Renovation Archives [063]
日東紡音響エンジリアニング株式会社
●音楽練習施設
[飲食店舗
《音楽工房MOX/Music Box in OROSHIMACHI》
取材担当=堀口徹(東北大学都市デザイン学講座リサーチフェロー)
概要/SUMMARY

左:リノベーション前の飲食店舗共用廊下部分
右:リノベーション後のMOX共用廊下部分。テーマカラーは赤
■音楽工房MOXは、協同組合仙台卸商センター(仙台市卸町地区)が同地区の卸商団地設立の1965年に建設した卸町会館の地下にあった空き店舗をリノベーションしたものである。卸町会館は、元来組合事務局をはじめ、会議室、ホテル、診療所、床屋、郵便局、そして飲食店舗など、団地内の組合員のためのサポート機能を集約させた福利厚生の意味合いが強い建物であった。
しかし近年の卸売業を取り巻く変化や、仙台市地下鉄東西線計画への対応から、卸商団地は団地設立時に施行された第一種特別業務地区から第七種特別業務地区へと用途規制を緩和した。これにより卸売業以外の商業活動や文化活動のための施設立地が(面積規模の条件付きではあるが)可能となった。本格的な音楽練習施設の建設は、音楽文化に関心の高い組合員が多い卸町にとっては念願であった。組合は、東北大学と宮城大学とまちづくりに関する議論を重ね、また都内の音楽練習施設を視察することで企画内容を幾度となく練り直し、この施設を実現させた。このMOXは、用途規制緩和を受けて卸町に新しいコミュニティを根付かせるパイロットプロジェクトとして位置づけられる。これを組合が先導的に、かつ有休施設資源のリノベーションにより展開したところに意味がある。
上:MOXエントランス。かつて団地にあった地域冷暖房用ダクトのクリアランスをとるための段差を埋め戻し、鉄板で蓋をしている
上中:防音扉を開いたときだけ、各室のテーマカラーが見え隠れする
中:一転して落ち着いた色彩で押さえられた練習室内
下中:ウェイティングルームから受付カウンター(本江正茂デザイン)を見る
下:必要最低限に仕上げられたウェイティングルーム
設計概要
所在地=宮城県仙台市若林区卸町
用途=音楽練習施設
構造=RC造
規模=地下1階(建物全体としては地下1階、地上5階)
敷地面積=10,919.0平米
建築面積=1,368.8平米(建物全体)
延床面積=地下全体752.0平米(貸室部分241.2平米)
・Blue Room、Orange Room(ロック系)=24.1平米×2部屋
・Yellow Room、Green Room(ポップス系)=24.6平米×2部屋
・多目的ルーム=48.5平米
・ウェイティングスペース=95.3平米
竣工年=2004年(既存建物は1965年)
企画=協同組合仙台卸商センター
設計=日東紡音響エンジリアニング株式会社
デザイン監修=阿部仁史+本江正茂+東北大学都市デザイン学講座
計画監修=坂口大洋(東北大学建築計画研究室)
施工=日東紡音響エンジリアニング株式会社




施工プロセス/PROCESS
上:平面図
左下:飲食店街時代のエントランス(非常階段室)
右下:非常階段からエントランスを見る。換気扇ダクト、地域冷暖房用ダクトのクリアランスのための段差
飲食店舗として使われていた地下フロアの延べ床面積は、約250平米。25平米程度の練習室であれば6〜8室整備することも可能であったが、組合が取り組むまちづくりにとっては起爆剤でありつつも実験的な意味合いを持つものでもあったため、ハードへの初期投資の一部を運営サポートの人材やソフトのために確保するという戦略をとり、今回は4室のみの整備に留めている。残った空間は、仕上げ等にあまりお金をかけず、ライブイヴェントやミュージシャン同士の交流にも使えるウェイティングルームとして「放置」してある。4つの練習室には、青・緑・黄・橙というテーマカラーが与えられた。二重になっている防音扉の内側にだけ着色されており、部屋に入る一瞬だけ色が見える。昼間人口と夜間人口の落差が激しい卸町において、卸町会館は組合員従業員が帰る夜中には基本的には閉館となる。これに対して音楽練習施設では夜間の利用が多く想定されることもあり、外部から直接地下に入れる非常階段をメインのエントランスとして位置づけている。なお、この非常階段室は組合員によって「卸町情熱タワー」と名付けられ「情熱の赤」に塗られている。
左:飲食店街時代の間仕切りを取り払った状態
右:非常階段室
左:真っ赤に色塗られた「卸町情熱タワー」へと変身した非常階段室
右:MOXへの入り口
現状/PRESENT

上:MOXオープニングイヴェント。赤いTシャツを着た組合事務局員
下:ウェイティングルームで定期的に行なわれているMOX show caseの様子
■2004年8月1日のオープニングイヴェントには多くの市民が来場した。このMOXは組合の直営事業であるが、卸売業の組合にとっては初めての文化事業ということで、当初は赤字運営も覚悟された。しかし、組合が従来持っていた貸し館事業等のノウハウと、運営サポートや企画を担う音楽関係者の協力もあり、徐々に軌道に乗り始めている。将来的な拡張余地として残されたウェイティングルームでは定期的にMOX show caseというイヴェントも開かれている。さらに今年10月に団地内の展示場で開催された組合設立40周年記念式典の余興として、団地内の空き倉庫で開かれた「卸町ナイトクラブ」におけるジャズライブへの出演者は、MOXを結節点のひとつとして形成されたネットワークにより集められたミュージシャンたちであった。MOXは卸町に新しいコミュニティとネットワークの可能性をもたらしつつある。
(堀口徹)
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