Renovation Archives [066]
サンコーコンサルタント株式会社
●芸術施設
[紡績工場]
《富山市民芸術創造センター》
取材担当=村井 一(東京大学大学院)
概要/SUMMARY

左:リノベーション前外観
右:リノベーション後外観
屋根は瓦棒葺き、外壁は塗装のみとなっている。エントランス側に付設するコロネードは既存RCの壁と柱を利用したもの
■役目を終えた紡績工場を芸術施設へと転用した事例である。対象となった旧東洋紡績株式会社呉羽工場は1929(昭和4)年に呉羽紡績株式会社の工場として建設されたものであり、長きに渡って富山市呉羽地区一帯の産業を支えてきた。このため、周囲からは歴史的価値のある工場を近代遺産として残すべきだという声が上がっていた。
工場が位置する富山市は、芸術文化の振興をまちづくりのテーマに掲げており、1988(昭和63)年頃から音楽大学の誘致に動くなど、音楽・舞台芸術の分野に関しては特に力を入れていた。また、地域で活動する文化団体からは練習場所の不足の声が上がっていた。
そこで、工場を保存しようという意見と、大屋根の空間は音楽練習場として有効ではないかという意見がマッチングし、改修・転用計画がスタートした。そして、当時富山市で同時進行していた音楽大学の誘致や市民ホールの新設計画との関係性を考慮しながら検討を進めるなかで、この施設の位置づけが市民のための音楽・舞台芸術活動の練習の場へと特化してゆくことになる。
左:リノベーション前内観
右:リノベーション後内観
エントランスロビーの様子。工場の雰囲気を残すために鉄骨柱は露出となっており、鋸屋根の高窓から明るい光が差し込む
設計概要
所在地=富山県富山市
用途=芸術施設(以前は紡績工場)
構造、規模=鉄骨造平屋建ー部2階建(既存棟)、鉄筋コンクリート造一部鉄骨造平屋建(増築棟)
敷地面積=107,412平米(芸術パーク全体として)
建築面積=9,704平米(既存棟=8,169平米、増築棟=1,535平米)
延床面積=9,317平米(既存棟=7,984平米、増築棟=1,333平米)
竣工年=平成7年(既存:昭和4年)
企画=富山市
設計=サンコーコンサルタント株式会社
施工=竹中工務店・林建設・呉陵建設JV

左:リノベーション前鳥瞰写真
写真中央の屋根が連なっているのが旧東洋紡呉羽工場
施工プロセス/PROCESS
平面図
エントランスロビーから諸室へと広がる明快な平面構成。舞台稽古場室は富山市が"発表の場"と位置づけている富山オーバードホールのステージと同じ広さを確保している
既存躯体に使用されていた鉄骨は、1929年の建設時にイギリスから輸入された良質なものであったために、改修計画に先立って行なわれた構造計算において十分な強度が確認された。工場全体は平屋建で、約30,000平米の床面積を有しており、躯体の状態が良い部分から芸術施設の必要面積8,000平米を確保し、残りは取り壊した。
改修は鉄骨造の既存躯体を利用しながら、必要諸室を入れ子状に新設するかたちで行なわれており、既存鉄骨や鋸屋根の利用によって、紡績工場の雰囲気を極力残す配慮がなされている。特に鋸屋根は高窓からの採光を昼間照明として積極的に利用することで、施設の省エネにも貢献している。しかし一方で、鋸屋根の空間形状が生み出す残響音の調整には苦心したという。
個人練習室は新設のコンクリート壁で仕切られていて、既存基礎を貫いた柱状改良杭によって支持されている。また、既存躯体は空間に余裕があったために必要な壁厚をとることができ、充分な遮音性を確保している。リハーサル室は既存建屋を一部撤去し、周囲からは独立した構造として新設されている。
大練習室3においては柱を一部撤去し、広い空間を確保している。既存屋根形状を残す為に抜き取り、柱両側に門型受け柱の新設を行ない、新設鉄骨桁梁で既存合掌を支持している。
鉄骨造の既存躯体を利用しながら必要諸室を入れ子状に新設するために、搬入はすべて鉄骨梁下高の4.2m以内で計画され、限られた作業空間での工事用機械力を有効活用するために小型高所作業車による天井空間工事などが行なわれた。
立面図
鋸屋根をそのまま活かした外観。突き出したヴォリュームは既存建屋を一部撤去して新設されたリハーサル室と、施設端部に増築された舞台稽古場
練習室断面詳細図
屋根は既存瓦や野地板はすべて撤去のうえ、瓦棒葺きとなっている
現状/PRESENT

練習室内観
■練習室は大小50部屋近くあり、計画時には練習室が多すぎるのではないかという懸念もあった。しかしオープン以来、施設利用率は非常に高く、近年では年間利用者が延べ20万人を超える盛況ぶりである。また、利用者側からは倉庫や、中規模の練習室も欲しいという意見があり、増築も行なっている。
利用者からは発表にも利用したいとの声もあがっているが、富山市は練習専用施設としてのこだわりをみせる。管理だけではなく、仕様の問題としても難しく、発表の場としては市民ホールを利用して欲しいとの願いからだ。
富山市はこの4月に周辺4町村との合併を行なった。今後は点在する公共施設のネットワーク化を計りながら、芸術活動の練習環境を整えてゆく構えだという。施設単体のリノベーションから地域的なリノベーションへ。今後の動きに注目したい。
(村井 一)
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