちょうど12時に、そこに建物の影が落ちてラインと一致するということをやったんですが、このまえ「青木さん、この地区のイベントになっている」と言われまして、喜んでもらえているようです。200-300人が集まって、わーっと拍手が起こったみたいです。12時にちょうどぴたっとあうかほんとうはものすごく心配だったんですけど。

fig.1-09 fig.1-10

さてCO2の調査ですが、新築ですと、既存の建物があり、その全面解体をして、それから躯体を作るという作業をします。僕がやっているリファイン建築は一部解体して、耐震補強と補修工事をするということです。前述の3大学にこれの解体の調査をしていただいてCO2の発生量の比較をやってみました[fig.1-11]

fig.1-11

結局、解体時に関しては、躯体を再利用する場合は160kg-CO2で、新築する場合は23kg-CO2でした。解体に関してはリファインの方が手間がかかります。廃材の処理に関してはやはり新築する場合のほうが排出量が大きいです。なにが一番問題かというとその建築の資源ですね。コンクリートとかセメントを作ることに関してものすごくエネルギーを消費します。つまり、山から石灰岩を切り出すことから始まり、運搬、炉に入れて焼くことなどに莫大なエネルギーが費やされていることが数字的にはっきり出たわけです。躯体レベルでは、躯体を再利用すれば、新築した場合の60分の1のCO2発生量で済みます。建物全体で見ますと、《西陵公民館》では増築が半分ありますので約1割減になっています。いま自由が丘でやっているものは増築がまったくありませんので、この数値ががたっと落ちてくるんじゃないかと楽しみにしております。
福岡市からは、同年度に新築された公民館と持続性、耐久性、性能において、まったく同じものを作りなさい、ということを頼まれました。それをどうするかということで、サンプリング調査から出来上がりまで、全部公開し、書類として提出しました。fig.1-12はその一部ですが、この建物の6カ所をサンプリングしました。中性化の深さが2.6mmと圧縮強度が290kgと非常に良好な建物である。そして、新耐震法以後の建物ですので耐震補強に関してはまったくやらなくていいということで結論がつきました。

fig.1-12

fig.1-13は、耐用年数つまり、持続性能をどうするかということです。躯体をタイル、金属板で覆ってしまって外部の影響から守る、あとクラッシャー部分、ジャンカ部分、空洞部分、露筋部分に関してはこういうことをやりますよ、というのを先に提示しました。

fig.1-13

具体的な例を出しますと、fig.1-14は部分的な写真ですが天井部分を剥いでみると露筋していました。これにアルカリ性付与剤を散布して保護をするということをしました。新耐震以降つまり現行法規に適応した建築ですが、fig.1-15では壁にぱかっと穴があいている。これをちゃんと無収縮モルタルで補修します。

fig.1-14 fig.1-15

それから、この柱梁はピン構造ですが、fig.1-16ではラーメン構造の体をなしていません。これも無収縮モルタルを注入する。fig.1-17は打ち継ぎ目地にエポキシ系樹脂を低圧注入して、耐震壁にしています。計算上はいりませんが、すこしでも耐震性を向上させるために、これは常時行なっています。新耐震以前の建物は壁量が足りませんので、ラーメン構造でもこの方法はかなり取り入れています。皆さんが住まれているマンションやこの会場のようなビルもたぶんこうした状況になっていると思ったほうがいいのではないかと思います。いままでの経験上、完璧な建物に出会ったことはありません。結局、大小の違いはあれ、どこかに必ずトラブルがあります。

fig.1-16 fig.1-17

fig.1-18が出来上がりです。左側がもとの躯体で、右側が増築した部分になっています。fig.1-19は夜景です。

fig.1-18
fig.1-19

デザインの話を、今日はあまりしないようにしようと思っているのですが、福岡市の公民館では標準設計として天井高の平均値が決められていまして、やたらと低い天井になってしまうのでこういう遊びをやってみたというところです[fig.1-20]fig.1-21は新旧の接合部分ですね。fig.1-22は既存部分に和室を竹のインテリアで作りました。こちらは老人憩いの家と呼ばれるスペースを併設しているんですが、木を使って、部屋に入ると木の香りがぷーんとするようにしています。ここは老人が使うということで視覚と嗅覚で体験できる建築をつくりたいと考えました。新築と同程度のものをつくるということでこういうデザインをして、非常に喜んでもらっています。

fig.1-20
fig.1-22
fig.1-21

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