Renovation Archives [009]
早野正寿(エムエイチユニット井坂幸恵(b.e.w.s.
●オフィスビルのリノベーション 白ビル

概要/SUMMARY



左=竣工前の外観
エメラルドグリーンに塗られ、街中の風景から浮いていた。
写真右=現在の外観

設計概要
用途=クリエイターのシェアオフィス
構造規模=地上3階
主体構造=RC造
面積規模=74.7坪
建築年月日=1970年代
リノベーション年月日=2003年4月
企画=エムエイチユニット、b.e.w.s.、フラデザイン、ロウファット・ストラクチュア
設計=早野正寿(エムエイチユニット)+井坂幸恵(b.e.w.s.)
施工=有川建設株式会社、セルフビルド

「自分たちの働く空間を自分たちの使いやすいようにデザインしたい」
マンションの一室で窮屈に仕事を行なうことを余儀なくされるなか、創造の場所であり生活の一部であるワークスペースを思い通りの色に染めたいと思う人は多いだろう。そんな思いと「古くて潜在的価値を持つ建物を蘇らせたい」という思いが重なってできたのが、南麻布の閑静な住宅街に建つ《白ビル》である。
40年ほど前、ドイツのレンズ会社が自社ビルとして建てたこの建物は、現在の開口が狭く奥行きの深い現代の建物とは違い、広い開口が確保されかつ尺寸のモジュールで平面がきれいに分割されている。40年もの間テナントはさまざまに入れ替わり、白ビルへとリノベーションされる以前、外壁はエメラルドグリーンに塗られ街中の風景から浮いたような状況にあった。
この計画の背景にはビルオーナーとの意見の合致も挙げられる。オーナー自身建築が好きで、この建物に必要以上に手を加えず古いからこそ持つ味わいを残していきたいと考えていた。そこでこの計画の企画者たちに対し、自分の持つ資産を本当の意味で活用してくれると判断し、賃貸として貸し出すことでその活動に第三者として参加することを選んだのである。それはビル運営の新しい選択肢を指し示したものなのかもしれない。
計画の方向性は、既存の建物がもともと持っていたゆったりとした空間を維持し、長い年月の間に蓄積することで生まれる価値を掘り起こすものであった。その後、後年つけ加えられ、あたかも贅肉のようになっていた間仕切りや空調ダクト、造作家具などを解体し、そうすることでオリジナルの空間の簡素な美しさを復元することが、デザイン上の原点になった。3階はもともとドイツ人の社長の和風住居としてつくられたため床のレベル差が多く、壁も土壁に直に塗装されていたため特に手を加える必要があった。設備は全面的に改修を行ない、この部分に特に工事費がかけられている。当初デザイナーが寄り集まってできたものなので、照明などの家具のデザインは共同企画者たちが手がけている。
白ビルではさまざまなジャンルのクリエイターたちが寄り集まることで、時にアイディアを出しあい、新たな角度から横断的なデザイン提案をパッケージすることを目指している。ヒエラルキーのない自由でフランクな雰囲気は、この40年というビルのもつ緩やかな時間の流れと呼応しているかのように感じられる。
「白」という色が、これからどのように染まっていくのかが楽しみだ。

施工プロセス/PROCESS
3階の施工の様子。3階は1、2階よりも改修部分が多かった。前のテナントがつくりつけにしておいた間仕切りや床の間の塗装をすべてとり、木軸の天井をはがすなど解体料は高くついた。床のレベル差をなくし、間仕切りもほとんどはずしている
1、2階の解体後の様子。天井、造作壁、フローリングなどの仕上げ材を剥がすと以前に左官で仕上げられた美しい駆体が出現。そのまま塗装で仕上げることにした。これがリノベーションの醍醐味である
左:2階トイレ。昔の和式トイレはひな壇の高さが大変高かったので、トイレは2、3階とも床をフラットに直した。衛生陶器類のほか、老朽化した水道管なども取り替えたので、手間のかかる設備工事になった
右:いまでは珍しい現場打ちテラゾーの階段。手すりやノンスリップ金物など、エメラルドグリーンの層を剥がし、オリジナルの真鍮を蘇らせた
竣工/COMPLETION
1階
2階
3階のオフィススペース。床レベルを同じにし、天井をはがして壁を白く塗装している。天井も白く塗装する予定であったがやめて、40年前のコンクリートを荒々しいままに見せている。3階は電気工事と土間工事以外はセルフビルドである。家具は自分達のオリジナル。照明は元々1、2階で使用していたものを再利用。床のフェルトはフェルト専門メーカーに発注したもので、高級カーペットの下地である。3階のコンセプトはすぐ横になれるような空間にということで、靴を脱いで入るようになっている
3階の和室
40年前につくられた3階の床の間はいまも残されている。オフィスと和室の間仕切りには、床と同じフェルトメーカーに依頼してつくった特注品パンチングをあけたフェルトを使用。防音性に優れる
3階
窓の鉄サッシはアルミサッシに変えた方が気密性が良いが、何よりその寸法の細かさ、納まりのシンプルさに惹かれ既存のものを使用。ある程度の不便は強いられるが、しかし古いからこそもつ味わいのようなものがでてくる。建物全体のアクセントとして働いている
3階トイレ
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