Renovation Archives [006]
隈研吾建築都市設計事務所
●美術館[石蔵] 石の美術館

概要/SUMMARY

戦前に建てられた米を貯蔵していた石蔵3棟を再利用して、石を素材とするアートやクラフトの展示空間として再生させるプロジェクトである。
地元の白井石材の白井伸雄氏が廃虚となっていたこの石蔵を何とかしたいという思いからこの計画は始まった。
設計は隈研吾氏。3棟の既存の石蔵は「エントランスホール」「茶室」「石蔵ギャラリー」として活用され、新たに「石と水のギャラリー」「石と光のギャラリー」「石の学習室」の3棟の建物をつくった。展示が石をテーマとしているだけではなく、地元の石である芦野石を実験的に使用し、石という素材の可能性を追求している。

右2点撮影=藤塚光政

写真左=リノベーション前外観
写真右=
リノベーション後外観
設計概要
主要用途=美術館
構造=組積造 鉄骨造
規模=地上1階
敷地面積=1382.60平米
建築面積=532.91平米
延床面積=527.57平米(新築部分:280.86平米 改修部分:246.71平米)
竣工=2000年6月
所在地=栃木県那須町
設計=隈研吾建築都市設計事務所
構造設計=中田捷夫研究室
設備設計=エム・アイ設備コンサルタント
施工=石原工務店 白井石材

外観夜景
プロセス/PROCESS

ともにリノベーション前外観

既存の石蔵の周囲に低い壁をつくることによって、石蔵と合わせてひと続きのシークエンスが形成されるというプランニング。
壁には大きく2種類ある。ひとつは石のルーバーで構成されてる壁。石を40×120mmの断面形状に切断することによってつくられている。もうひとつは、組積造の壁面からいくつかのユニットを抜きとることによって形成されたポーラス(多孔質)な壁。どちらの壁の場合も、素材は既存の石蔵と同じ地元の芦野石であり、同一の素材がいかにも多様なものとして出現するようにしている。
また、重く閉じた空間をつくると考えられていた石という素材で、逆に軽く開かれた空間をつくり出すことを試みている。
ユニットのサイズ、積み方、開口のパターンを多様にし、軽やかで風通しのよいものに変えている。開口には白大理石(ビアンコ・カラーラ)を6mm厚まで薄くしたものをはめ込み、内部に光が透過するように操作している。さらに、芦野石や白河石は高温で焼くことによって色が微妙に変化するという性質をもつので、茶室部分に焼成温度の異なる石の小柱を既存の壁面の内側に介入させている。


平面図
(1)エントランスホール
(2)ショップ
(3)石と光のギャラリー
(4)茶室
(5)石と水のギャラリー
(6)石蔵ギャラリー
(7)石の学習室

石と光のギャラリー石壁断面詳細図





工事中の写真
構造に影響しない部分を抜き取ってヴォイドとし、厚さ50mm、
奥行き300mmの芦野石をモルタルで積み上げている。面落ちの材も組み合わせてパターンをつくった。各壁面の天井部の辺同士は鉄骨で補強されている

積み上がった石壁
積み方、開口のパターンは様々。
左手前は「石と光のギャラリー」の壁面
撮影=藤塚光政


石と水のギャラリー内観
撮影=藤塚光政

石と水のギャラリーから石蔵ギャラリーを見る
撮影=藤塚光政


エントランスホール
リノベーション前内観

エントランスホール
リノベーション後内観
壁の内側に組んだ木のフレームは、地震のとき倒壊して屋根が落ちるのを防ぐための支えとなっている

エントランスホール
リノベーション後外観
新しく数カ所の開口が開けられている


テラス
水盤に映る石蔵
水の中には玉石が敷き詰められている


エントランスホール開口部
新旧の石が衝突する


石蔵ギャラリ−
リノベーション前内観

石蔵ギャラリ−
エントランスホールと同様に木のフレームが組まれている


石蔵ギャラリ−内観

石蔵ギャラリ−外観

工事中の茶室

茶室
異なる焼成温度でつくられた色調の違う石柱が並べられている

茶室外観

茶室内部から開口部を見る

石のルーバー

石のルーバー詳細
桟を差し込む溝はすべて職人の手作業で刻まれている

石のルーバー内部
左壁面には異なる焼成温度でつくられた色調の違う石が様々な仕上げで展示されている
■コメント
「澄んだ空気が流れている」。最初にこの建築を体験したときの印象だ。 既存の建物には少なからず過去の記憶が重い空気となって存在する。ましてや、石という重い素材に囲まれているわけだから、既存の敷地には息が詰まるほどの重苦しさがあったはずだ。にもかかわらず、この建築には重苦しさがない。空気が澄んでいるのだ。
古い建物をリノベーションする場合、その重い空気も含めた素材の塊をどう処理するのかを考えなければならない。過去の歴史が刻まれた素材をいかに加工するか。建築家には残すべき素材を選択し、余分なものはバッサリ切り取る判断力が必要とされる。この建築では既存の建物を加工してから時間が経過した素材としてとらえることで、非常に明解な取捨選択が行なわれている。焼成温度によって色が異なるのと同じように、時間経過によって異なる石。この建築ではそれらの石をすべて等価な素材としてとらえている。それらの素材以外の不必要なものはすべて切り取る潔さが、この澄んだ空間を生み出しているのではないか。(大家健史)
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