Renovation Archives [083]
●インキュベーション施設
[作業事務所]
リナックスカフェ
取材担当=福岡英典(明治大学大学院)
概要/SUMMARY

左:改修前の下島ビル
提供=リナックスカフェ
右:現在の《リナックスカフェ》外観
筆者撮影
■千代田区による「SOHOまちづくり構想」のなかから生まれたプロジェクトである。もともと神田・秋葉原地域は、江戸時代に町人の町として栄えた場所であり、非常に細分化された土地利用・所有関係になっていた(秋葉原駅前周辺は火除地だったので事情が異なる)。それゆえ再開発事業などはできず、結果的に小さなビルが高密度に集まった状態となっており、産業や定住人口の空洞化、空き室率上昇などの問題が発生していた。そのため地域活生をはかる必要性から、千代田区街づくり推進公社(現・財団法人まちみらい千代田)において議論が重ねられ、この地域の再生にはSOHO事業者の集積がふさわしいという方向性が固まった。
秋葉原に立地する現在リナックスカフェとなっているこのビルは、地元住民から区へ寄贈された後、公社へ無償貸与された。2001年にこのビルを地域活性化の拠点とするため、公社が事業推進者となり、「下島ビル・ベンチャー育成センターまちづくり事業」として事業コンペが行なわれた。その結果、地域活性化のまちづくりの面や、IT関連のベンチャー育成という趣旨に最も即した内容として高評価を得たリナックスカフェ案が選ばれ、公社と10年間の定期建物賃貸借契約を結んだ。
このリナックスカフェは「Linux」というオープンソースソフトウェアを軸として、Linux関連の研究、コンサル、ベンチャー育成、サポートセンター、インターネットカフェなどを複合したプロジェクトとなっている。
設計概要
所在地=千代田区外神田3丁目13番2号 リナックスビル
所有者=千代田区
運営主体=(株)リナックスカフェ
用途=作業事務所→インキュベーションオフィス、カフェ
構造=鉄筋コンクリート造
規模=地下1階・地上5階
敷地面積=225.94平米
延床面積=1201.27平米
竣工年=2001年(既存1962年)
改修=清水建設
施工プロセス/PROCESS
建物内の空間は最低限の改修はあったものの、基本的にそのまま使用しており、入居企業に自由に使わせている。しかし、古い建物であったため、電源設備や情報インフラ整備に2億円近くかかった。
1階カフェはリナックスカフェ代表取締役社長の平川克美氏の設計による。店舗扉をセットバックさせ、そこにできた空間をオープンスペースとし、通常はオープンカフェとして利用でき、快適な空間を演出している。イベント等があるときは展示スペースとしても使えるなどフレキシビリティな空間が建物のファサードを構成している。
左上:オープン時の様子
提供=リナックスカフェ
右上:カフェソラーレのオープンスペース。この空間はアイデア次第で使い方無限。街とリナックスカフェを結ぶ重要なインターフェイスになっている
筆者撮影
左下:階段、エレベーターはそのまま使用
筆者撮影
入居企業は使い方にあわせて自由にレイアウトしている 提供=リナックスカフェ
現状/PRESENT

1階カフェソラーレ
筆者撮影

カフェソラーレ店内の様子。無線LANが設備されているので、パソコンを持ち込めばインターネットができる
筆者撮影
上:千代田区内の小中学生を対象としたIT教室。平川社長と法政大学の國井利泰教授が区に提案して実現した
下:2003年に行われた最新技術と江戸文化が融合した知的エンタテイメントイベント「あきばでぢたる横町/怒濤の裏通りJACK」の様子。右はまちづくりの提案に関するイベント

提供=リナックスカフェ
■現在、リナックスカフェは1階が一般開放されているインターネットカフェ「カフェソラーレ」、2階にリナックスカフェのオフィス、そして地階と3階から5階までにベンチャー企業15社が入居している。2001年12月のオープン以来、産官学の協力プロジェクトの理念のもと、リナックスというオープンソースをプラットフォームとし、他には例を見ない新しいビジネスモデルとして街の活性化拠点として精力的に活動してきた。周辺地域との関係も築き、千代田区内の小中学生を対象にしたITスクールを開講したりするなどイベントも仕掛けてきた。
しかし平川社長は、「行政側からここを活かすための提案もでてこないし、ほんとに何かをやっていく体制が行政にあるのか疑問だ」と言う。行政と民が手を組んで始まったプロジェクトであったが、行政の協力がないのだ。産官学連携も現実にはないと言う。しかし入居している企業は順調に成長を続けている。区の構想を機能させていくためにも行政からの協力が絶対に必要であり、すべてをリナックスカフェに任せるのではなく、もっと連携、サポートするというかたちを取っていくべきであろう。
(福岡英典)
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