Renovation Archives[103]
●美術館の改修

三重県総務局営繕室+坂倉建築研究所大阪事務局《三重県立美術館
取材担当=川畑華子(三重大学)
概要/SUMMARY

左:創設時の航空写真
提供=三重県立美術館
右上:現在の三重県立美術館の外観
右中上:外観
右中下:書庫
右下:絵画収蔵庫
提供=三重県立美術館



三重県立美術館は、芸術資料の収集・保管・展示という美術館本来の活動を地域性/普遍性の双方を視野に入れつつ展開している。作品収集を最重要視し、美術館建設以前から収集活動をはじめ、開館時には約360点だった収蔵作品も、現在では約5,000点を数える。収集にあたり以下の方針が決められている。「1:江戸時代以降の三重にゆかりの深い作家の作品」「2:明治時代以降の近代洋画の流れをたどれる作家の作品、また日本の近代芸術に深い影響を与えた外国の作品」「3:作家の創作活動の背景を知ることのできる素描・下絵・水彩画」、そして三重県とスペイン・バレンシア州との友好提携が結ばれたことを機に、「4:スペイン美術」も基本方針に加えられ、作品収集が行なわれている。
しかし、積極的な活動の結果、芸術作品だけでなく図書や写真の増加もあいまって、収蔵場所の不足が問題になった。さらに、レストランやワークショップなど、建築当初には特別求められていなかったさまざまなサービスや、バリアフリー化が必要とされるようになる。それらの問題をふまえ、作品の収集・展示という美術館の基本的活動はもちろん、付加価値の高い新しい美術館活動を展開するために、2002年、開館20周年を機に増改築工事を行なった。
設計概要
所在地=三重県津市大谷町11
用途=美術館 [美術館→美術館]
構造=鉄骨鉄筋コンクリート造 一部鉄筋コンクリート造、鉄骨造
規模=地下1階、地上2階、塔屋1階
敷地面積=24403.80平米
建築面積=5955.49平米(増築:1184.67平米)
延床面積=10665.88平米(増築:2486.31平米)
竣工年=2003年(既存:1982年)
設計=三重県総務局営繕課+坂倉建築研究所大阪事務局+山田建築構造事務所(既存建物:株式会社 富家建築事務所)
施工=大成・日本土建・岸田特定建設工事共同企業体
築年数=25年
管理運営主体=三重県
施工プロセス/PROCESS
三重県立美術館の改修事業は、数社の設計事務所のプロポーザルが行なわれた。決定において最も重要視された要件は「20年前に作られた建物との調和」であった。採用された設計案は美術館の歴史を尊重し、多くの人が見て違和感のないもので、美術館の管理運営者側の希望と合致したものだった。

主な改修内容は、収蔵庫の増設とそれにともなう既存部分の改修、柳原義達記念館・美術体験室・講堂・レストランなどの記念館棟の増築、誘導ブロックやスロープなどのバリアフリー化などである。増設された収蔵庫は、既存の収蔵庫と一体として利用できるようにした。このことで作品の管理・運営が行ないやすく、非常消火設備も既存のものが利用できるようになった。

三重県立美術館は非常に丁寧な設計・施工を行なったため、大規模な耐震工事は行なっていない。1982年の建設当初、旧耐震基準で建てられたが、増改築時にコンクリートの強度測定などの耐震診断をし、現在の耐震基準をクリアしていることがわかった。
上:改修部分(左:講堂/右:ミュージアムショップ)
提供=三重県立美術館
左下:強度試験の跡
現状/PRESENT

レストラン

美術体験室

修復作業室

外観 *特記以外すべて筆者撮影
■改修以前は各展示室の使用法がかなり固定されていたが、改修以後は増築された柳原義達記念館の展示室の一室を企画展やコレクション展示に使用するなど、展示室の使用方法のヴァリエーションが増加した。建築において、新しい機能を付加するということは、増築部分・既存部分という区分を超えて、あらためて全体をひとつの建物として利用されるということなのだと再認識させられる。
増設されたカフェテラスのあるレストランは人気を博し、レストランでの食事を目的とした来客が増加した。美術体験室は参加・体験型の多様な教育活動の場としてつくられたが、少人数での作業や30〜40人規模の会議や園児の昼食の場など、さまざまな用途で利用されている。窓の外の緑が美しい修復作業室も、美術館活動をより質の高いものへと変化させた。
三重県立美術館は、他の美術館が収蔵場所の不足など同様の問題を抱えているなか、計画的にも予算的にも、非常にうまく問題を解決した事例であるといえる。ソフト面では予算案を含めた工事計画の立案、改修後の使用方法、ハード面では収蔵スペースの増設法、既存の建物と調和する改修の方法など、さまざまな点で参考にしたい建築である。
開館20周年を迎え、趣ある建物となった美術館の増改築は、雰囲気や佇まいはそのままで、よく見れば新旧の違いがちゃんとわかる。細かいところまで目が行き届いて、それが形になっている。素直で丁寧な本計画は、設計者と管理者の「美術館」に対する誠実な姿勢を表わしているといえる。
(川畑華子)
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