Renovation Archives [078]
●オルタナティヴ・スクール[小学校]
《さくら国際高等学校》
取材担当=新堀学(新堀アトリエ一級建築士事務所主宰)
概要/SUMMARY
設計概要
●所在地=長野県上田市
●用途=オルタナティヴ・スクール(以前は小学校)
●事業主=さくら国際高校

●敷地面積=20,000平米
●建築面積=1,900平米
●延床面積=3,300平米
●階数=地上2階
●天井高=3,200mm
●構造=木造
●既存校舎=大正期建設(旧西塩田小学校)

旧西塩田小学校外観
撮影=八木晴之
■通信制・単位制「さくら国際高校」は、廃校になった旧木造小学校を「オルタナティヴ・スクール」として再生させたプロジェクトである。1996年に廃校になったこの大正期の木造校舎を、2005年に政府の構造改革特区制度を利用し、校舎を借りるかたちで学校が設立された。
学校のプログラムは、不登校生徒や、高校を中退した生徒の受け皿をめざす、オルタナティヴ・スクールである。
このプロジェクトが発表されてから、さまざまな廃校から誘致の呼びかけがあったそうであるが、やはり歴史を持った木造の校舎であること、地域の受け入れの空気、そして環境などから、この場所が選ばれたという。

この校舎は、市と賃貸契約を結び利用されている。これまで学校は校地と校舎を所有していることが条件だったが、構造改革特区の規制緩和により、土地や校舎を所有していない団体でも学校設立が可能になった。
この「さくら国際高校」は、東京にある同一運営体の東京国際学園高等部という学校との連携により、常時上田に通う生徒30名と、東京から1年に20日間くらいスクーリングに訪れる生徒とで利用されている。この学校法人は民間の株式会社であり、まさに特区ならではの運営形態である。パブリックセクターのやるべきことと、それ以外のコモンセクター、コーポレートセクターが提供できることが、うまくつながることで、このような眠っていた空間リソースを再活用することができるという事例である。
施工プロセス/PROCESS
現在の利用は、貸与されたものをそのまま活用中であるが、今後の計画として地域との交流活動や、スクーリングの中のワークショッププログラムの展開に対応するかたちで、使いながら手を入れていく、使いながら作っていく学校にしたいと考えている。
また、耐震、環境設備など、使いつづけるための改修なども必要になると考えられている。具体的には現在、水周りの改修を行ない、また分棟を結ぶ渡り廊下を改修している段階であった。

今後、徐々にプログラムとして、生徒と共に育つ学校でありたいと考えているようだ。
配置図
現状/PRESENT
旧昇降口 階段室
廊下

左:旧作法室
右:体育館

左上:木製サッシュ
右上;階段
左下:旧教室
右下:校庭と校舎
以上、すべて撮影=八木晴之
■記憶の器としての木造校舎
木造校舎としての趣のある風情から、いくつかのドラマ撮影のロケ地として利用されている。時間を経てもなお残る空間の力、あるいは時間が刻んだ人の営みの痕跡といった、新しい校舎では得ることのできない価値が認められ、また、社会に訴えかける力をも持っているということであろう。

今回のコーポレートセクターとパブリックセクターの連携による、眠っている建築リソースの社会への再接続という関係は、ほかの場所でも可能になる考え方なのではないだろうか。もちろん、そのときに重要なのは単なる空間と経済のやり取りが行なわれるということだけではなく、むしろセクターを横断するかたちで大きなミッションが構築され、共有されることであろう。
建築が変わらなくとも人が動くことで、リノベーションが成立するというそのプロセスがこの「さくら国際高校」のこれからの展開のなかで検証されていくことであろう。
(新堀学)
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