Renovation Archives [056]
テレデザイン
●事務所+倉庫+店舗+SOHO+デイサービス+座禅堂
(自社使用+一部テナント貸し)
[事務所+倉庫+店舗(自社使用)
《泰岳ビル》
取材担当=西瑠衣子
概要/SUMMARY
設計概要
所在地=東京都千代田区
用途=事務所
構造=
・1階〜4階=SRC造
・5階、6階=S造
規模=地下1階、地上6階、塔屋1階
改修床面積=1299.62平米
竣工年=2005年(既存:1970年頃)
設計=松葉力+田島則行+テレデザイン
施工=斉藤工業株式会社

リノベーション後外観
■「政府は繁華街の治安対策の一環として、空きビルのテナント誘致の支援に乗り出す。中核となる不動産管理会社やNPO法人などを『家守』に認定し、家守が打ち出すイメージに沿った優良テナントを集め、個性あるクリーンな街づくりを進める」(2005年7月2日付『日本経済新聞』)

こうした政府の動きは、2003年3月に、千代田SOHOまちづくり検討委員会から旧・(財)千代田区まちづくり推進公社
★1へ「中小ビル連携による地域産業の活性化と地域コミュニティの再生──遊休施設オーナーのネットワーク化と家守(やもり)によるSOHOまちづくりの施策」が提言され、家守事業がまちづくり施策として紹介されたことが発端である。
現在、JR神田駅近くの事務所ビルを改修したシェア&レンタルオフィス《REN-BASE UK01
★2を活動拠点として、「RENプロジェクト」と名付けられた家守事業の実践と創造が活発に行なわれている。プロジェクトのひとつとして、2003年よりセントラルイースト東京(CET)(旧・東京デザイナーズブロック・セントラルイースト[TDB-CE])というイヴェントを立ち上げ、神田、日本橋地区の空きビル各所を会場に若いクリエイター達が作品を展示している。泰岳ビルはその会場のひとつであった。ビルオーナーの親戚であり、当時からテナントとして入居している日東リビング社長の鳥山和茂氏は、以前から地元に密着したまちづくりを行なってきたが、CETを契機に家守事業に参加した。泰岳ビルは築35年と老朽化が目立ち、改修の時期にきていたため、CETを通じて認知度が上がった泰岳ビルを街づくりの拠点にしようと、2005年に改修工事が行なわれた。
★1──現・(財)まちみらい千代田
★2──Renovation Archives [026]《REN-BASE UK01》
施工プロセス/PROCESS
《REN-BASE》と同様に、ビルオーナーの条件と、ターゲットとするテナント、地域にあったターゲット層のバランスを考慮し、改修は必要最低限の内容に留め、内装はほぼスケルトンに近い簡素な仕上げとし、これを貸し出している。屋上の看板やエレベーターを撤去し、建物上部の荷重を軽くすることで、耐震補強は二箇所で済んだ。また、構造図が現存していたため、耐震調査のコストを抑えることができた。設備は全面的に刷新し、設備工事費にコストが最も費やされた。
左上:耐震補強は2階、5階の2箇所に施されている
右上:5、6階は改修以前、日東リビングの倉庫として使用。天井高は約5メートル。改修後は、下階のオフィスと連動させて、服飾やデザイナーなど地元産業に関係した地域や町づくりに活かせる倉庫として使用する 
撮影=大家健史
左下:5階のエレベーターホール
右下:4階はNPO運営によるデイサービス施設が入居予定。内装はテナント側が負担
2階の耐震補強
1、2階は2フロアで貸し出し。建築デザイングループが入居予定。一部、建物全体の入居者が交流できるような、コミュニティ施設としての使用を検討。「住」のコミュニティと「産業」のコミュニティがクロスする場所である
現状/PRESENT
■家守という新たな人材の育成とその活動を支える環境の整備を目的として、財団法人まちみらい千代田は、2005年7月から家守の事業内容を中心としたまちづくりのための方法論を体系的に学ぶことができる場として、早稲田大学教授の伊藤滋氏を塾長に迎え入れ、「家守塾」を開催している。
家守塾の期間は、2005年7月から10月までの4カ月間、毎月一回3日連続の集中講座が開かれる。家守に必要と思われるさまざまな分野の専門家による講義と、これをもとにした実践的なワークショップ、および実技研修から構成される。
8月の開催は、22日から3日間行なわれた。一例として、23日は午前に日東リビング社長でCET2005実行委員長である鳥山和茂氏と、多摩美術大学助教授でCET2005プロデューサーの佐藤直樹氏による、「祭り運営と文化・アートイベント」と題した講義が行なわれ、祭りの意義についてとCETのこれまでの活動内容についての紹介がされた。午後は秋葉原のビルの活用方法について、グループに分かれてワークショップ、24日の午後のワークショップでは、リノベーション物件の見学会が行なわれた。
8月23日の講義の様子

【家守塾開催概要】
・運営体制
塾長:伊藤 滋(早稲田大学特命教授)
塾頭:清水 義次(まちみらい千代田 参与)
主催:財団法人 まちみらい千代田
後援:千代田区、日本政策投資銀行、日本経済新聞社
運営事務局:株式会社アフタヌーンソサエティ
・開催要項
期間:2005年7月25日(月)〜 2005年10月26日(水)
3日連続の集中講座を月1回×4カ月、計12日間開催
会場:ちよだプラットフォームスクエア5階会議室、他
定員:30名
http://www.as-tokyo.com/yamorijuku/

8月24日のリノベーション見学会の様子
「鉄柱」と呼ばれる、木造二階建てのセルフコンバージョン事例

同左、内観
以前は印刷工場であった。CETで使用したことを契機に、学生達が内装を自分達で改装して入居した。オーナーとは、地域の活動に参加することを条件に契約している。ただし、老朽化が激しいため使用は二年限定

倉庫をオフィスにコンバージョンした《re-know

《re-know》内観。設計を担当した馬場正尊氏(Open A Ltd.)により、建物概要が説明された
上:喫茶店。以前は奥の日本家屋だけを使用していたが、前面に建つ二階建て木造と連結、駐車場だった部分を土間にして店を拡張した

下:馬場氏設計の、倉庫から事務所へのコンバージョン。一階は編集事務所のシェアオフィス、二階は馬場氏の建築事務所。外壁に取り付けられたバスケットゴールと、ビニールカーテンで仕切られたエントランスが印象的
■「今後、家守のような新しい職能のニーズはある。最終的に街のエリア価値を高めるためにどのようなテナントリーシングを行なうかを配慮することが家守の役割であり、そこが既存の不動産と圧倒的に違うところである」
運営事務局アフタヌーンソサエティの橘氏は家守事業についてこう語る。
街のエリア価値を高めるという観点から見れば、家守の役割は地元オーナーが担うのが理想的であろう。ただし現実的には、彼らにはまだそこまでのノウハウがないし、コンバージョンを行なう経済的余力も少ない。そもそも、現代版家守の構想は単独で行なうものではなく、テナントの相談やオーナーの相談を受ける現場としての家守、タウンマネージャーとしての家守、さらにもっと大きな、エリアを越えた家守活動を支援するような家守が必要であると橘氏は考えている。そこには、街をかたちつくっていくのは「人」であるという信念がある。
(西瑠衣子)
Archives INDEX
HOME