Renovation Archives [015]
I
竹中工務店日本土地建物ブルースタジオ
●集合住宅[オフィスビル] Lattice aoyama(ラティス青山)

概要/SUMMARY



写真左=竣工前
写真右=竣工後

「コンバージョン」のスタンダード「Lattice aoyama(ラティス青山)」プロジェクトは、昨今話題の「コンバージョン」プロジェクトである。それも都心エリアにある築38年の延床面積4,000平米 のオフィスビルを、1棟丸ごとSOHOタイプの賃貸集合住宅へと用途転用した、いわゆる「フル・コンバージョン」の物件である。住戸数は44戸、うちメゾネットタイプが9戸、残りは大小35戸のスタジオオタイプ、1階にはカフェとブックストアが入り、「クリエイターズ・ビレッジ」のタイトル通り、デザイナーなどのフリーランス層のエリア・プロファイルを明確にイメージしたプロデュースワークがなされている。
前面街路側には木製ルーバーのスクリーン、スチールワークのギャラリーが設置され、都市に対するファサードを新たに形成している。

「コンバージョン」が一過性のブームとして終わるのではないかという一部の危惧は、当然のことながらこういった「まじめな“コンバージョン”」プロジェクトが次々と実現することで解消されていくべきものである。R-Projectしかり、このプロジェクトにもかかわっているブルースタジオしかり、アートアンドクラフトしかり、それぞれが「現場」と向き合う中で各々の可能性を都市居住の中に見出している。そういった都市の可能性への視点から、この「Lattice aoyama」は都市を耕す「コンバージョン」のスタンダードとして、今後のリファレンスとされていくのではないだろうか。

設計概要
所在地=東京都港区南青山
主要用途=集合住宅(44戸) 
事業主=日本土地建物
デザイン監修=ブルースタジオ
監修=日土地綜合設計
設計・施工=竹中工務店
面積
敷地面積=691.8平米
建築面積=398.187平米
延床面積=4,047.463平米
階数=地上8階 地下2階
住居数=44戸
最高高=26,650mm
軒高=26,320mm
天井高=3,000mm
構造=鉄筋コンクリート造 一部鉄骨造
工期=2003年11月〜2004年4月
ベースビル竣工=1965年
施工プロセス/PROCESS
1.プログラムのプロセス
一棟貸しのビルテナントの移転に伴い、2003年8月にこのビルのコンバージョン計画が始まった。
その時点での選択肢は三つあった。
a. 解体、新築
b. 改修、オフィスとして継続使用
c. コンバージョン
日本土地建物の若手担当チームでは、それ以前から「コンバージョン」について研究をしていたこともあり、また実際10年間のキャッシュフローのシミュレーションでも、もっともよい結果が出たということもあって、コンバージョンプロジェクトにゴーサインが出た。
この判断には、近隣の青山PFIプロジェクトの都市に与える影響が不確定であるという観測がベースにある。リノベーション/コンバージョンの計画論は固定化されたものでないことを許容することができる。その許容度を活用すれば不確定な状況の中でも都市を機能させ続けることができるという事例が実現されている。
一般にコンバージョンのワークフローとしては
a. 評価・スクリーニング(物件の適性チェック:建築の診断、概算収支)
b. 企画立案(立地の事業性チェック:事業計画、設計積算、収支判定)
c. 実施(監理・施工・リーシング)
d. アフター(PM,メンテナンス、リーシング)
と流れていくが、やはりa、bの部分がこれまでの不動産活用とは違って、技術的な判断と同時に、都市、地域経営的な視点が必要とされる。そのためのデータやノウハウの蓄積を今回はブルースタジオとのコラボレーションがカバーしたと言えるだろう。
また、竹中工務店の先行したコンバージョンへの取り組みがベースとなって、施工が5ヶ月という短期間にもかかわらずコンプリートできたことはやはりコンバージョン/リノベーションも基礎となる研究、技術の総合力が勝負であることを表わしている。

2.コンストラクションのプロセス
耐震診断、法規チェックなど、条件をきちんとチェック、クリアしたうえで施工し、計画を組み立てるというプロセスが、都市のリソースを目指すこれからのリノベーションには不可欠であろう。

左:コンバージョン企画の調査・診断

左:基準階事務室の解体作業(2003年11月13日)
右:7階事務室の解体作業(2004年1月8日)

左:厨房排気ルート、排気官材質の検討
右:空調機の配置、配管ルートの検討

左:分電盤、および配線ルートの検討
右:空調機の排水ルートの検討
竣工/COMPLETION
改装後内観
■コンバージョンのスタンダードとLattice aoyama
コンバージョンのスタンダード(1)/適切なスペックプロデュース
このプロジェクトの建築的な魅力とリアリティは、「コンバージョン」という出自を隠さないプロダクションにある。具体的に言えば、露にされた躯体コンクリートの肌、露出した配管、ダクト、あくまでも付加されたものとして置かれた最小限の水周りユニット、そしてスクリーン的な処理による外観の変更である。元からあった部分と、手が加えられた/インストールされた部分とがはっきりとわかるようなデザイン処理がなされている。
ユーザーを「自分の空間を自分で考える人」=「クリエイター」としてフォーカスし、そのプロファイルモデルに向けて設定されているこの物件は、カタログ上のフルスペックを売りにする新築物件とは、最初から立ち位置が違うのだ。その潔い割り切った姿勢は、この青山1丁目という立地と重ね合わされることで非常な説得力をもつ。
その日本土地建物の狙いの裏側には今回のコラボレーションの中でオーナーズコンサルタントとして参加したブルースタジオによるプロファイル分析データがあったという。すなわち、単なる一方通行の提案としてデザインされたのではなく、明確な対象を見据えたスペックの設定がなされている(そしてそれを的確にマッチングさせている)という点が、これからのコンバージョンが目指すべきひとつの方向性を示しているものと思われる。ベースビルに手を入れて、新築と同様な空間を目指した結果、結局改修からスタートすることの限界に突き当たってしまった事例が多いなかで、それを限界として捉えずにむしろリソースとして捉える考え方が求められている。

「コンバージョン」のスタンダード(2)/職能のコラボレーション
このプロジェクトの成功は職能のコラボレーションの成果と言えるだろう。「コンバージョン」を進めるにあたって、「評価、企画、計画、工事、運営」の全体を一手に引き受けられる担い手はわが国の産業構造においてはまだ存在していない。
今回は日本土地建物のオーナーシップの下に、「コンバージョン」という決断が下され、建物の評価、設計と工事を竹中工務店が、またデザインコンサルタントやエンドユーザーとのコミュニケーション、マッチングをブルースタジオが担うという三者のコラボレーションにより、プロジェクトのために必要とされる職能を総合的にカバーすることで、このプロジェクトは成立した。
特筆すべきは、日本土地建物の担当チームも、竹中工務店の担当チームも、これまでの既成概念から踏み出したということを意識しながらのプロジェクト遂行であったことである。その前進的な意識のなかに「コンバージョン」の意味が姿を現わした。コンバージョンというプロジェクトが常に都市(あるいは地域)との接続性をリソースのひとつとして、また目的のひとつとして行なわれる点で、そういった「文脈」を評価、企画、製作できるスタッフが要請される。このような人的リソースは既存の業態外の人材や、さまざまな職能のオープンな参加によって今後解決されていくのだろう。それを実現していくためにもここで試みられたようなオープンなコラボレーション意識が求められていくのであろう。

「コンバージョン」のスタンダード(3)/都市への再接続
この「Lattice aoyama」では、立地エリアの隠れたプロファイルを掘り起こし、それに対して絞り込んだスペックのスペースをプロデュースすることで、通常のマンションの価格+スペック競争という土俵にのらず、むしろそれ以上の付加価値を認められ、竣工前にほぼ満室の状態になったという。
このようにプロファイルを認識し、またそこに向けて明確にプランニングを収斂させることが「コンバージョン」の設計の実際だとすれば、それは建築という回路を通じて、そのエリアのプロファイル自体をリ・デザインすることに他ならない。「コンバージョン」や「リノベーション」における「設計」は、「モノのデザイン」である以上に、そういった「諸関係/文脈」の設定と提案の部分が多い。
実際に「工事」されている部分は、ビルの外装であったり、設備であったり、内装であったりするが、それが単なる性能回復に過ぎない「リフォーム」と立場を異にするのは、この都市(あるいは地域)への再接続という視点に立脚しているところにあると思われる。地域環境への参加が、その地域自体を押し上げ、結果として物件自体の価値を(資産的、社会的に)アップさせるという地域−建築のポジティブ・フィードバックをいかに計画していくのか。これ以降の「コンバージョン」物件において常に問われ続けることになろう。(新堀学)

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