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FORUM No.03(2006.10.12)

吉池基泰
住生活エージェント型ビジネスの役割と展開

LECTURE04

住宅設備産業への示唆

吉池──アメリカの例を見ますと、不動産の仲介では日本の30〜40倍の中古物件が流通していると言われます。最近のデータでは日本は17.5万戸ぐらいの中古物件が流通していると言われるのに対して、アメリカはその数十倍の物件が流通しています。数十倍流通している物件の7割以上が住宅・建物検査(インスペクション)をインスペクターと言われる検査会社がやっています。ただ日本に比べると費用が安くて300〜500ドルです。アメリカの場合は目視で簡単な検査をやることも一般的で、本当に難しい検査をやる場合は専門業者に頼みます。
買い主がインスペクションを頼む場合と売り主が頼む場合の両方があります。どちらでもかまわないのですが、売り主が頼む場合は自分の売る物件が本当にちゃんとしているかどうかをチェックしてもらうために行い、買い手の場合は売り主に対して「これはおかしいのではないか、もう少し値段を下げてくれ」と交渉する材料に使うためなどに行ないます。アメリカは中古住宅の流通が盛んで、日本に比べてインスペクションやバイヤーズエージェントと言われるエージェントが市場で活躍している産業構造になっています。
日本でもエージェントが活躍する場面が広がっています。ハウスメーカーやディベロッパーも積極的に第三者検査を入れるようになってきています。エージェントを活用して、工事が第三者から見ても心配ないということを消費者に示そうとしているのです。それから、ハウスメーカーの一部は消費者向けのセミナーもエージェントにお願いして行なっています。つまり、自分たちはちゃんとやっていると証明するためにエージェントを活用することが増えてきています。また、「価格の妥当性を高めていく」、あるいは「欠陥住宅を掴まない」という消費者のニーズに答えるためにこういうエージェントの人たちに頑張ってもらおうと、経済産業省は住生活エージェントの普及に力を入れています。住生活エージェントを普及させることで業界の変革に寄与するという発想です。
繰り返しになりますが、「住生活エージェントの定義」は供給者と生活者の間に立って専門的な知見を基礎として公正中立な立場からサービスを行なうというものです。ここで注意していただきたいのはクレーマーの代表ではないということです。供給者側の立場もちゃんと考えるのですが、どちらかというと消費者側の立場が弱いので「消費者エージェント」という呼び方をしてきました。両者の取引が円滑に、妥当に行なわれるように第三者として配慮することが基本的な理念なので、公正中立という言葉を使っています。
「住生活エージェントが提供するサービス」は第三者的情報提供に始まって、図面・見積のチェック、建物の検査等々です。
住生活エージェントガイドラインが作られた理由は、エージェントの規律をきっちりつくる必要があったからです。ウィークエンドホームズにしてもさくら事務所にしても、みなさんほとんど名前をご存じないと思います。つまり消費者にとってブランドがないのです。なかには、本当に頼んで大丈夫なのと思える業者も数多くいるでしょう。そこで、規律ある行動をしているエージェントを増やすためにガイドラインをつくったわけです。そういう意味で、基本的に法的なことは守りましょうとガイドしていると同時に、業務については責任や範囲を明確にしましょうといった行動基準を挙げています。なかでも大事なことは情報開示です。消費者の立場で考えたときに、住生活エージェントのサービスを使いたいと思っても、本当に信頼していいかどうかはわからないので、信頼できるかどうかを判断するためには、情報の開示が必要です。情報開示の項目として4点挙げています。ひとつは「業務の範囲」、どこまでの業務を範囲としているのか、つまり例えば、建物の検査だけをやるのか、検査結果に基づいた保証までやってくれるのかどうかです。それからサービスの「質」です。どういう専門家が検査、コンサルティングしているかなどを明記することです。それから「リスク対応」です。きちんと契約で決められた業務が行なわれていなかった場合にどのような保証、アフターサポートをしてくれるのかを明示することです。それから「報酬」についてです。価格が曖昧なところが多いので、報酬額を明確に示すことです。業務の範囲と報酬額が明確になっていれば消費者は判断できます。それから4番目は非常に重要なポイントなのですが、供給者との経済的関係について情報開示することです。例えば、検査会社がリフォーム会社と利害関係にある場合、検査をしてもリフォーム工事に都合のよい結果を出すことがありうるわけです。つまり検査会社と工事会社が繋がっている可能性もあるので、経済的関係がないかどうか、子会社ではないかどうかを明示することもひとつの指標になります。あるいは供給側からフィーをもらってないかも一つの指標になると思います。ただし、供給側と経済的関係があるからといって必ずしもエージェントではないとは言えません[fig.4─6]

fig.4[拡大]
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リクルートが始めた「ナビカウンター」というサービスがあります。やっていることは、消費者に合った工務店を紹介するビジネスで、対面でやっています。リクルートというとネットで情報提供するというイメージがありますが、対面ビジネスを始めています。ここの場合、消費者は無料でアドバイスを受けられます。消費者が窓口に相談に行くと、こういう工務店に頼んだらよいのではないですかと診断してくれ、何社か紹介してくれます。紹介された工務店は一定のフィーをリクルートに払い、お客さんと契約した工務店はもっと多くのフィーをリクルートに払います。工務店にとっては広告費の代わりと考えてください。モデルハウスの展示場で広告すると、一人の契約を取るのに何百万円というコストが掛かるので、百万円ぐらいの費用ならと判断をする工務店はたくさんあります。リクルートは供給側からフィーをもらっているのでエージェントではないということになりそうですが、そうではないのです。なぜならば、消費者から無料でコンサルサービスを提供している理由を聞かれた場合、リクルートは工務店からお金をもらっていることやその金額もきちんと言うからです。リクルートは、お金の取り方を明示し、業者紹介という業務の範囲において第三者の立場を貫いています。信頼される住生活エージェントたるためには情報開示をきちんとやり、業務の範囲を明確にすることです。私は消費者に、まず情報開示がされているかどうか調べてください、されてない場合は業務範囲や報酬についてきちんと質問してください、答えられない場合はやめてください、と言っています。
今後、建材・設備メーカーが自分達でエージェント機能を持つという選択肢もあるでしょう。進んでいるメーカーでは、ショールームやホームページで第三者性を強調した情報提供を始めているところもあります。自社の設備だけではなくて、提携会社の設備まで含めて提案をしていくということも必要でしょう。系列工事店の中からよい工事店を評価してすすめるサービスを積極的に推進するという考え方もあるでしょう。価格で評価するか、品質で評価するか、工事スピードで評価するか、いろいろな評価軸があると思いますけれど、そういったところをきっちり評価し、その情報を消費者に伝えることも大切でしょう。

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