Renovation Archives [060]
京都市、(株)佐藤総合計画 関西事務所
●展示・発表・制作・交流施設
[小学校]
《京都芸術センター》
取材担当=藤本真一
概要/SUMMARY

左:アプローチ広場
右:大広間
折上格天井に座敷飾りのついた七十八畳もの巨大な和室
提供=SS大阪
■京都芸術センターは、京都の芸術文化発信の拠点として京都市により2000(平成12)年に開設され、絵画・演劇・ダンスなどの幅広い活動が日々活発に行なわれている。その活動領域は多岐にわたるが、どの活動にも共有されている理念が3つある。それらの理念とは、
1.多様な芸術に関する活動を支援する
2.芸術を通じて市民と芸術家等の交流をはかる
3.芸術に関する情報を広く発信する
である。
京都芸術センターは、1993年に生徒数減少を理由に閉校となった元明倫小学校を改修して建てられているが、これらの活動理念はこの元明倫小学校という施設が本来持っていた特徴に大きく関係している。
元明倫小学校は京都の呉服問屋が集まる室町筋に位置しており、その呉服問屋をはじめとする地域住民から集められた潤沢な資金によって1869(明治2)
年に開校した。そのために小学校と地域住民との交流は当時から活発であり、小学校は子供を育成する場として機能する一方で、地域住民による活動の場としても機能していた。
現在は、京都芸術センターとして芸術家育成を目的に芸術活動の場を提供し、また展覧会や公演を通じて芸術に関する情報の普及にも寄与している。このように元明倫小学校が残した遺産を活動理念として受け継ぎながら、京都芸術センターでは次代の芸術文化都市=京都を生み出す芸術創造の場を目指した活動が行なわれている。
設計概要
所在地=京都府京都市中京区
用途=展示・発表・制作・交流施設
構造=
・本館=SRC造(一部S造)
・北校舎、南校舎=RC造 
・エレベーター棟=S造(基壇部RC造) 
規模=
・本館=地下1階、地上2階 
・北校舎=地上3階
・南校舎=地上3階(一部地上4階)
・エレベータ−棟=地上4階
敷地面積=4,387.00平米
建築面積=1,910.10平米
延床面積=5,209.35平米
竣工年=平成11年12月(既存:昭和6年10月)
企画=京都市
設計=京都市、(株)佐藤総合計画 関西事務所
施工=太平工業(株)
施工プロセス/PROCESS
改修工事の方向性を検討するにあたり、設計者に加えて地元住民や芸術家も含めた協議が開かれた。その結果、地域住民の思いが詰まった建築であること、上質な建築であること、和風と洋風が調和した独特の歴史的意匠を持つ建築であることを考慮して、保存的改修が中心となり、必要に応じて付加的に機能的改修と耐震的改修等が行なわれた。
左:エレベーター、バルコニー、渡り廊下
耐震性能と利便性の向上および福祉環境整備を目的として、エレベーター棟が新設された。保存的改修がメインなので、外部に新たに加えられた
右:耐震補強
いくつかの窓を埋めて壁量を増やすことで、耐震補強としている
左:フリースペース
もとは体育館だったが、芸術活動の発表の場として天井高の確保が要求された。床を段状に 掘り下げ、段部分は空調や観客席等に利用されている
右:窓
元明倫小学校から変わらぬ意匠。その開閉システムは複雑である
左:和室「明倫」
もとは生徒のお作法室だったが、現在はお茶会やワークショップに利用されている。茶室への変更にともなって水回りの工事も行なわれた
右:ミーティングルーム1
卒業生の記憶をたどり、再び蘇った色鮮やかな壁紙。ハンチ(梁端の補強部)の意匠はスペイン風
施工プロセスすべて、提供=SS大阪
現状/PRESENT

講堂
講演や演奏会のほか、ダンスの練習、演劇の公演なども可能

制作室(12室)
この部屋には防音設備がなされている
左上:図書室
現在約4,000冊の蔵書と約400本の映像資料を有する
右上:情報コーナー
芸術に関するさまざまなビラが置かれている
棚のデザインは小学校の下駄箱がモチーフ
左下:談話室
終日一般に開放されており、その利用率は高い
■現在、京都芸術センターでは、かつて教室であった部分は、それぞれ芸術家の制作室としても利用されている。各制作室の人気は高く、借りる芸術家の選定も厳正に行なわれている。その際、ワークショップ等の活動を通じて市民との共感を生み出すことが使用資格として要求されている。その一方で、展覧会等の運営には市民ボランティアが参加する仕組みがとられている。市民によるワークショップの参加率も高く、京都芸術センターを通じた芸術家と市民との交流は活発である。京都芸術センターは今や京都の芸術シーンにおいて欠かせない存在となっている。
保存的改修というハード面での保存に加えて、周辺地域との強い結びつきを活動理念というソフト面の中に巧みに保存したことが、この京都芸術センターのオリジナリティーをより明確なものとしている。
(藤本真一)
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