Renovation Archives [098]
●展示サロン
[教会→博物館→図書館→ギャラリー]
神戸市住宅局営繕部+(株)一粒社ヴォーリズ建築事務所
《旧ブランチ・メモリアル・チャペル》
取材担当=加納浩史(三重大学大学院)
概要/SUMMARY

創建時のブランチ・メモリアル・チャペルの外観
関西学院蔵(神戸市国際文化観光局、資料より)

現在の神戸文学館の外観
神戸市では、阪神・淡路大震災から10年経ったことを機に、2005年より神戸の文化を活かしたまちづくりを市民とともに考えていく「文化創生都市推進プラン」が始まった。この活動の一環として、2006年12月4日に神戸ゆかりの文学についての展示を公開する「神戸文学館」が開館した。
この建物の前身である旧ブランチ・メモリアル・チャペルは、1904(明治37)年10月に関西学院のチャペル兼講堂として建てられた。つまり、この建物は、関西学院にとってこの土地にキャンパスがあった時代を偲ばせる象徴的建築物である。
学院の移転後も、この建物は当地に残されており、1940年に神戸市の所有するものとなった。その後1945(昭和20)年の神戸大空襲を被災し、この建物は塔と屋根及び内部の大部分も消失してしまい外壁のみが残るという姿となった。しかし、1949年には、翌年に開催される神戸博覧会での瀬戸内海観光館として大規模な改造がなされた。このとき塔は復元されず、木造の小屋組も創建時とは異なる形式が採用された。さらに博覧会ののち、アメリカ文化センター、そして神戸市王子図書館として、用途を変更しながら活用されてきた。
1989年、図書館の新築移転により王子図書館が閉鎖された後、この建物のもつ歴史・文化的価値が再評価され、旧チャペルとしての外形をできる限り復元することを主旨とする改修が行なわれた。そして1992年に神戸市立王子市民ギャラリーとして開館した。
さらに、2006年の神戸文学館への用途変更にあたっては、管理運営主体をはじめとするソフト面がとくに変更された。文学資料の取り扱いに明確な指針を持ち、神戸新聞グループ企業との連携を図りながら情報の発信や管理運営体制を構築していけることが高く評価され、(株)神戸新聞地域創造が指定管理者に選定された。
設計概要
所在地=兵庫県神戸市灘区王子町3丁目1-2
展示サロン[教会→博物館→図書館→ギャラリー]
構造=RC補強 煉瓦造+金物補強 木造小屋組
規模=平屋建
建築面積=342平米
延床面積=342平米
竣工年=2006年12月(既存建物:1904年)
設計=神戸市住宅局営繕部+(株)一粒社ヴォーリズ建築事務所(既存建物:M・ウィグノール
施工=(株)新井組
築年数=103年
管理運営主体=(株)神戸新聞地域創造
管轄=神戸市国際文化観光局

外観 階段からアプローチ


サロンの様子


サロンから展示室への様子
施工プロセス/PROCESS
この建物は、1992年に王子市民ギャラリーへの用途変更の際に、一粒社ヴォーリズ建築設計事務所の設計で、大規模な改修が行なわれた。改修の基本的方針は、戦災による倒壊や、改造によって行なわれた創建時とは異なる部分を、市民ギャラリーとしての機能を満足させつつ創建時の姿に復元するというものであった。そのため、事務室や倉庫といった諸室は、本館とは別の分棟として計画された。
建物外観において最も特徴的な改修事項は、尖塔の復元であった。創建時の資料には鮮明な写真が残っていたため、そこに写っている煉瓦段数によって高さ寸法などが推定された。尖塔のスレート葺き屋根の仕様、ファイナルの飾り金物形状などは、写真では不明なため、類似の事例を参考に設計された。塔部の構造は、耐震のためRC造煉瓦タイル張りとされ、尖塔部は金物補強による木造となっている。1階玄関ホールは機能性を考慮して、スロープが新たに設置された。
建物外観における他の改修事項は、礼拝堂東部に設けられていたRC構造の玄関、北面の搬入口を撤去し、失われていた控え壁及び煙突を復元したことである。創建時のような煉瓦壁の意匠とするためRC造の躯体上に煉瓦タイル張りへと修復された。この煉瓦タイルは、古い煉瓦を再利用したものと、色を似せて新しく作られたものが合わせて使われている。2つの控え壁もまた構造補強のためRC造に改められ、当初の壁幅に比べ煉瓦2枚半積みの寸法へと幾分大きくされた。
建物内観における特徴的な改修事項は、礼拝堂の小屋組=ハンマー・ビーム・トラス梁である。戦災後の大改造で架設された木造トラスは、創建時とは異なった形式のものであった。そのため、創建時の小屋組を再現する改修が行なわれた。ここでも、礼拝堂内部の写真に基づいてトラス形式、意匠が設計された。補強として、求められる小屋組構造強度を満たすように部材寸法が算定され、振れ止めブレースが補われている。

左:復元された尖塔
右:控え壁(バットレス)

左:古いものと新しいものが合わせて使われている煉瓦壁
右:ハンマー・ビーム・トラスによる小屋組
左:王子市民ギャラリーへの改修時の平面図拡大
提供=(株)一粒社ヴォーリズ建築事務所
現状/PRESENT
Landmark Project ll
展示室
無音花畑
円形窓と尖頭アーチ窓
芸術不動産
アカンサスを模した柱頭飾り
ZAIMセミナーの様子 特記以外はすべて筆者撮影
こうした改修を経て、この建物は明治期における煉瓦造教会堂建築の姿をとどめながら、神戸の文学史を伝える場所として活発に利用されている。神戸文学館では、明治・大正・昭和・平成の時代ごとに、神戸で活躍した作家を当時の風景写真とともに紹介している。企画展示のコーナーでは神戸ゆかりの作家を特集した展示が行なわれており、土曜の午後には講師を招いてセミナーが開かれている。

この建物は、これまでに数回の改修が行なわれ、その時代に求められる機能を反映させ活用されてきた。1992年では、保存的態度での改修がなされたことによって、日本では貴重な明治期の煉瓦造教会堂の姿を、私たちは今見ることができる。これからもさまざまな手が入れられ、用途が変わって、活用されていくことだろう。そのこと自体が、この建物のもつ歴史的価値といえる。
その時代ごとに、建物の改修において何を残し、何を変えていくのか、何が歴史的価値なのか、ということを検討していく必要がある。今回の改修によって、この建物の新しい歴史が後世に伝えられていくことが期待される。

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