INAX住宅産業フォーラム INAXE´tE´HA°[E´a^E´A¨E´VE´a¨A°[E´Y
FORUM No.01 (2006.6.19)

野辺公一
市場における工務店という存在──地域マスター工務店登録運動の軌跡

LECTURE01

司会──2年間にわたって「リノベーション・フォーラム」を開催してきましたが、今回から「住宅産業フォーラム」を開催します。本フォーラムでは住宅産業の新たな展開の方向を指し示すキーワードとして「生活空間創造」を挙げ、関連する産業や技術の新しい動き、将来の方向性について考えていきます。
本日のゲスト講師の野辺公一先生は住宅系シンクタンク、株式会社オプコード研究所を設立され、木造住宅の生産システムや生産組織の調査・分析、また住宅や住宅部品の商品開発のコンサルティングを行なわれています。
レギュラー講師は、東京大学大学院工学系研究科助教授の松村秀一先生、一橋大学商学研究科助教授の松井剛先生、建築家の山本想太郎先生です。
まず野辺先生よりレクチャーをお願いいたします。

野辺──本日は、松村先生の方から僕らがやっているホームページを使った工務店の経営品質開示運動である「地域マスター工務店登録運動」を足掛かりに工務店と住宅市場について話をして欲しい、という要望がありましたので、それらを絡めながらお話を進めさせていただきます。
「地域マスター工務店登録運動」についてはホームページをご覧いただければいいのですが、住まい手が工務店を選ぶ時に、同一の基準で工務店を比較できるような情報開示が必要ではないか、ということから、始まった運動です。
また、工務店も積極的に住まい手からの比較に自社が耐えうる形での研鑽を積み、工務店業界全体のイメージの向上と質的な向上を狙う、といった意味合いもありました。いずれにしても、工務店を組織化する、という意図は全くありません。むしろ、顧客に対して、どのように自らを開いていくのか、という課題に対応した運動だとお考えいただければ、と思います。そして、その結果として「マスター工務店」である、という誇り(積極的に自らの経営品質を開示しうる能力を持つ、ということ)と、ゆるやかな連帯性みたいなものが醸成できると、工務店業界のポテンシャルをあげることが可能となるだろう、ということでやっているわけです。

野辺公一氏

当初僕らがマスター工務店運動を検討するときに、工務店が所属する既存の団体や組織というのはどうなっているのだろうか、ということで描いたのが、図です[fig.1-01]。そうすると、工務店の団体としては、全国中小建築工事業団体連合会(全建連)があり、会員は約73,000社と公称しています。それと全国建設労働組合総連合(全建総連)があり、会員は80万者で、工務店系はおそらく20パーセント程度と思われます(本来は建設労働者の組合ですが、その成り立ちの経緯から工務店経営者も多数加入しています)。現在、この二つは健康保険組合といった性質が強くなっていますが、国などの委員会では工務店業界の代表ということで、委員が送りこまれたりしています。
次に住宅工法別の団体が存在します。プレハブ建築協会、日本ツーバイフォー建築協会日本木造住宅産業協会が存在します。
また全建連も「ちきゅう住宅」(全建連に加盟する工務店が建設する地域木造優良住宅)を介して、脱健康保健組合、まっとうな工務店間のゆるやかな連合組織づくりを考え始めています。この「ちきゅう住宅」は、住宅保証機構の特定団体として、瑕疵担保保健の料率特典を受けています。そのほか(財)住宅保証機構という住宅の瑕疵担保保証を行なう財団に登録している工務店が43,000社ほどあります。
こうした組織と、各地に、事業共同組合、それから、工務店組織化ビジネスと僕は呼んでいますが、FC(フランチャイズ・グループ)、VC(ボランタリーチェーン・グループ)などを含めて、さまざまな工務店団体、グループが存在しています。こうした既存の団体や組織に加入しているとか、していないとは関係なく、顧客に対して自らの存在を開く、そしてそうした工務店同士がゆるやかに連携していく、とそんなことを考えたわけです。
それで僕らは、全国の工務店から少なくとも1万社くらいが集まって、優秀な家づくり・そして家守りを行なう工務店連合のようなものが考えられないだろうか、と構想しました。

fig.1-01

圧倒的非対称の構築

アメリカにはNAHB(全米ホームビルダーズ協会)が存在します[fig.1-02]。ちなみに「マスター工務店」のサイトではwebマガジン「住宅考房」というのを毎月配信しています。その当初は、NAHBづくりをめざそうということで、藤澤好一先生に「NAHB of JAPANへの道」を連載していただきました。そこで、先生が詳しくNAHBについて概要を書かれていますが、NAHBは1942年に2つのビルダー組織の合併によって誕生しましたが、当時の会員数は1,100人でした。1995年で会員数が13万3千人で、現在は全国800の支部で構成され、会員数は約21万人強となっています。そのうち3分の1がホームビルダーもしくはリモデラーです。残り約14万人が関連の資材のデイストレビューターやモゲージブローカーなどの金融サービス関係です。つまりビルダーを中心にしながら、周辺がそれを支援(あるいは共存)するようなシステムが存在しているわけです。NAHBメンバービルダーの新設住宅着工に占めるシェアは高く、約80パーセントのシェアと言われています。NAHBは教育訓練をはじめ多様なメニューと活動のシステムをもっていますが、それだけのパワーがあるので、総会にはブッシュ大統領が挨拶に来たりします。ひとつは、共和党の大きな票田でもあるからですが。

fig.1-02

ではなぜ日本にNAHBができないのかということになります。先にみたように既存の団体がいろいろあります。日本の工務店の団体には戦前につくられたものと戦後のものがあります。戦前には「太子講」という工務店の団体があり──「結」(ゆい、地域社会の家同士で行なわれる労力交換)のような活動をしていました──、そこに工務店の近代化という問題が入ってきて、健康保険等を導入するということで昭和30年代に建設国保(全国建設工事国民健康保険組合)を中心とした団体ができ、そうした処遇改善や経営近代化、ということがまず当初の主題であったわけです。
簡単に言うとそこからいろいろ始まっていくわけですが、NAHBについて考えたときに、ビルダーの存在としての内部的な対称性をある意味で保証している。これはとても大きな意味を持ちます。まずNAHBという団体がある、そこに属しているということ自体がビルダーの信用力、誇り、要するにこの産業に従事する者の社会的な位置づけというものを作り出しているわけです。ところが日本はどうもそうではない。もともと、アメリカと違い戸建て住宅市場を中心として工務店等は存在し、しかも分散的な受注を受ける注文住宅が中心です。
そうした市場構造ですから、白兵戦の市場なんです。従って、顧客をどのように自分の土俵に連れてくるのか、ということが大きな問題です。受注ということが永遠の課題なんです。当然ですが。
そういう意味では、日本的な市場では圧倒的非対称というものの構築を考えることがまず最初にある[fig.1-03]。市場規模が縮小すればさらにそこが課題となる。

fig.1-03

この言葉を一番有名にしたのは、米国国防長官ラムズフェルドがイラクを攻撃する際に、米国は軍事的な圧倒的非対称を構築して、他国の軍事的圧力を解体せしめると言っていました。そういう意味での圧倒的非対称が、市場の中でも起きてきたわけです。その一方で軍事的、経済的なグローバリズムを解体して、対称性世界を構築しようという潮流も存在しますが、それはほんのわずかであり、夢物語であると言われている状況です。 そこで僕らは非対称性、対称性ということを住宅市場の中で意識していったわけです。まず住宅業界での対称性世界は可能なのかと考えました。大手住宅メーカーのコストの半分は圧倒的な非対称性の世界を構築するためのお金であると言えます。工務店の存在もまた、非対称性世界の構築が生き残り策として模索されている。 しかし、大手やFCとの違いは、工務店は「個」としての関係性を地域の中で築くことが事業的な基盤であり、量や数の達成が工務店的な自己実現ではないことをよく知っておいて下さい。 まず工務店という存在の対称性を拡張していくことはできないだろうか。つまり「工務店」という概念を社会的な像(イメージ)としてきちんとその業態を確立させてみたい、ということがあります。工務店という「個」の関係性を軸とする地域存在の対称性を拡張することによって、工務店全体のポテンシャルを上げることができないかと考えました。   その対称性の世界を構築したうえで、その中で非対称性の選択を住まい手に委ねればよいという議論を積み重ねました。

戸建て市場の全体的俯瞰

戸建て市場を全体的に俯瞰すると、「プレハブ系」というのが存在します。これは、大手住宅メーカーと呼ばれる積水ハウス、大和ハウス、ミサワホーム、ナショナル住宅産業などです。次に「全国・広域系」が存在し、住友林業、三井ホーム、一条工務店などです。さらに90年代から急速に力をつけてきたのがパワービルダーと呼ばれているものです。パワービルダーはバブル崩壊によって企業やその他の、遊休地、損切りで出た土地を巧みに仕入れていくという、分譲住宅屋です。それともうひとつは昔から地域ビルダーと呼ばれているグループが数多く存在します。これは大規模なビルダーでは富士ハウス、新昭和、ポラテックなどがあります。ポラテックは今や住宅を売るよりもプレカット部材を売るという部品メーカーとしての側面も強く持っています。 もうひとつ、新昭和などが典型的ですが、自分たちでコストを落とすための手法をビジネスモデルの形で「商品化」し、クレバリーホームなどのフランチャイズをつくり始めたりしています。 こうした仕掛けは、70年代頃からぽつり、ぽつりと存在して、最初は協同組合系でできていたのですが、今でもそうですがローコストを売りにするものが非常に多かった。90年代まではほとんど静岡や九州など南のほうで発生して、台風のように北上して日本海の方に消えていくというパターンを繰り返していたのですが、最近は、熱帯低気圧として残っているFCもいくつもあります(笑)。それからタマホームなどローコスト住宅フランチャイジーはどんどん生まれているわけですね。 こうしたFCに加盟している工務店はほんの一部です。工務店は実はVCに加盟している例が多いです。つまり自社の看板を外さずにある種のビジネスサポートを受ける、という形です。VCは建材メーカーも工務店組織化の手法として随分チャレンジしました。INAXもやりましたしね。FCに入る工務店はほとんどなく、FCに入るのは地場ゼネコンや不動産です。地場ゼネコンはハコモノ行政がアウトになって、公共のものをほとんどとれなくなりました。談合も摘発されるのでなかなかいい値でとれない。そこで隣の産業がおいしく見え、住宅事業に移ります。その場合に住宅事業の粗利益の高さという甘い密に誘われるように加入します。しかも、顧客折衝や営業スタイル、工程管理や見積、さらには資材購入の方法などをよく知らないことからフランチャイズに加盟する場合が圧倒的に多い。 タマホームはもともと九州の地場ゼネコンが、住宅をやりたくて「アキュラネット」に参加します。アキュラネットで指導していたのがナックというコンサルの上場会社で、ナックと組んでタマホームをつくります。タマホームのFCに入ってくるのも地場ゼネコン系や不動産系が多いと思います。

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