Renovation Archives [019]
タマダプロジェクトコーポレーション
●現代美術ギャラリー+サロン+オフィス[倉庫]
取材担当=大家健史

概要/SUMMARY


旭倉庫外観(現況/2004)
外観は変わっていない。タマダプロジェクトへは左手前の鉄の大扉から入る


第1期リノベーション後(1999)
ギャラリー内観 ホセ・マリア・シシリア展

東京・月島の隅田川沿いにある旭倉庫は映画会社、撮影スタジオ、レストランなどが入居する複合テナントビルとして使われている。その倉庫の2階半分を現代美術のギャラリーにリノベーションしたのがタマダプロジェクトコーポレーションだ。展示スペースは500平米以上、天井高は4.6メートルという大空間。もともと倉庫として使われていたので荷物運搬用のエレベーターがあり、大きな作品を搬入、搬出することもできる。この倉庫の空間をギャラリーに転用するため、1996年に最初の改修工事を行なった。空間を白壁で半分に区切り、一方をギャラリーやオフィスなどのスペースに、残りの半分を既存のコンクリート打放しの空間をそのまま残したオルタナティヴ・スペースとして再生させた。このスペースでは展示以外にもシンポジウムなどを行なうことができるサロンの場として活用している。さらに2003年に新たに改修工事を行ない、このオルタナティヴ・スペースを可動パネルで区切って空間を8つに分けた。パネルを移動させればもとのコンクリート打放しの大空間に戻すこともできる可変空間だ。さまざまな表現者が交流するための展示空間「TEMPORARY CONTERPOTRARY」としてリニューアルオープンした。

設計概要
主要用途=ギャラリー+オフィス
構造=鉄筋コンクリート造
規模=地上4階
延床面積=574平米
竣工=
・第1期:1996年12月
・第2期:2003年11月
・既存:1918年
所在地=東京都中央区月島1-14-7 旭倉庫2F
設計=タマダプロジェクトコーポレーション 玉田俊雄
(第2期設計担当:越路龍一)
施工=清水工務店

第2期リノベーション後(2003)
オルタナティヴ・スペース内観 桑山忠明展
プロセス/PROCESS

リノベーション前平面図


第1期リノベーション後(1996)平面図
右側半分が白壁に区切られた、ギャラリー、オフィスなどのギャラリー・スペース
左側が既存の空間を残したオルタナティヴ・スペース。赤い色の壁は可動壁


第2期リノベーション後(2003)平面図
オルタナティヴ・スペースを赤色の可動パネルによって8つの空間に分けた
〈第1期工事〉
プランはおもに白壁によって区切られたホワイトキューブのギャラリー・スペースとコンクリート打放しの既存の倉庫の状態を保持したオルタナティヴ・スペースの2つに分けられる。まず、ギャラリー・スペースの壁は軽量鉄骨と木材の骨組みにプラスターボードを貼り、パテ塗の後にペイントして仕上げている。この壁と既存のコンクリートの天井スラブや梁を白く塗ることでホワイトキューブの空間をつくりだしている。真っ白な壁のように見えるが、完璧な白だと作品の背景として目に強すぎることから、若干グレーが混ざっている。床はモルタルで仕上げたまま。壁を巧みに配置することで空間に連続性をもたせている。展示空間とって大切なライティングに関しては梁に光が遮られないように梁間に照明レールを新設している。一方、オルタナティヴ・スペースは基本的には手を加えずに、杉板の型枠でつくられたコンクリート打放しの壁面のテクスチャーを活かした空間になっている。この大空間を分割して使用したいときのために4,030×490×3,650の大きさの白い可動壁が3つある。高さは梁下よりも低く、下に取り付けてあるキャスターによって自由に動かすことができる。展示のために照明レールを梁下に設置している。

〈第2期工事〉
オルタナティブスペースをより分割して使用するため、新たに改修工事が行なわれた。梁上までの高さがあるパネルをつくり、それらを並べることで8つの空間をつくりだした。新しくつくられた可動パネルは28個。軽量鉄骨の骨組みに捨て張りラワンの上にシナ仕上げを行ない、パテ塗の後に白くペイントし、上下に取り付けたアジャスターによって固定している。パネルは天井ぎりぎりまでの高さがあり、そのままでは動かすことができないので、特別にパネルを移動させるための機械をつくった。この機械に乗せて梁下の高さまで斜めに倒すことで移動が可能になる。
また、既存の可動壁も活用されている。これらの壁は白く塗られているが天井スラブや梁はペイントせずにコンクリートの表情をそのまま残している。よって、もとのコンクリート打放しの大空間に戻すこともできる可変空間となっている。また、個々の空間がギャラリー・スペースとして機能するように梁間に照明レールを増設している。天井がコンクリートのままなので、照明レールが目立たないようにグレーに塗るなどの工夫もみられる。

第1期リノベーション後(1999)ギャラリー内観
ホセ・マリア・シシリア展
天井や梁は白く塗られ、梁間に照明レールが取り付けられている

第1期リノベーション後(1999)ギャラリー内観
ジャウメ・プレンサ展

向こう側の空間の作品が見えるよう巧みに設計されており、空間に連続的なシークエンスが生まれている

オルタナティヴ・スペース内観(1999)
ジャウメ・プレンサ展

既存のコンクリート打放しの大空間を活かして展示されている。梁下には照明レールが新設されている

オルタナティヴ・スペース内観(1999)
ジャウメ・プレンサ展
右手奥に見える白い壁は自由に移動することができる

オルタナティヴ・スペースでリノベーション・スタディーズ8(2002年12月21日)開催の様子

第2期工事前のオルタナティヴ・スペースの状態(2003)

第2期工事作業風景
〈可動パネルを動かすためのプロセス〉

機械にパネルをセットする


ウィンチでパネルと共に機械を倒す



可動パネルを傾けていく


最後まで倒した状態

これで自由に動かすことができる


可動パネル製作風景

可動パネルを移動させるための機械

パネルを立てて並べた状態
現状:2004/PRESENT

第2期リノベーション後(2003)オルタナティヴ・スペース内観
桑山忠明展
天井、梁は既存コンクリートのまま。梁間に照明レールが新設された

第2期リノベーション後(2003)オルタナティヴ・スペース内観
可動パネルによってさまざまな空間に分節された

第2期リノベーション後(2003)オルタナティヴ・スペース内観
桑山忠明展

リニューアルしたオルタナティヴ・スペースでリノベーション・スタディーズ13(2004年3月13日)開催の様子
■コメント
天井の高い倉庫の空間は現代美術の展示に向いている。もとの機能がどうであれ、用途にあった空間を探し、改善して使うことがリノベーションの考え方だということをこの場所は教えてくれる。《タマダプロジェクトコーポレーション》はその高さと広さを兼ね備えた空間が非常に魅力的なギャラリー・スペースだ。ここは第1期「リノベーション・スタディーズ」
★1の舞台でもある。オルタナティヴ・スペースに大勢の聴衆が詰めかけ、リノベーションについて白熱した議論が繰り広げられた。さまざまな活用方法を見込んでリノベーションすることで空間のポテンシャルを最大限引き出しているといえる。
★1──第1期は2001年7月から2002年12月にかけて全8回のシンポジウムが行なわれた。第2期では全国各地のさまざまなリノベーションの現場を会場とするスタイルに変わっている。
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