Renovation Archives [078] (株)クアトロ一級建築事務所 ●社会教育施設+アーティスト・イン・レジデンス事業[小学校] 《もりや学びの里:ARCUS》
取材担当=渡辺ゆうか
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概要/SUMMARY | ||
設計概要 ●所在地=茨城県守谷市板戸井2481 ●用途=社会教育施設+アーティスト・イン・レジデンス ●構造=鉄筋コンクリート造 地上2階建て ●敷地面積=11,213.57平米 ●建築面積= ・A棟:776.09平米 ・B棟:431.75平米 ・体育館:882.63平米 ・バーベキュー施設(回廊含):293.41平米 ・その他:62.17平米 ●延床面積=3,367.82平米 ●建築年月日=1996年(既存:A棟=1967年/B棟=1979年) ●企画=守谷市 ●企画=(株)クアトロ一級建築事務所 |
校舎とバーベキュー施設をつなぐ回廊は、新しく設置された 写真提供:守谷市 残された校庭は広場となり子ども達の絶好の遊び場になっている アーカススタジオの「サロン」にある黒板。スタジオ周辺の地図が描かれている 以上2点:筆者撮影 |
■茨城県守谷市では、廃校を社会教育施設「もりや学びの里」として転用した事業が1996年から進められ、日本でも珍しいアーティスト・イン・レジデンスを取り入れたプログラムアーカスプロジェクトも同場所で展開されている。守谷市立大井沢小学校は1989年に創立100周年を迎えたが、隣接する地区の都市基盤整備公団による住宅団地の整備にともない同地区内の住人分布が変化したことで、1994年総生徒数が192人という状況に陥り生徒数の増加も見込めないことから、近隣地区の小学校と統合し廃校へと至った。廃校決定後は、市が中心となり学識経験者や住人代表を含む20名で構成され、「校舎および跡地利用検討委員会」が設置される。同委員会は、現場調査、先進事例の視察、住民アンケート調査などを行ないながら跡地の利用方針を検討し、「町民が世代を超えて利用できるコミュニティーゾーンを確立していく」という基本理念を軸に、実習、学習、宿泊施設、芸術家との交流を図る施設を含んだ社会教育施設という形式に決定する。 一方でアーカスプロジェクトは、もともと1991年に東京藝術大学美術学部が茨城県取手市に開校される事を受け、茨城県がより国際的な創造・交流支援活動に取り組むための拠点になるようにと構想された。そして、都心への利便性や地域性を加味し茨城県南端に位置する守谷市が選ばれた。当初、アーティストのためのレジデンス施設を建設する計画があったが、「もりや学びの里」が開設される事を受けて、同施設内にレジデンススタジオ施設を作り、本格的にアーティスト・イン・レジデンス事業化へ向けた一歩を踏み出すこととなった。 |
「星屑のテラス」と名付けられ円形に12基のかまどやテーブル椅子が配置され、市内に在住・在勤・在学していれば、申し込みをして無料で使用できるシステムになっている 写真提供:守谷市 |
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事業展開経緯: アーカスプロジェクトは、大きく分けて、国内外の現代芸術分野の若手アーティストを招聘し、滞在期間中に制作活動を行なう「アーティスト・イン・レジデンス」と、地域の人々が芸術に親しみ、体験する機会を提供する「アーカスと地域をつなぐプログラム」で構成されている。 アーティスト・イン・レジデンスプログラムでは、毎年若手芸術家が5名程度選出され、最大5ヶ月の滞在期間としている。 1995年度〜2002年度までは海外協力機関や推薦委員の推薦アーティストの中から選考委員会で決定。2003年度以降は公募による申請者の中から選考委員会で決定されている。 |
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「巨大オブジェ作りに挑戦!」(1997)グレン・デビッドソン(アーティスト)による紙の素材で建築的スケールのオブジェを制作するワークショップが計13日間行なわれ、参加者は述べ131名 | 《Archipelago 0:3000000(群島)》(1998)中国から来日したツァン・ウェイが初めて経験した地震から島国としての日本に感心を抱き、天井から吊るした紙の作品 |
《紙の住居》(2004)住居や環境システムの研究の一環として、ライケ・ルッターはウニの構造に着想を得て制作する | ライケみずから材料となる使用済み紙や段ボールを集めるのに当たっては、独自の紙収集システムを考案し、自ら素材集めに奔走 |
1999年にアーティスト日比野克彦を迎えて研修プログラム「H+H HIBINO HOSPITAL」(日比野美術研究室付属病院放送部)を発足。誰でも参加できる多彩なワークショップを継続的に実施している | 制作に没頭するリン・チェン=ロン(2004) |
《パラシュートとマキオ in Ibaraki》(2003)アーティスト磯崎道佳によるワークショップ。 | |
《地獄-0》(2004)台湾から来たリン・チェン=ロンは、スタジオの天井や壁にぶら下がる鍾乳洞のような無数の突起物や鑑賞者の動きに反応してゆっくりと点滅する照明、太鼓を打鳴らす人形など配置し、スタジオそのものをインスタレーション作品へと転化し、陰陽の二面性を表わす空間を作り出した | 小さなパラシュートを作り、それにメッセージを付けて、くす玉型人形「マキオ」の中に詰め高いところからばらまく。子供達は空から降ってくるパラシュートを取り、見知らぬ誰かから送られた手紙を読み、自分の外に広がる世界を感じる 以上提供=アーカスプロジェクト実行委員会 |
■常総ニュータウンとして発展してきた守谷市の人口は現在55,000人を超えている。ここ数年は年500〜1000人の割合で増加しており、2005年のつくばエクスプレス開通の影響もあり人口はさらに増えていく傾向にある。また、この地域のライフスタイルは、車を移動手段の中心としているため、どうしても住民の活動の場は点として存在してしまっている。そうした状況のなかで小学校の面影を残し用途転用した〈もりや学びの里〉の役割は、さまざまな側面での拠点と言える。そこは子ども達の遊び場であり、休日には家族で楽しめる場所であり、アーティストは旧小学校という舞台に日本を感じながら作品制作に集中することができる。それぞれの行為はお互いに交わることを強制されずに、ごく自然に生活の中で共存している。建物のリノベーション、コンバージョンが特殊な選択肢ではない今だからこそ、廃校を使用し約10年にわたる事業が定着したことを確かに実感できる。新しく街が形成されている中で、小学校独特の和やかさを残し住人の日常が広がっていることは理想的である。そして、建物の持つ記憶が、滞在するアーティストの創造力を誘発する機能を果たしていることも忘れてはならない。
(渡辺ゆうか)
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