Renovation Archives [041]
荒川区営繕課
●ベンチャー企業への貸しオフィス[中学校] 西日暮里スタートアップオフィス
取材担当=西瑠衣子

概要/SUMMARY


左:リノベーション前外観
右:リノベーション後外観
■平成13年、荒川区立道灌山中学校はベンチャー企業への貸しオフィスに転用された。道灌山中学校は少子化により統廃合され(廃校時の生徒数は5学級で約150人)、荒川区は平成11年度より建物の有効利用の検討を始めた。この敷地は西日暮里駅前の再開発地区に含まれているため、施設は平成18年までの暫定利用であることが前提であった。商工振興課(現、産業振興課)は、IT産業を中心とした多様なベンチャー企業が都心にオフィスを求めていることと、ベンチャー企業を育成し、企業間の交流の機会を与えることで、区内産業の活性化を図ることを理由に、貸しオフィスに転用することを提案し、決定された。この施設への入居期間は2年間で、賃料は周辺の相場の10分の1である。駅から徒歩3分という立地の良さもあり、開設当初は募集企業数20社に対して、その約8倍もの応募があった。運営は区が直接管理を行なっている。
設計概要
所在地=東京都荒川区西日暮里
用途=事務所(以前は中学校)
構造=鉄筋コンクリート造
規模=地上4階建て
敷地面積=4270平米
建築面積=680平米
延床面積=1360平米
竣工年=平成13年(既存:昭和38年)
企画=荒川区商工振興課(現:経営支援課)
設計=荒川区営繕課
構造=O.R.S.事務所
施工=与倉建設他

施工プロセス/PROCESS
■建物はほぼ既存のまま再利用している。教室を半分に間仕切り、施設構成はオフィスが20室(各室約30平米)、会議室(約30平米)、商談および交流コーナー(約90平米)が各1室設けられている。建築基準法により、事務所に転用した際、火災時の排煙設備を設置する必要があり、廊下の一部を改修している。ガス設備を廃止し、水道管径は既存のプール用のものから事務所に相応しい小さい径に変更している。そのほか個別に空調機の設置、FTTH接続や、年中無休使用可能な警備システムを新規に付け加えている。
上:既存の教室と廊下。現在も3階は既存の状態のまま残されていて、ロケ場所としてドラマやCM撮影に使用されている
下:オフィスの床は既存の床を扉の開閉上の問題で一部削っている
左:消防法の関係で階段に防火扉を設置。結果的に耐震性能を高めた
右:1階部分に受付と交流コーナーが設けた
左:通用口にはセキュリティのため電気錠が設けられた
右下:天井裏
左:1階平面図(既存)拡大
右:1階平面図(改修後)
拡大
左:2階平面図(既存)拡大
右:2階平面図(改修後)
拡大
現状/PRESENT

既存の教室の床を利用

黒板を残したところ、利用度は高かった

右・左:オフィスの利用風景。入居者は1人〜複数人とさまざま。遮音性が低いといった音響の問題が残るが、カーペットを敷くなどして対応する企業もある

休憩スペース

入口はセキュリティに配慮している
■《西日暮里スタートアップオフィス》は、5年間の暫定利用という条件と、区の起業家支援策がうまく合致した好例である。起業家支援の目的は、起業家の勢いが既存の区内企業に刺激を与え、施設を満期で「卒業」した後も区内に定着する可能性が高いことである。結果は第一期に入居した企業20社のうち約半数が区内に定着し、周辺地域の産業に活力を与えている。
学校の転用にはセキュリティや騒音等の問題がつきまとうが、既存の建物の特性を活かした高い天井や広い廊下等ゆとりのあるつくりは、従来のオフィスにはなかった魅力があり入居者からの評判も良い。こうした学校の開放的な雰囲気は入居企業同士の交流を促すきっかけにもなる。《西日暮里スタートアップオフィス》は、電気・通信や機械警備等のインフラの整備さえ行なえば、学校は良いオフィスになる可能性があることを示唆する事例である。
廃校の有効利用は最近では世田谷区立池尻中学校など、都内でもいくつか事例が見られる。立地条件や周辺環境等を配慮し、近隣住民間の意見交換を通して計画をどのように進めていくか、今後の学校転用の課題となるであろう。
(西瑠衣子)
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