Renovation Archives [081]
取手アートプロジェクト実行委員会
●取手エリアコンバージョン (タウンマネージメント)

《取手アートプロジェクト Toride Art Project -TAP-》
担当=渡辺 ゆうか
概要/SUMMARY
概要
取手アートプロジェクト実施本部
所在地=茨城県取手市取手3-4-11
カタクラショッピングプラザ5F
公式ホームページ=http://www.toride-ap.gr.jp/

《取手リ・サイクリングアートパレット》(1999)
制作:東京芸術大学先端表現科
企画:渡辺好明
製作:秋廣誠・木村崇人・古池周文・三上清仁
協力:イイダサイクル商店・オンザロード
茨城県取手市の行政と市民、および東京藝術大学によって展開している取手アートプロジェクト(Toride Art Project以下TAP)は、1999年4月、東京藝術大学取手校に先端芸術表現学科が開設されるのを契機に始動する。同年、20年間に渡る取手市のJR東口土地区画整備事業の最終年度でもあり、再開発事業の一環として芸術作品の設置が決定された。取手市のアドバイザーを勤めていた東京芸術大学建築科六角鬼丈教授は、仮設的な作品展示場所として、高さ2m、幅3mの鉄板を東口と駅周辺に12基設置する「ストリートアートステージ」を提案する。駅前4基に対する作品制作を、取手市 は先端芸術学部に依頼する。議論がなされた末に、同学科の渡辺好明教授は、市内の放置自転車をリサイクルし、駅前からそれらの自転車を使用し見て回る野外アート展を逆に取手市に発案する。その案を受け7月に、市民、大学、行政からなる取手アートプロジェクト実行委員会が発足した。同年10月に、「取手リ・サイクリングアートプロジェクト」を開催し、取手在住作家、関係作家などによる「オープンスタジオ」プログラムも行なわれた。さらに2003年東京藝術大学取手校に音楽環境創造科が新設されて、同科の熊倉純子助教授の指導の元にアートマネージメント授業の一環としてTAPを取り入れ、多くの学生が関わるプログラムへと発展する。2004年には、アートマネージメントや芸術によるまちづくりを学ぼうと市外からでもインターンとして参加できる「TAP塾」が開設される。TAP塾の主な活動は、美術に関わる専門家の講義が年間5-7回、展覧会の企画、資金調達、広報活動など運営スタッフと協働しながら学んでいく。空き店鋪や住宅などを使用したハードな側面と、人材育成などのソフトな側面を総合的に進めているこのプロジェクトから、ネットワークを構築するツールとしてのリノベーション、コンバージョンの可能性を見る事ができる。

TAP構成図
施工プロセス/PROCESS
オープンスタジオ風景
TAP運営スタッフでもある地元在住彫刻家の島田忠幸氏のアトリエ
すでに1992年4月に開校していた東京藝術大学取手校の影響もあり、取手では多くの学生や作家が拠点を持ち、制作を行なっていた。しかし、作家達の存在があまり住民に認知されていない状況は否めなかった。
1999年10月、作家を公募し開催される企画展「取手リ・サイクリングアートプロジェクト」、作家のアトリエを開放する「オープンスタジオ'99」が行なわれる。これらは、身近な空間が住民と共有できるものへと変化するきっかけになり、TAP隔年主要事業として継続されることになった。現在までのTAPのテーマ変遷を追うと、2000年「家と郊外をめぐる再発見」、2001年「オープンスタジオ」と「アーティスト・イン・レジデンス」、2002年「Take Me to The River──川を知る 川に学ぶ」、2003年「オープンスタジオ──アーティストの仕事場」、2004年「1/2のゆるやかさ」、2005年「オープンスタジオ〜はらっぱ経由で逢いましょう」となる。使用されなくなった古い民家、アパート、住宅、団地、そして空き地に利根川など、市内のあらゆる場を通して行なわれるプロジェクトは、市民や作家、携わる人々の関係を築くとともに、地域を再認識する役割を果たしている。

田中大造+山嵜一也《タイムトンネル》(2000)
場所:念仏院下木造住宅念仏院下
木造住宅を使用し「過去」というフィルターを通して「未来」を見つめる装置とし、「家の思い出」と「都市計画」という相反する2つの要素をひとつの形にすることで、現在の取手をリアルに捉えると考えた。

ホンマタカシ《Tride City 2000》 (2000)
場所:かたらいの郷
住宅を模して造られたスクリーンには、日没後に取手の郊外風景がスライド上映される。ホンマの「まなざし」が捉えた取手の日常の風景約100点がコマ送りされる
左:アーティス・イン・レジデンスを実施し、ニューヨーク在住のアーティスト、リチャード・ノナス氏を招いた(2001)
右:《舟プロジェクト》(2002)
この地域の農家に保管されていたサッパ舟橋を多数連結して舟を作る。古利根沼に浮かべることで取手市と我孫子市の行政上の境界線をつなぐ
東京藝術大学美術学部先端芸術学科 古川研究室《触覚アートプロジェクト〈TECTILE RESTAURANT in the dark〉》(2003)
真っ暗闇の中、手探りでさまざまな触感ディナーを楽しむ触覚レストラン
椿昇《RADIKAL CARBON》(2004)
場所:たんぼ/ごみ処理場
竹炭を媒体として環境問題、国際援助、肉体労働が交錯するプロジェクト

ここまですべて提供=TAP
現状/PRESENT
左:取手市市役所の仲介により、JA茨城みなみ農業協同組合から提供された大谷石作りの旧米蔵。東京藝術大学彫刻科出身の彫刻家3人が共同スタジオに改修し、使用している。左から佐藤正和さん、森岡慎也さん、浅川洋行さん
右:TAPサテライトギャラリー
ショッピングセンターの1フロアーにすべて、自分達で設計、施工を手掛けたセルフビルドギャラリー
左:アトリエ蔵、裏口部分
右:TAPは、多様な個々の力によって支えられている。左から毎回「オープンスタジオ」に参加している「アトリエ蔵」の作家、佐藤正和さんと森岡慎也さん、取手アートプロジェクト実施本部・運営スタッフ 柴田欽子さん、東京藝術大学美術学部先端芸術表現科・渡辺好明教授
■通常の建物のリノベーション、コンバージョンという意味合いよりも、包括的な視点でこの事例を捉えることでその位置づけが明確になりうる。小規模なコンバージョンが同時多発的に地域で展開され、それらのスパンに注目することでいろいろな可能性が見えてくる。TAPにはイベント性の高い短期的なコンバージョンの側面、日常的に使用されているアトリエなどの場の長期的な再利用があり、このバランスが一過性にならない広い展開と継続を可能としている。さらに2004年から始動したアートコーディネーター、マネージャーなどの人材育成インターンシップ制度「TAP塾」の果たす今後の役割は大きい。より良い提案をしても、その事柄を受ける土壌や担い手がいなければ行き場を失ってしまうからだ。発足から8年、地域でのあり方を模索し続けるTAPが、取手駅東口前のカタクラショッピングプラザ5階にホワイトキュープを2つ設置して、ギャラリーを開設し、年に8回ほどのペースで企画展を行なっている。流動的な活動のなか、拠点場所を設け、新たな局面を迎えている。TAPの一連の活動は、取手が「芸術の杜」へ成長するための地域や住民意識の土壌改良や才能の植林作業をしているともいえる。リノベーションやコンバージョンは、その為に必要不可欠な操作の一環として折り込まれている。道具のように、その時々の目的に応じて長短期のリノベーション、コンバージョンを軽快かつ柔軟に使い分けることの可能性をこの事例から見る事ができる。
(渡辺 ゆうか)
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