Renovation Archives [003-01]
青木茂建築工房[青木茂]
●多世代交流施設のリファイン

概要/SUMMARY

写真左=リノベーション前外観
写真右=
リノベーション後外観
設計概要
所在地=福岡県八女市大字高塚191
主要用途=多世代交流施設+デイケアセンター
建築=青木茂建築工房
監理=青木茂建築工房
施工=西松・大坪特定建設工事共同企業体
空調・衛生=岩本柱設
電気=川渡電工
面積
敷地面積=5154.84平米
建築面積=11034.86平米
延べ床面秘=1366.62平米
1階床面積=1034.86平米
2階床面積=331.77平米
階数=地上2階
構造
鉄筋コンクリート造(一部鉄骨造)
杭・基礎直接基礎
設計期間=2000年5月-2000年9月
施工期間=2000年10月-2001年3月
リファイン建築/空間と職能のリファイン
この八女市名世代交流館「共生の森」においてなされた「リファイン」は、
1、不要なエレメントを取り除く
2、骨格を補強する、機能を補完する
3、新しい空間エレメントを付加する
というプロセスを経由した。
デザイン的には古いものと新しいものとの「衝突」のエネルギーが強く感じられる「リファイン建築」だ(実はこの「衝突」は、建築の「現場」だけでなく、地域の「記憶」と新しい「構想」との間にも仕組まれている)。
この「衝突」をきちんと起こすために、プロセスのなかで「残すものと取り去るもの」を峻別する1のフェーズが実は重要になる。通常のリノベーションのスタートラインが「いま見えているもの」から始まる場合が多く、もちろんそのことはリノベーションという行為が広く開かれる可能性につながることとして否定するものでもないのことだが、この「リファイン建築」において、担わされている「次代への構想」の射程のためには、「今日に見えるもの」からさらに活用すべきリソースを削りだすことが要請されたのだ。この「リソースの削り出し」という行為は、まさに経験を有した「建築家」の目があって初めてできることであり、単なる思いつきや勘ではなく、観察、判断、分析、決断を短時間に間違いなく行なうことが要請される。特に公共の工事ということは、背後に地域のコミュニティが存在しているという責任も背負うことになるなかで、あいまいな部分をどれだけ少なくできるかということが勝負になってくる。
ただ建ってある建物は、実はブラックボックスである。30年もあればそれこそ開けて見なけれぱわからない事情がそれぞれにあるということが多い。しかし、それに触れないままおいておくのでは、そこに実は隠れている可能性を次代にきちんと接続することができないかもしれない。リソースを埋もれたままにしてしまうかもしれない。このクローズドな既存の建物を「リソースの削り出し」によってオープンなものにすること、それが「リファイン建築」の必要条件といえるだろう。
和風の空気を感じ取った建築家によって新たにこのまちに建てられた屏風と既存の構造体の間につくられた多目的ホールによって、かつての中廊下構成の暗い共用スペースが、光に対して開かれることになった。重いひさしや手すりを取り除き、サッシュやルーバーを付加することによって軽やかになった建築は、同じ場所でかつての記憶を引き継ぎつつ、新たな世代への希望をのせた船だと言えるだろう。
施工プロセス/PROCESS
上・右:調査・計画・解体・撤去
既存の建築を調査し、その実力、また計画の主旨を考え合わせ、どこまでを残すのかの方針を決定する
解体は、残す部分は後に活用されるという原則の中で行なわれるため、消滅を目的とする通常の解体とはまた違うレベルの行為となる。解体の中でも構造その他の実力の評価、検討は並行して行なわれる
右:補強・補完解体までの段階で計測された建物の実力に応じて、構造の補強、設備の補完を行なう。「残されたもの」の実力をこれからの時間にむけてアップしてやることになる
左・下:増築自然、社会、経済的な環境と既存建物の存在論のギャップこそが、この「リファイン」の動機であるとするならぱ、それを調停するのがこの増築という行為である。そこにギャップがなければ、たんなる改修でかまわない。求められている「それ以上の何か」に応えるべく新たな空間、新たな皮膜、新たな機能が既存の構造にぶつけられ、そこに発生したエネルギーが、周囲の地域へと波及していくことになる。
竣工/COMPLETION
北側ファサード
屏風をイメージした曲面はガルバリウム鋼板
内部多目的ホール
2層吹き抜けに木製ルーバー越しの光が差し込む
南側テラス
既存建物に接続する濡れ縁
多目的ホール内部
扇風の内部は木の壁面、足元がガラスで外部の緑を楽しむ
■コメント
青木氏のリファイン建築への試行は、1987年の鶴見町旧海軍防備衛所跡地資料館のリノベーションに始まっている。当時、海外の建築を見て回って「なぜこういうものが日本にないのだろう」という素朴な動機から始めたという。古いものへの敬意とそれを乗り越えるためのエネルギーとの合体というコンセプトはすでにこのプロジェクトの中に存在している。
「リファイン建築」という言葉について、これは大きなくくりで言えぱ「リノベーション」ということになろうが、敢えて「リファイン」と名乗ることには青木茂の意思が込められていると思われる。それは「再び+輝かせる」という意思だ。
かつて町をつくっていた、あるいは人が世話になった施設も、環境(自然だけでなく経済、社会も含めて)が変化することによって、存在論的な位置がうまく取れなくなってしまう事例が、ひとくくりに「老朽化」と呼ばれている。この「老朽化」という言葉の不正確さに対して、青木茂の闘志が向けられているように思う。かつて輝いていた建物の価値を取り戻す、あるいは自分が手を加えることによってさらに輝かせてみせるという意思、それはまさに青木氏の「建築家」としてのプライドの証明なのではないだろうか。(新堀)
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