Renovation Archives [025]
宗本順三+柴原利紀/ラウムアソシエイツ
●銘木倉庫/彫刻ギャラリー[銘木倉庫] 《ギャラリーユニバース》
取材担当=吉岡誠生

概要/SUMMARY


左:改修前の外観
右:改修後の外観
東京・新木場一帯でよく見られる鉄骨スレート葺きの材木倉庫をギャラリーへと改修した事例である。《ギャラリーユニバース》は国内では初めての彫刻を専門としたギャラリーで、マンズー、マリーニ、ポモドーロ、ヴァンジなど、世界の彫刻界の巨匠から新進作家までの作品が展示されている。多くの彫刻家と親交が深く、建築の文化にも造詣が深いギャラリーオーナーの村上政之氏は、《ヴァンジ彫刻庭園美術館》《東京造形大学付属横山記念マンズー美術館》などの多くの彫刻の展示空間をプロデュースしてきた実績が広く知られている。その村上氏が、銀座の画廊に続き、第2画廊として彫刻を展示するのに十分な空間を確保できるこの新木場の倉庫内に1994年、ギャラリーをオープンさせた。銘木倉庫の約半分の面積を彫刻ギャラリーとして改修し、もう半分は現在でも倉庫として使われている。
倉庫は片翼で約500平米あり、天井高さは最低でも8mある。そのため、この大空間を小ギャラリーや収蔵庫といった小さなスペースへ分割するために天井までの間仕切りを設置することは難しい。そこで空間を分割しつつ、連続性を保つため、高さ4mの間仕切りを使った内部構成が採られた。この構成によってギャラリー内の各展示室が上部で連続している。展示室だけでなく隣の銘木倉庫とギャラリーまでもが空間的に連続し、倉庫内で新旧の空間が一体化しているのだ。
銘木倉庫と彫刻ギャラリーというと一見奇妙な組み合わせのようだが、日本建築の主役・高級木材と西洋建築には欠かせなかった彫刻という両者が出会う空間となっている。
設計概要
所在地=東京都江東区新木場
用途=彫刻ギャラリー
構造=鉄骨造
規模=地上1階
敷地面積=2814平米
建築面積=1247平米
延床面積=2439平米(改修面積:614平米)
既存建築竣工=1976年9月
リノベーション竣工=1994年2月
設計=宗本順三+柴原利紀/ラウムアソシエイツ
設計協力=TLヤマギワ研究所(照明)
施工=建匠
壁の上部でギャラリーと倉庫が連続している
施工プロセス/PROCESS
ギャラリーの3分の1の広さに三角形の平面を持つ高さ4mの収蔵庫を設けている。収蔵庫には可動パネルが収容され、水回りや空調などの設備が組み込まれている。床から高さ4.5mのところに照明システムが組み込まれたグリッド状の照明用レールを設置し、美術館にも劣らないクオリティの照明が可能となっている。
建物中央部のエントランスとサロンも壁の上部で展示室と連続している。エントランスは荒々しいスレート葺きの壁面を持つ倉庫の正面にショーケースのように設けられている。サロンの随所にウォールナットなど磨き抜かれた銘木が使用され、彫刻の背景となっている。


上:平面図
下左:断面図
下右:アクソメ
現状/PRESENT

左:もとは倉庫のために使われていたギャラリーの搬入口
右:エントランス

搬入口からギャラリーを臨む

サロン。床には無垢のウォールナットが使われている

サロンからガラス扉を通して、ギャラリーの作品を見る

小ギャラリー。このスペースのみでも展覧会を行なえる広さがある

左:小ギャラリー
右:壁の上から材木が覗く
下:照明はスポット[左]、蛍光灯[右]、ほかにも水銀灯がある

左:倉庫当時に使われていたガントリークレーンが残る
右上:ギャラリー内。外の通りが搬入口越しに見える
右下:ギャラリーを俯瞰。照明を組み込んだグリッド状の照明レール
■コメント
改修前、改修後という二項対立ではなく、新しい用途と既存の用途とが並行して存在している事例である。両者を空間的に連続した構成で改修が行なわれた点は特筆すべきである。倉庫特有の大空間の空間性は残され、間仕切りの上部から覗く銘木倉庫の鉄骨組や材木は、名品ぞろいの彫刻群に負けない迫力を感じさせる。
もともと倉庫であったため、フォークリフトの走行に耐えうる床や大きな搬入口が大型の作品の据え付けや運搬を容易にしている。こういった機能的な側面を見ると、倉庫からギャラリーへの転用という事例が多いことが頷ける。
東京駅から10分足らずに位置する新木場のこれら倉庫群は、ニューヨークのソーホー地区のようなポテンシャルを感じさせる
★1
★1──新木場の倉庫からギャラリーへの転用として本事例のほかに《新木場SOKOギャラリー》などがある。
(吉岡誠生)
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