プロローグセッション
●リノベーションの動機
fig.06
つぎに、私のお客さんのリノベーション事例について紹介します。
まず、リノベーションの動機がどこにあるのかいうことなんですが、先ほどから言っているように、私のお客さんのケースでは、「住宅を取得する選択肢の一つ」としてリノベーションがあります。
この写真はなにかというと、実はちょっとかっこエエなとも思うんですけれども、間取りが同じようなものがだーっと並んでいる団地で、このように均質化されたものが大量に供給されてきたわけです[fig.06]
これは昨年に、あるマンションを改装したときの図面です[fig.07]。70平米の3LDK、和室が並んでたりしますが、やっぱりこういうものは3LDKで4人家族を想定してつくられています。でも現在はその家族像が変わってきているんです。で、私はこれをどういう間取りにしたかというと、寝室がひとつ、横にクローゼットがあって、居間がだーんとある、LDKで言うと1LDKになるんでしょうか、玄関からは廊下なしでキッチン&カウンターにしました。バスルームもトイレと区切らずに、大きなバスルームにしています[fig.08]。要はライフスタイルというものが変わってきまして、大阪市内の都心部では、世帯あたりの家族の数は、統計上2.1人くらいなんです。どの家をとっていっても、平均すると2人くらいなんですね。それくらい家族数というのはイメージよりも少ない。でも、いまでも実際供給されているマンションは3LDKとかが結構多い。おそらくそうしなければ次に売れないといった事情からそんな間取りになっているのでしょうが、やっぱり最大公約数向けの商品企画をするんですね。しかしいま、それではいろんなものが売れなくなってきたのではないかと思います。fig.09はいわゆる普通のマンションです。社名を言うと、長谷工さんのコンバス仕様で、ちょうど25年くらい前に標準プランでつくられたものをリノベーションしてお住まいになられているものです。家族は夫婦2人、奥さんが服飾関係の仕事をなさっていて、玄関を開けるといきなり仕事場で、その奥に2人で住まわれているというふうな改装をした例です。職住一致とか、SOHOとか言われるかもしれないんですけれども、そういうライフスタイルは確実に増えてきている。
写真左上:fig.07=リノベーション前
写真左下:
fig.08=リノベーション後
写真右上:
fig.09

fig.10
fig.10はコンバージョンです。一棟の小さなビルを買われて、2階、3階を住居に、1階をデザイン事務所として使っています。リノベーションの動機は、新しくつくられたものよりも、もともとあるものをどうこうするかっこよさとか、家具でいったら新品の家具よりもアンティークを使うことの心地よさを選択するというお客さんも増えているんです。
このガラスはチェッカーガラスといって、昔はよく使われたものなんですけれども、今はもう日本のメーカーはこれをつくっていないんです[fig.11]。それで、わざわざフランスから輸入したものを使って、入れ替えたりしているんですね。古いビルにはこんなのがまだ残ってるものとかがあって、だからかわいいとか、だから住みたいと言う人が増えてきてるわけです。
fig.11 fig.12
fig.12は水栓です。これも僕たちアートアンドクラフトではよく使うもので、メーカーはカクダイですね。TOTOにもこういう十字ハンドルがあります。いま市場で普通にマーケティングをすると、当然、シングルレバーの混合栓でないと不便だということであまりみかけません。でも、給湯器で温度の調整ができるわけですから、いわゆる単水栓でエエんちがうかと思いますまね。これなんかは千何百円の単水栓にカランを変えているだけですが、こういうものを選ばれる方が増えてきています。機能性だけではなく、見た目の部分でこっちのほうがかわいいと。
fig.13
これは、床にカーペットを使っているんですが、最近のカーペットは「ループ」といって、ループ状の目になっているんですね[fig.13]。昔だと「カット」という切りっぱしのやつなんですけれども、あえてそのカットのカーペットを使ったんです。こういうものを私どもの販売する物件に使うと、「あぁ、これがいい」といって、また使われたりすることもあります。賃貸マンションの広告を見ると床はフローリングですとかいって自慢しているんですけれども、かえってカーペットのほうがいいという人もいますね。

fig.14
fig.15
fig.14は、今も売られている布地です。かつてはこういう布クロスとかが結構ありました。この70年代ぐらいのデザインの布を壁に張って使ったりするんですね。私どもはそういうのを販売物件でやるんですが、それを見たお客さんが「私の家でもやってください」と。ただ、クロスを探しても全然製品化されていなくて、わざわざ生地屋さんと相談して、それを職人に無理を言って張ったりしているわけです。

fig.15のような古い照明を、コンクリートの打放しのところに付けています。このコンクリートは見ていただいたらわかるように、今の型枠で打ったものではない。古い建物なので、型枠が1枚1枚の木で、こういう表情があるからこの家に住みたいというふうに、だいぶユーザーのほうが変わってきて、エエこっちゃ、エエこっちゃと思っています。そういうのも含めて、リノベーション物件を購入して住んだりする動機になっているのかなと思います。

実際に7年ほど前から、私たちは集合住宅、いわゆるマンションを新たに買ってそれを改装するということを積極的に奨めています。だから、いま住んでいるところを改装する『ビフォー&アフター』というテレビ番組がありますけれども、あのパターンは実は私の会社ではほとんどないんです。あくまでも、住宅を取得する選択肢のひとつですから、賃貸で借りて大家さんと交渉して改装するとか、中古物件を買って改装するとか、そういうパターンです。それで、私どもの会社はその不動産を紹介するところから、つまり、不動産の流通業からやっているわけですね。

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