Renovation Archives [088] 阿部仁史アトリエ ●資料館[石蔵] 《みちのく風土館》
取材担当=林祐輔(東北大学大学院)
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概要/SUMMARY | ||
![]() 左:リノベーション前外観 右上:リノベーション後外観(夜) 右下:同、(昼) |
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■かつて、宮城県北部の栗駒地域一帯の米蔵として機能していた昭和8年築の石蔵を、まちの文化を伝える建造物として保存し、栗原市の風土品を展示する施設に改装する計画である。そのために、以下の3点を軸にプロジェクトは進められた。まず(1)耐震補強を施すこと、次に(2)ラウンジ機能を増築し、さまざまなイベントにも対応可能な文化施設へつくり変えること、そして(3)前面の修景道路に対し、石蔵の意匠性を引き立てることでイメージを一新することを目的とした。 設計は、阿部仁史アトリエである。かつての石蔵には栗原市の山車などの伝統工芸品を展示する有料の博物館を挿入し、中庭を挟んで設けられた増築部分には、開放感溢れるラウンジ、カフェなどを挿入することで、石蔵と増築部分との間に、「閉鎖性と開放性」「暗と明」「静と動」という対峙性を生み出している。そのあらたに創られた増築部分の特異な形状は、修景道路に対し開かれるように、また外部から中の様子が見えるようにする目的から生まれた形であり、いわば石蔵とまちを結びつける接触面として機能している。 |
設計概要 ●所在地=宮城県栗原市(旧栗駒町) ●主要用途=博物館 ●構造=鉄骨造 一部木骨組積造 ●規模=地上2階 ●敷地面積=2450.00平米 ●建築面積=817.65平米 ●延床面積=895.75平米 ・1階=775.18平米 ・2階=121.57平米 ●竣工=2000年3月 ●設計=阿部仁史アトリエ ●構造設計=NS設計 小野瀬順一 ●設備設計=総合設備計画東北事務所 ●施工=宮城建設 |
施工プロセス/PROCESS | ||
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■戦前に建てられた建物であるため、最初に耐震診断を行ない、その結果から、現在の耐震基準に合わせるために2つの改修が必要となった。まず、15間×7.5間からなる石蔵の長辺側の壁に対し、地震時に発生する横揺れによって壁の中央部が持ちこたえられなくなり、建物が倒壊する恐れがあった。そこで、コの字型の平面をもつ鉄骨の構造体を組み込み、これらをバットレスで押さえ込むことで、必要な耐震基準を確保した。またこの構造体を利用して、建物内を回遊できる展示動線を設定し、増築部のラウンジやカフェと、石蔵内の博物館とを自然に行き来できるよう、計画された。 もうひとつは、天井裏に被覆されていたモルタルの除去である。かつて米蔵に発生した害虫を燻蒸駆除するため、また、建物の密閉性を高める工夫として、蔵の天井裏に、厚さ約100mmのモルタルが被覆されていた。しかしながら耐震上のバランスが悪い状態であるため、今回の改修では、このモルタルをすべて撤去し、屋根を新しく葺き替えた。その際、排煙機能も備えた天窓を設置し、石蔵内に自然光を取り込む工夫も施した。 また石蔵の中は、長年に渡って堆積したほこりと黒ずみでかなり汚れていたため、大々的な洗浄作業を行なった。これによりかつての木材の美しさが甦り、内部空間は一段と迫力を増した。 これらの工程は、蔵の壁面をできるだけ傷つけないために、ほとんどが手作業によって、慎重に進められた。そのような作業を経て、組石造というかつての伝統工法と、鉄骨造という現代技術が融合した空間へと、リノベーションされた。 |
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上:リノベーション前外観 下:石蔵に鉄骨の構造体を挿入する |
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左上:1階平面図【拡大】 右上:2階平面図【拡大】 左下:A-A断面図【拡大】 |
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石蔵内の工事中の写真。石蔵を傷つけないために慎重に作業は進められた |