Renovation Archives [064]
(株)河合松永建築事務所
●演劇練習館
(以前は図書館)[配水塔
名古屋市演劇練習館アクテノン
取材担当=伊藤良(三重大学大学院)
概要/SUMMARY

上:稲葉地配水塔の当時の外観
提供名古屋市市民経済局文化観光部文化振興室
右上:中村図書館に用途変更する当時の外観
提供名古屋市水道局広報係
右下:現在のアクテノンの外観
提供名古屋市市民経済局文化観光部文化振興室
■「アクテノン」は当初、旧稲葉地配水塔として名古屋市西部地区の都市化にともなう上水道供給を目的に建設された。その外観を特徴づけている16本の列柱は、急遽大きさが変更となった最上部に位置する3,930立方メートルもの水槽を支えるために施された補強構造である。しかし、この特徴的な16本の列柱による神殿のような佇まいが地域のランドーマークとして人々に親しまれ、時代の要求と共に配水塔から図書館、図書館から演劇練習館へと二度の転用をしながらも、今なお当初の佇まいを70年近く留めている。
1991(平成3)年に施設が手狭になったことを理由に1965(昭和40)年から中村図書館として利用されてきた旧配水塔は地域の文化の拠点としての役目を終えた。その後、名古屋市は旧配水塔の再利用策を検討していたがなかなか決定に至らなかった。
ところがこの旧配水塔の三度目の活用は意外なことから実現することになった。1991年11月に、名古屋を中心に活動する劇団「劇座」の主宰である天野鎮雄氏が、当時の西尾名古屋市長に対し、名古屋には100以上の演劇団体があり、演劇の発表の場は市内にもいくつかあるが、稽古場がないので困っていることを訴えた。このことがきっかけとなり、旧配水塔に次なる文化の器として演劇練習館としての用途が与えられた。これにより、旧配水塔は外観の佇まいを旧配水塔・図書館時代とほとんど変えることなく、図書館時代には使われることのなかった最上部の水槽部分をリハーサル室として転用し、新たな文化の受け皿として地域住民と共に歩むことになった。
設計概要
所在地=愛知県名古屋市中村区稲葉地町1丁目47番地
用途=演劇練習館「アクテノン」(以前は稲葉地配水塔→中村図書館→演劇練習館)
構造=鉄筋コンクリート造
規模=地下1階、地上5階
敷地面積=1,763平米
建築面積=937平米
延床面積=2,996平米
竣工年=1995(平成7)年11月
既存:1937(昭和12)年
図書館への転用:1965(昭和40)年
企画立案者=名古屋市
設計=(株)河合松永建築事務所
施工=浅沼・鈴中特別共同企業体
施工プロセス1/PROCESS 1(配水塔から図書館)
旧配水塔の当時の内部の様子は、最上部の水槽を支えるための土台として、地下一層、地上四層に区切られたものであった。

左:稲葉地配水塔断面図

図書館への用途変更の際に二層から四層を部屋として利用するために床を張り、採光のために窓のはつり工事をしている。

右:図書館への用途変更の施工写真
ともに出典=『さようなら配水塔の図書館──中村図書館25年のあゆみ』
施工プロセス2/PROCESS 2(図書館から演劇練習館)
・既存の建物は1937年に施工されたものなので、図書館から演劇練習館への用途変更の際に、基本設計に入る前に「耐力調査」を実施している。これにより、旧配水塔の耐震および撤去場所や補強場所の検討が行なわれた。
・旧配水塔から図書館に用途変更する際から一括して、この建物の外観の佇まいをできるだけ残すようにしているため、外観にはほとんど手を加えられなかった。
・図書館からの用途変更にともない、2層から4層の床を撤去し、新たに3層・4層部分に床を張りなおしている。また、最上部のリハーサル室への用途変更にともない、下層部の各層に均等間隔で補強壁を配置している。この補強壁によって区切られた扇形の練習室が大小併せて8室、研修室、和室が各1室設けられている。
・最上部の水槽をリハーサル室へ用途変更する際、演劇の舞台を確保するために柱を3本撤去している。その際に周りの柱を補強している。また、舞台としての天井高を確保するために屋根部分の一部を高くする工事が行なわれている。また、リハーサル室内部の舞台照明や音響の設備、平台や箱馬などの舞台道具も完備されている。
上:矩形図
中:5階平面図(撤去図面)/5階平面図
下:1階平面図(撤去図面)/1階平面図
提供=名古屋市市民経済局文化観光部文化振興室
現状/PRESENT
上:内部の構造
下:外観の外部の16本の円柱
撮影=伊藤良
左:大練習室の様子
右:リハーサル室の様子
提供=名古屋市市民経済局文化観光部文化振興室
■旧配水塔は中村図書館時代には地域住民に開放されていた憩いの場所であった。演劇練習館「アクテノン」へのリノベーション後は、利用者以外の人がなかなか自由に出入りできる建物ではなくなってしまった。そこで、アクテノンの利用者(演劇・音楽・舞踊関係者)を中心に組織された実行委員会によって、野外劇場を使い地元の人々を招いて、演劇や舞踊、音楽などを披露する「アクテノン・フェスティバル」が開館当初から2002(平成14)年度まで毎年行なわれていた。現在は名古屋市中村区が主催する地域との連帯事業「中村区アクターズタウン事業」の一環として「アクテノン夏祭り」が行なわれている。今年はアクテノンを中心に愛知万博と連携し地元の人以外も巻き込んだイヴェントも開催された。また通常も、舞台芸術資料を保管している一階部分の「資料コーナー」を一般へ開放している。旧配水塔から図書館、図書館から演劇練習館「アクテノン」へと、時代と共に用途変更を繰り返し続けながらも、いまなおこの建物は地域の人々にとっての文化・芸術の発信場所、憩いの場所として利用され続けている。自分の街のアイデンティティのシンボルとしての生き続けている事例といえる。
(伊藤良)
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