Renovation Archives [070]
都市基盤整備公団(現・都市再生機構)、槇総合計画事務所
●オフィス+ギャラリー
[銀行](BankART 1929)
●ギャラリー+PUB+スタジオ+ライブラリー
[資料館](BankART NYK)
BankART1929 Yokohama》《BankART Studio NYK》
取材担当=渡辺ゆうか
概要/SUMMARY
設計概要
《BankART1929 Yokohama(旧横浜銀行本店別館)》
所在地=神奈川県横浜市中区本町6-50-1
用途=オフィス+ギャラリー
構造=鉄骨構造、一部鉄骨鉄筋コンクリート造
規模=地上27階/地下3階一部
敷地面積=3840.76平米
建築面積=153平米
塔屋1階:153.61平米
・塔屋2階:133.03平米
竣工年=2003年(既存:1929[昭和4]年)
企画=都市基盤整備公団(現・都市再生機構)
設計=都市基盤整備公団(現・都市再生機構)、槇総合計画事務所

《BankART Studio NYK》
所在地=神奈川県横浜市中区海岸通3-9
用途=ギャラリー+PUB+スタジオ+ライブラリー
構造=鉄筋コンクリート造
規模=地上3階

《BankART 1929 Yokohama》外観
旧第一銀行横浜支店の復元保存された部分。トスカナ式オーダー列柱の半円形バルコ二と一部正面玄関部分が曳家により移築された

《BankART 1929 Yokohama》内観
ギャラリー天井部分も、元の天井を型取りし、GRG(繊維強化美術石膏)復元したもの
腰壁の大理石も再現されたものである
写真提供=BankART1929
■横浜市北仲通地区では、市が推し進めている歴史的建築物などを使用した実験プログラムBankART1929が行なわれている。このプログラムは、中心市街地の都市再生プログラムに基づいた文化事業であり、これまで横浜という土地が培ってきた文脈を活かしながら、表現の場に経済構造を持たせる事を目指している。
事業が始まった2004年当初、旧富士銀行と旧第一銀行横浜支店の2棟の活用を基盤としていたが、現在は旧第一銀行横浜支店と2002年まで日本郵船歴史資料館として使用されていた倉庫が使用されている。
市が目的とするこの実験事業には、二つのテーマがある。ひとつは、歴史的建築物などを活用した創造的活動によるまちづくりの試み。もうひとつが、行政と民間との協働による施設運営だ。
2004年1月、横浜市は運営母体となる民間団体24組のなかから、演劇・ダンスの分野で活動するNPO法人STスポット横浜と、建築の側面から美術にアプローチするPHスタジオと美術ジャーナリスト・村田真氏で構成されるYCCCプロジェクトの2団体を選出した。この二つの共同団体発足 から45日足らずで、2004年3月6日には、公設民営の運営形態を採るBankART1929が開館した。

ちなみに、BankART1929とはバンク(銀行)とアート(芸術)の造語にあたり、1929年は対象の銀行二つが建てられた年にあたる。

《BankART Studio NYK》外観
階段部分が外部に設置されていることで、外部、内部、上下の空間を同時に結び付ける役割を果たす。施設全体が創造を誘発する場であり、特別な催しがなくてもこの環境を求め訪れる人も少なくない

《BankART Studio NYK》入口部分
現在の日本郵船ビルに気を取られて、
ハンガートンネル設置前は通り過ぎてしまいそうな入口部分だった
以上、
提供=BankART1929

ハンガートンネル
目印になるようなアプローチ部分の改修を手掛けたのは、北仲WHITEの住人でもある、みかんぐみ。30メートルにも及ぶハンガートンネルが、現在の目印となっている。使用針金ハンガー本数:約15,200本
筆者撮影
施工プロセス/PROCESS
この実験事業は、二つの建物を同時に運営している。
ひとつは、オフィス機能とホールを備える《BankART1929 Yokohama》。塔屋1、2階部分は、旧第一銀行横浜支店として1929年に建設された。市街地再開発事業として、1995年に中区本町から現在の位置にバルコニー部分と正面玄関部分を移築(曳屋)して復元保存され、2003年2月に槇文彦氏の設計により、地下3階地上27階の象徴的なアイランドタワーと接続する現在の形態が完成する。
もうひとつは、日本郵船歴史資料館として使われていた倉庫を改修した《BankART Studio NYK》。《BankART1929 Yokohama》開館当初は、旧富士銀行を使用していたが、東京藝術大学大学院映像学科の誘致が決定したことを受けて、2005年1月15日に現在の場所に移転する。もともと資料館と使用されていた為、2階部分は展示設備を取り払い、最小限の工事と設備投資をした。1階の巨大な倉庫部分は、倉庫としての用途を残しつつ、トイレなどの設備を新設し、床にはコンクリートを打ち、多目的の大空間として使用できるものにした。この移転によって得た倉庫という建物の魅力と沿岸という立地条件は、それぞれ、文化活動の可能性の拡大、横浜の魅力あるロケーションを取り込む契機となった。
左:《BankART Studio NYK》改修前
2年前まで日本郵船歴史資料館として使用されていた為、仮設の壁の解体と大型什器の撤去が主な作業となった

右:同、改修後
直径90センチの柱が6メートルスパンで立ち並ぶ
左:《BankART Studio NYK》倉庫改修前
地下倉庫部分、奥にはビニールハウスが残されていた為、解体撤去した
右:同、改修後
床の土間コンクリート打ちの作業及び照明・水周り設備を整え使用可能な什器は、臨機応変に活用する姿勢をとっている
《BankART Studio NYK》平面図
左:1階
右:2階
《BankART 1929》平面図
左上:地階
右上:1階
左下:2階
右下:3階

写真、図面すべて
提供=BankART1929
現状/PRESENT

BankART1929ホール
展示オープニングパーティー
写真提供=BankART1929

BankART 1929 ホール
珍しいキノコ舞踊団「ハッピーバカキノコスーパーサンデーアフタヌーン」
写真提供=BankART1929

BankART1929ホール
「GLOBAL PLAYERS──日本とドイツの現代アーティスト」展示風景
写真提供=BankART1929

BankARTStudioNYK
テアトロ・マクマイアダンス公演「カルメン・ミランダ大野一雄へのオマージュ」
筆者撮影

BankARTStudioNYK
アトリエ・ワン《リムジン屋台》
筆者撮影

BankART Studio NYK
みかんぐみが制作した《マナイタハウスPUB》では、単に飲む目的でやって来る人、展示の後に一杯、パフォーマンスの前後に一杯、スクールの後に一杯、と人々の交流の場になっている。チケット制を導入しリーズナブルな値段も魅力のひとつ
筆者撮影
■市が提供した活動の自由度は、それまでの行政の対策では見られない、まさに「実験事業」の名に相応しいものといえる。
これらの事業が歴史的建造物を活用するというハード的な側面と、開館1年半の間に自主 企画等合わせ約900本もの催しを行ない、地域と連動しながら発展を続ける運営システムは、高い実践意識の上で成立している。主な要素として、借り手に対して開かれたレンタルスペースシステム、第一線で活躍する講師のスクール講座(BankARTスクール)、飲んで語れるパブスペース、24時間の施設利用、深夜までの開館時間、ライブラリーの設置など、例を挙げればきりがない。つまり、すべてが連携している運動体のようなものがBankART事業と言える。運営が市の資金援助だけでなく、BankART事業が行政の援助額と同等の収益を挙げている背景もそこにある。
これほど大規模に文化政策を基盤に都市の再生計画を進めているところは、日本では希有である。この実験事業で示す創造的保存活動と公設民営の関係の可能性は、これまでにない包括的な関係性のヴィジョンを私達に与えてくれる。その背景には、トップダウンのような関係性をなくし、アート活動や都市創造にかかわるNPO、大学間のネットワーク、よりフラットで多彩なネットワークを作ろうとするシステムがあり、そのメディアとして歴史的建造物が活用されている。保存と開発の狭間のなかで、果敢に挑戦する横浜市に学ぶべきものは多いのではないだろうか。
(渡辺ゆうか)
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