INAX住宅産業フォーラム INAXE´tE´HA°[E´a^E´A¨E´VE´a¨A°[E´Y
FORUM No.01 (2006.6.19)

野辺公一
市場における工務店という存在──地域マスター工務店登録運動の軌跡

SESSION04

住み手の必要な情報とは

山本──先ほどwebの話がありましたが、情報提供の方法は今のところwebがベストとお考えなのでしょうか?

野辺──それはあくまで脳的な情報で、もうひとつ身体的情報が必要で、現場見学などをローテーションで繰り返しています。まともな工務店はそういうことをやりながら商品の説明をしていますが、それでトラブルを未然に防ぐ。デザインが問題になるのは最初だけ、住んで1年目までです。それよりは住み心地の善し悪しばかりです。だから差別化は入り口までだといつも言っています。出口では別のサービスの競争になります。

山本──例えば雑誌メディアで住宅の建主が情報を得ようとしても、そこで供給されている情報はまさに建ったばかりの状態の情報です。それ以降の情報は雑誌というメディアでは伝えにくいところがあって、そういう意味ではライブで情報を伝えられるwebの有効性があると思います。その有効性を消費者側も気づきつつある。そしてそれはまた、住宅や家族といったものの本質にアプローチしようという姿勢でもあります。こちらも追いつかれないようにしなければいけないと思います。

松井──最初はデザインから入って、最後は住み心地になるのは、要するにニーズがどんどん変わっていくわけですか。

野辺──比較対象すべきもののなかから選んでしまうと、もうそれ以外の選択はないのです。つまり例えば最初は、松村さんと山本さんのどちらに頼もうかと考え、最終的に松村さんを選んだときに、もうよそを見てもしょうがない。そうするとその後はどれだけ充実した打ち合わせができるか、ということが欲求になってきます。それを僕は「私だけを見て欲求」と言っていますが、「私だけに注目して、私の言うことを聞いてください」という欲求がおこってきます。選んだ松村さんが親身になってくれないと「しまった、この選択は間違った」という気持ちが残り、不満が残ってそれがクレームになります。

山本──今おっしゃったストーリーだと、消費という視点で言うと消費行動は、一番最初に建築家を選んだところで完了している。家が建ってから、住んでからの評価とはあまり連動していないことになりますね。

野辺──やはり次元が転換する。残るのは何かというと、この人を選んでよかったという反芻的な満足感で、家を引き渡してから1年くらい続きます。その後はどのようなプラニングをしたところで、道具や雑貨が散乱しますから、デザインは意味がありません。

松井──車の広告は、その車を買った人が一番よく見るという行動と同じです。広告を見て、自分のチョイスがいかに妥当だったかを確認するわけです。それをかなり丁寧にやられているというお話ですが、それがリフォームなどに結びついたり、次なるプロフィットを得る機会に繋がるというシナリオなのでしょうか。

野辺──それは後の段階です。それを引き渡してしまうと、家を守るという考えになります。その時にメーカー的には半年、1年、3年、5年、10年がチェックのタイミングですが、工務店は毎年です。20年間毎年チェックするとリフォームは発生する。リフォームとは管理するプロセスで発生するもので、発作的に発生するものではありません。ところが今まで工務店がいなくなったり定期点検にこなかったりするから別のところに頼んでいます。まともな工務店は管理するプロセスで、リフォームを受注しています。僕らは「再築」と呼んでいますが、1,000万から2,000万くらいのリフォーム工事を受注しています。本来そこに建築家がいるとよいのですが。

山本──リフォームの仕事はよく来るのですが、例えば設計料の話になると、リフォームの時に新築と同じ料率で「10パーセントの6万円で設計してもらえますか」とか言われると非常に厳しい(笑)。だからリフォームが定期的におこるというサイクルに乗ったとしても設計業を成立させるのはなかなか難しい。

野辺──建築家が複数の工務店の座付き作者のような役割でやる可能性はあります。しかも例えば山本さんの考えた部品の使われ方が共通化していくと、工務店のネットワークとしても有望になっていきます。

PREVIOUS | NEXT